62 魔物の村
一部が朽ち果て崩れかけている建物。村全体を包む異様な臭い。
メモに書かれていた取引先の一つである村は、不気味な雰囲気が充満していた。
「……明らかに怪しいな」
この状況に、サザンは思わず声を漏らす。
サザンはひとまず情報を得るために村人を探したが一人も見当たらなかった。そのため人がいそうな建物を探し始めたのだった。
サザンが村の中を少し歩いて回ると、奥の方にこの村には明らかに不釣り合いな程に豪華絢爛な教会が見えてくる。
「……星龍教会か」
そんな教会を建てるのは星龍教会しかない。と、サザンはそう考えた。実際、装飾の雰囲気はサザンが王国で見たものと一致している。この教会が星龍教会のものと考えてまず間違いなかった。
サザンが教会に近づいて行くと、近くに村人と思われる人を視認することが出来た。何か情報を得られるかもしれないと話を聞こうとするサザンだったが……。
「あの……少しお話が」
「おや貴方は、外からのお客様ですか。もしや星龍教への入信を?」
「いえそういう訳では……」
「何と! ですが話を聞いていただければきっと星龍様の偉大さに思わず入信してしまうことでしょう!」
村人はサザンの話を聞かずぐいぐいと無理やりに教会の中へと入れようとする。が、サザンはそれを拒んだ。その瞬間、村人の様子が豹変したのだった。
「星龍様を否定するのか……? ああ……なんと罰当たりな……ああぁぁああああぁ!!」
村人は突如発狂し走り去ってしまう。
「な、なんだったんだ……?」
サザンは村人の突然の豹変に気味の悪さを感じつつ、慎重に教会の中へと入った。
中では村人が列を成して祈りを捧げていた。それだけならば特に気にすることも無かったのだが、その直後村人が謎の液体を飲まされているところをサザンは目撃してしまった。
「……あれは!」
思い当たる節がある……どころの騒ぎでは無い。サザンがこの村にやって来た目的そのものだった。
「それを飲んでは駄目だ……!」
サザンは叫ぶ。しかし村人に飲むのを止める気配はない。
「くくく……無駄ですよ」
「何!?」
教会の奥に立っている司祭は笑いながらそう言った。
「おい、その薬は危険だ……!」
「何をする! この薬があれば星龍様の加護を受けられるんだ!」
サザンは村人を説得しようと試みるが、妄信的に星龍を崇める村人には何を言っても無駄だった。
「さあ、今こそ星龍様へすべてを捧げる時!!」
「うぉぉぉ星龍様!! うぉぉぉ……ああぁがっっああぁ」
司祭の掛け声とともに、その場にいた村人たちが魔物化し始める。
肉が弾け、鱗が生える者。体毛が生え、人型を保てなくなる者。獣型や爬虫類型、蟲型や植物型などおおよそ元が人だったとは思えないようなクリーチャーたちに変貌していく。
「痛い……痛いイタイイタイイタイ……」
「助けて……タスケテセイリュウサマ……」
「こんな状態になってもまだ星龍に……いや、星龍しか頼れるものが無いのか……」
苦痛に悶えながらも村人たちは星龍に助けを求め続ける。だが、星龍が彼らを助けることは無い。星龍にそのような力は無いし、何より今この場にいるサザンこそが彼らの崇める星龍そのものなのだから。
「……せめて、少しでも楽に……彼らに安らかな死を……」
サザンは懐からナイフを取り出し、即死魔法をエンチャントする。そして襲い掛かって来た数秒前まで村人だったモノをなぎ倒していく。
「やはり報告通りの厄介な力を持っているようですね。だがそれも私の軍隊の前には無力」
「なに? ……うぉ!?」
地響きと共に教会の床が崩れ落ち、サザンはそのまま落ちて行く。硬い地面に激突したサザンだが、サザンは無傷であり地面の方にサザン型の穴が開く。
「ここは……うっ、酷い臭いだな」
