47 箱庭
「サ……ン……サザ……」
リアの声が聞こえる。俺は、どうなったんだっけ……。
そうだ、あの男に撃ち抜かれて……!
「リア! 大丈夫か!? うぎっ!」
「うぁっ!」
寝ている俺の顔を覗き込んでいたリアにぶつかる。勢いよく起き上がったのが不味かったか。
「いたた……。サザン、起きたんだね」
「あ、ああ……。ぶつけちまって悪かった」
「いいの、私が不用意に近づいてたのも悪いから」
だんだん冷静になってきた。リアが妙な服を着ているのが気になるが、とりあえず無事で何よりだ。
次に気になるのはこの部屋。次元迷宮や機動迷宮と同じような素材で出来ている。どうやら俺は次元迷宮や機動迷宮と同じく緋色石で出来た建物の中にいるようだ。
……いや、なぜこの素材が緋色石だとわかるんだ? なんだ、この妙な感覚は。緋色石……オリハルコンをも超える強度を持つ鉱石。こんな情報見たことも聞いたことも無いはずだが……。なぜ俺は知らないはずの情報を知っている……?
「おや、目が冷めましたか」
部屋に入ってきたのはランと俺を撃ち抜いたあの男だった。
「お前……」
「落ちついてください。ランさんは生きていますから」
「何だと……」
男はタブレットを取り出し、俺に見せる。ああ、まただ。あの板がタブレットであるということが何故かわかる。
そのタブレットには故郷の村で暮らすランの姿があった。
「彼女には悪いのですが、サザン様についての記憶を消去した後、生き返らせました」
「生き返らせた?」
「詳しいことはホールで話しましょう」
俺は男に連れられ、大きめの部屋へと向かう。そこにはリアと同じような服を着たメルがいた。
「サザン! 起きたのね!」
「メルも無事だったんだな!」
「再開を喜ぶのも良いですが、まずはサザン様に全てを伝えるのが先です」
「そ、そうね」
メルはプロジェクターを使い空中に映像を映し出す。もう知らないはずの情報が出てくるのには慣れてきた。何も理解出来無いよりは良い。
「サザン……最初に聞いておくわ。今の貴方は……どっち?」
「……どっち……とは?」
「……やっぱり」
メルは神妙な顔つきでそう呟いた。今の俺の返答は不味かったのだろうか。
「それじゃあまずあの世界、箱庭についてはわかるわね」
「箱庭……?」
「わからないの……?」
さっきから知らないはずのことがわかったが、箱庭というものは今もわからないままだ。メルの様子からかなり重要な情報であることはわかるのだが、その内容が全くわからない。
「貴方が今までいたあの世界が箱庭なの。……思い出せないかしら?」
「待ってくれ、あの世界って……ここは違う世界なのか?」
「……どうなっているの。こっちに戻ったら記憶は戻るはず……」
「どうやら、何らかの理由であの世界に関する情報が抜け落ちているようですね。恐らくサザン様はあの世界で生まれたあの世界の人物だと思いこんでいるようです」
あの世界……今までいた世界のことか。そして俺は自分自身がその世界で生まれたと思いこんでいる……?
いや、確かに俺はあの世界で生まれて……あの世界で育って……。
「あのねサザン、落ちついて聞いてほしいの。貴方は私たちと同じく、精神だけをあの世界に飛ばしていたのよ」
「それって……メルとリアもあの世界の人間では無いのか……?」
「そう。私たちは外宇宙からの侵略者と戦うために結成されたレジスタンス組織の一員。それは貴方も同じなのよ」
外宇宙からの侵略者……そしてそれと戦うレジスタンス。駄目だ、何もわからない。
「……思い出せないのね」
俺は大事なことを忘れてしまっているらしいのだが、その後もメルは説明を続けてくれた。
あの世界は箱庭と呼ばれる魔法で作られた別の世界であり、外宇宙からの侵略者に対抗出来る英雄を作り出すためにあの世界を使っているらしい。
具体的にはレジスタンス組織の人間をあの世界に送り込み、外宇宙からの侵略者と戦える力を手に入れるようだ。精神だけをあの世界に飛ばし、あの世界の人間として過ごす内に強さを身につける。そうして外宇宙からの侵略者へと対抗する。
その際こちらの記憶は一旦無くなるらしく、俺はその特性によって一部の記憶を失ってしまっているようだ。
今このタイミングで俺をこちらの世界に連れ戻したのは、俺が緋砲龍の力に目覚め侵略者と戦えるようになったからだろう。
「聞きたいことがある。えっと………すまない、名前が思い出せないんだ」
「ああ、記憶が無いんでしたね。私はガルデです。それで、聞きたいこととは何でしょう」
「ガルデは、ランを生き返らせたと言っていたな。なら、ファルを……向こうでの俺の仲間を生き返らせては貰えないだろうか」
「……すみません、それは不可能です」
「どうして……」
ランを生き返らせたのにファルは無理なのか……理由を聞かなければ納得出来ない。理由を聞いたところで納得は出来ないかもしれないが。
「彼女は自爆によって体を失っています。いくら作り出された世界とは言え、外から何でも管理出来るというものでもありません。体を失ったものは生き返らせることが出来ないのです」
「……そうなのか」
確かにランは眉間を撃ち抜かれたため体は残っていた。それに対しファルは塵も残らず爆散してしまった。そうなってしまっては生き返らせることができない……あの世界がそう出来ているのなら、受け入れるしか無い。
俺が落胆していると、突然建物内に警報が鳴り響いた。明らかにただ事では無い。
「サザン様はまだ戦える状態では無いと言うのに……! ひとまず機械兵たちを出してください!」
ガルデの指令を受け、機械兵が大量に出撃していく。機械兵は次元迷宮の中で遭遇した魔物にそっくりだった。となると次元迷宮の中のものはこっちの世界から箱庭内に送ったものなのか。確かに技術力的に考えれば辻褄が合う。あの中で拾った物の名前も今ならわかる。それが何よりの証拠だ。
「駄目……能力が足りてないわ」
「そろそろ限界ですか」
映し出された映像を見ると、機械兵は侵略者に為すすべもなく破壊されている。これでは戦いというよりは蹂躙と言った方が良いだろう。
「やはりデオスは強化され続けていますね……」
「デオス……?」
「侵略者たちの総称です。最初の頃は小さなものばかりだったのですが、戦いを続けていく内に徐々に大きく強いものが現れるようになっていったのです。今ではギリギリ押し返すのがやっと……サザン様がこのタイミングで覚醒したのは嬉しい限りですが、記憶を失っている以上戦場に出すわけには……」
見れば明らかに苦戦しているというのがわかる。このままではそう遠くない内に押し切られてしまうだろう。
それならば、箱庭で英雄として覚醒したらしい俺が何をすべきかは明白だ。
「俺が出る」
「ですがサザン様はまだ……」
「戦いながら何か思い出すかもしれない。それに、記憶があろうがなかろうが、メルたちは俺が守らなければ行けないんだ」
「サザン様……。わかりました。ですがどうか無理はなさらず」
「ああ」
リアに出口へと案内され、俺は外宇宙からの侵略者……デオスの元へと向かうのだった。




