44 起動迷宮
次元迷宮での一件から数日が経った。相変わらず迷宮内からは謎の道具が持ち運ばれ続けているが、そのほとんどは使い方が良く分かっていないもので直接脅威になり得るものでは無かった。
しかしそんな中、今度は次元迷宮の一つが突如人型に変形し近隣の街を襲い始めたと言う報告が飛び込んできたのだ。優秀なSランク冒険者パーティを向かわせてはいるものの足止めにもならず、このままでは被害が拡大する一方だと言う。
そこで魔人討伐やルガレア王国防衛の実績を持っている俺の元に直接依頼がやって来たのだ。別に受ける義務は無いのだが、それでもこのまま放っておけば俺の故郷だっていつかは襲われるかもしれないと考えると今の内に手を打っておくのも悪くは無いだろう。
こうして俺は『起動迷宮』と呼ばれたその人型ダンジョンの討伐依頼を受けたのだった。
場所はルガレア王国より遥か南方の海のど真ん中に浮かぶ島国、ローラ諸島。
「これは……何とも大きな湖であるな」
「ファルちゃんもしかして海に行ったことないの?」
「海……?」
どうやらファルは初めて海を見たらしく、その広大さに感動しているようだった。
内陸の小さな村に生まれ、その後ダンジョン内に幽閉されたファルは海を知らなくても無理はない。
「せっかくだから少し遊んでいこうよ!」
「リア、俺たちは遊びに来たわけじゃ……」
「せっかくの海なんだよ!? それにファルちゃんも初めての海なんだからさ!」
「まあ少しくらい良いじゃないか」
どうやら俺以外には遊びムードが漂っていたので、仕方が無く海で少し遊んでいくことにした。
奇麗な海を観光地として押し出しているのか、水着やタオルなど必要なものは海岸沿いの店で一通り揃った。
「ねえ、ファルちゃんの水着可愛いよね!」
「これは少し、露出が多すぎるのでは無いか?」
リアに連れられファルは俺に水着姿を見せる。華奢な体にフリル付きの水着が目立つ。動くたびにゆらゆらと揺れ動くそれには目を奪われても仕方が無い。あくまで見ているのは水着の方であって俺に幼女趣味は無い。断言できる。
「よし、サザン! せっかくだからどちらが速く泳げるか競わないか?」
「良いだろう。俺の身体能力を甘く見るなよ?」
俺はランの誘いに乗り海に入っていく。このまま浜辺に居てはどうしてもリアやメルの水着姿に目がいってしまって仕方が無いのだ。妙な事を言われる前に彼女たちから離れよう。
「えい!」
「むぉっ!? やったな! うぉぉ!」
「うわぁぁ!」
「ふふっ甘いわね二人共」
「なんだと?」
「ウォーターボール!」
「魔法を使うのは反則では無いか!? うぼぁぁ」
三人のはしゃぐ声が聞こえてくる。楽しそうで何よりだ。
「余裕そうだなサザン、だが私の本気はまだまだこれからだぞ!」
速度を上げるラン。しかし俺だって負けてはいられない。卑怯かもしれないが身体能力上昇魔法をエンチャントして一気に速度を上げる。しかしそれでも差は縮まらなかった。
「何故だ……!」
「エルフ族は人間よりも水中での行動に適しているんだ。流石に魚人族程では無いがな」
「なん……だと……!」
知らなかった。道理で自信満々だったはずだ。レベルの差による身体能力の差は種族能力の差でこうも簡単に覆されてしまうのか!
結局この後一度もランには勝てなかった。
「きゃぁぁぁぁ!?」
日も暮れ始めたので宿へ行こうとしたの時、リアの叫び声が辺り一帯に響いた。
声の方を見ると、大型の蛸の魔物がリアを掴んでいる。
「リア!!」
「あ、そこ……だめ……!」
足に付いている吸盤によってリアの水着が脱げそうになっている。一瞬、条件反射で俺は視線を外してしまった。しかしその隙に蛸の魔物は海に潜ろうとする。
「やだ! 助けて!」
「リア! 今助ける!」
魔人化したファルは蛸の足を千切りリアを解放する。それと同時に大きく発達した腕で蛸の魔物を潰したのだった。
「ありがとうぅぅ!」
「怪我は無いか?」
「うん、大丈夫だよ」
同性同士と言うこともあってかファルは躊躇せずに動けたのだ。本当にファルがいてくれてよかったと思う。
「さて、では我は戻るとするか」
「あ、待ってファルちゃん!」
リアの制止は間に合わず、ファルは人の姿に戻った。普段身に付けている衣服はファルの記憶から読み取ったものであり魔力で構成されている。つまりは人と魔人の姿の変更があっても問題は無かった。だが今は違う。ファルは水着のまま魔人になり、そのまま人の姿に戻ったのだ。普段と違って衣服は自動で構築はされなかった。
「どうしたのだ……ああぁぁぁ!?」
自分の姿に気付いたファルは再度魔人と化し、その姿を見てしまった俺を吹き飛ばしたのだった。
「先ほどはすまなかったな」
「いや、俺ももっと注意しておくべきだった。すまない」
宿の食事処で俺とファルは互いに謝ったのだった。
気まずい空気ではあるものの、とりあえず互いに納得する形で終わったので良しとしよう。これから大きな戦いがあると言うのに、この先が不安だ。
それでも、今日は皆楽しんでいたようで何よりだった。少しでも日々の疲れを発散できたのならそれに越したことは無いのだから。
「サザンよ。我はサザンと出会っていなかったらこうして海で遊ぶことも出来なかった。感謝しているぞ」
「俺も、ファルに何度救われたことか。これからもよろしくな」
食事処内の賑やかな雰囲気に乗せられたのか、俺とファルは普段は言えないような思いの丈を伝え合ったのだった。