教会の地下は肉の腐ったような悪臭に包まれていた。耐えかねたサザンは自身に耐性魔法をエンチャントする。
ぐちゅ……ずびゅ……
「何だ? 何かいるのか……?」
奥から気味の悪い音が聞こえてくる。サザンはその音のする方へと向かって行った。近づくほどに酷くなる悪臭。それに合わせてサザンは耐性魔法を強化していく。
「これは……!?」
サザンの目の前に姿を現した音の正体。それは巨大な肉の塊。肌は無く、薄皮だけが何とか形を維持させている。それでも所々肉の破れた箇所があり、謎の液体があふれ出ている。
「どうです? 私の作り出したマザーは」
「マザー?」
司祭はその肉の塊をマザーと呼んだ。そして次の瞬間、サザンはこの肉塊にその名が付けられた意味を理解することになる。
じゅぼっ……どぅるん……
「っ!?」
マザーは、己の肉体から魔物の子を産み出したのだ。
「これぞ私の最高傑作。魔物を産み続ける魔物……それがマザーなのですよ。私はこのマザーを使い魔物の軍隊を作り上げた」
「いったい何のために……」
「王国を攻め落とすためですよ。私を除け者にした教団の輩を殲滅し、私が王国を乗っ取るのです」
「そんなことは……」
「させない……ですか? そうするのは結構。ですが既に魔物の軍隊は王国に向けて出発しています。今から追いかけるのは自由ですが、そうなればこのマザーからは魔物が生み出され続けるでしょうねぇ」
司祭はニタリと不快な笑みを浮かべながらそう語る。
「くっ……」
サザンは魔物の生成を止めるためにマザーを倒そうと動く。しかしマザーを守るように魔物たちが盾となるため、中々近づけない。
次々現れる魔物に即死魔法をエンチャントしたナイフを突き刺していくが、倒したそばから現れる魔物にジリ貧を強いられる。
「こうなったら龍の姿に……だが今ここで姿を戻せば地下が崩壊するかもしれない……!」
人化を解除して龍の姿に戻っても大丈夫かどうか辺りを確認するサザンは、その過程でマザーに人の手足のようなものが複数生えていることに気付く。
「っ……!」
「おや、気付きましたか」
「お前は先ほど、マザーを作ったと言ったな。その材料は……人か?」
「察しが良いですね。いや、バレバレでしたか。そう、あのマザーはこの村の少女たちの肉体を使って作られています。人の生殖能力を応用し、魔物を産み出しているのです。大変でしたよ。材料として使うためには生かしたまま改造する必要がありましたから」
サザンは司祭のその言葉を聞き、怒りを露わにする。地下が崩壊する可能性も、上の人たちの安否も、もはやどうでも良くなっていた。あるのは外道司祭への憎悪と怒り。
「お前は……この世界に存在してはいけない人間だ」
サザンは人化を解除して龍の姿になる。直後、司祭の元へ飛び鋭利な爪で引き裂こうとした。しかしサザンの攻撃は空を斬る。
「おお怖い怖い。遠隔魔法を使ったのは正解でしたね」
司祭は遠隔魔法を使い、映像と音声だけをサザンの前に見せていたのだった。
「……首を洗って待っていろ。お前は必ず殺す」
サザンは再度飛び上がり、地下の魔物を一掃した。そしてマザーにナイフを突き刺し、一撃でその生命活動を停止させた。
「せめて、君たちの死が安らかでありますように……」
マザーが動かなくなったことを確認し、サザンは村の上空へと飛び上がる。上から村の様子を見たサザンは再び怒りの表情を色濃くする。村中に魔物が跋扈していたのだ。外から魔物が入って来た形跡は無く、この魔物たちが元村人であることをサザンは直感的に理解する。
「……既に村人に薬を飲ませていたのか……」
サザンは村へと降り、魔物と化した村人たちを殺していく。極力苦痛を与えないように一撃で沈めて行く。
「……許さない」
サザンは既に王国へ出撃した魔物の軍隊を追いかけるのだった。




