39 未知なる文明
「うぉぉ!!」
全力で重い一撃を与えるランだったが、やはり魔物には通らない。傷自体はついているのだが、中にまで刃が通っていない。これでは表面を削り続けるだけで倒すことは出来ないだろう。
「ううむ、この狭い空間では魔人の力も解放出来ん」
ファルの力を解放して全力で殴れば通用するかもしれないが、この狭いダンジョン内で魔人の姿に戻ることで万が一崩落でもすれば全員生き埋めになってしまう。
それは俺の龍転身も同じだ。こんなところで巨砲龍になれば、ダンジョンは跡形もなく崩壊してしまうだろう。
しかしこんな常識はずれな硬さを持つ魔物ではあるが、攻撃能力は低いようでまだ何とかなっている。突進しかしてこない上に速度もそれほどでは無いため、ダメージはほとんど受けない。命の危険が無いというだけで大分安心できる。
「ねえサザン、硬いのなら魔法はどうかしら? 炎とか氷は通りが悪いかもしれないけど、爆発系魔法ならダメージが通ると思うの」
「確かに、それなら可能性はあるかもしれないな。頼んだぞメル」
直接衝撃を与える爆発魔法なら可能性はある。むしろそれで駄目なら俺の即死魔法を使うしか無い。即死魔法は俺のレベル以下の相手にしか効かないため、これを頼りにしたダンジョン探索はしたく無いが止むをえまい。
「よし、我もランも離れた! 撃っても大丈夫だぞ!」
「わかったわ! エクスプロージョン!」
メルの杖から火球が飛び、魔物にぶつかった瞬間に爆発を起こす。魔力量を抑えて魔法の規模を小さくしているためダンジョンが崩壊する心配も無い。
煙が晴れると、そこには跡形も無く粉砕された、先ほどまで魔物だったものが転がっている。どうやらあの硬い表皮にも爆発魔法は通用するようだ。通用する攻撃手段が見つかりひと安心だ。
その後も俺たちは魔物に注意しながらダンジョン内を進んでいった。そしてある部屋で特に目についたものが有った。
それは小さな本であり、一見して何の変哲もないものであった。
表紙には見たことの無い文字が書いてあり読むことは出来なかったが、気になったのは描かれている絵だ。わざわざ画家を雇いこんな小さな紙に描かせる時点でこの本の制作者は酔狂な者なのだが、なんとこの本はほとんど全ページにわたって絵が描かれているのだ。いったいどれだけの富豪の本なのだろうか。
そして描かれている内容も気になる。片腕が武器になっている少年が何者かと戦っているように見えるのだ。恐らくこれは何らかの物語を絵に描き起こさせたものなのだろう。
作家に物語を作らせ、画家に絵を描かせる。それをこのページ数用意するとなるとそれはもう凄まじい労力と金がかかる。戦いに有用なもの以外にも、娯楽物等もこのダンジョンに落ちているものは規格外のようだ。
ここまで規格外のものが多く、魔物やダンジョンには未知の物質が使われている。こうなると、この次元迷宮はこの世界の文化形態とは違う別の文明の産物なのでは無いかと勘繰ってしまう。あらゆる地域から物が集まるルガレア王国にもこのようなものは一切流れてこなかった。つまりこれらは違う地方のものと言うわけでも無いはずなのだ。
仮にそうならば、俺の能力でも及ばない何かがある可能性も捨てきれない。慎重になりすぎるくらいでも損は無いだろう。
「かなり深くまで潜って来たと思うんだが、まだ部屋は続いているのか……」
あれからかなりの部屋を周り、階段を降り、深くまで進んだはずだ。それでも一向に最下層にたどり着かない。最初の内はそこそこ興味を惹かれるものが有れば手当たり次第に拾っていたが、これほど深くまで潜るとなるとそうは言っていられない。無限に物を持てるわけでは無いため、拾う物も吟味しなければならないのだ。
以前行った王国の図書館に、無限に物が入るマジックアイテムなるものがあると書かれた本があった。ただ実際にそれを手にした者は少ないらしく、今後出会うこともきっと無いだろう。
物思いにふけっていると、通路の先の部屋から剣と何か硬いものが当たる音が聞こえてきた。恐らく誰かがあの恐ろしく硬い魔物と戦っている。
メルたちを制止させてゆっくりと慎重に部屋の中を確認すると、中では4人組の冒険者パーティが戦闘をしていた。
相手にしているのは俺たちが最初に戦った魔物と似たような外皮に覆われている巨人の魔物であった。
「ルカ、もう一度私が魔法を撃つからそれまで耐えて」
「わかった! バルドもまだ戦えるか?」
「ああ、以前のあのダンジョンに比べれば大したことも無いさ!」
ルカと呼ばれた青年と大きな盾を持ったバルドと呼ばれた男性は魔術師であろうエルフの少女を庇い魔物の前に出ている。その連携は凄まじく、すべての攻撃を自分たちに向けさせるように動いている。相当な実力者であることは間違いなく、恐らくSランクパーティだろう。
「援護は任せな!」
「助かるよレイス」
レイスと呼ばれた女性は魔導銃を使い二人の間を縫って攻撃を行う。やはりこのダンジョンの魔物には魔法は効果があるらしく、やや押し返すことに成功していた。
「行くよ、皆避けて」
「了解! 行けルネア!!」
「これで終わって! ロストブリザード!!」
魔術師の少女はルネアと言うらしく、大規模な氷魔法を発動させた。その凍てつく冷気は魔物を凍らせることに成功したが、一瞬のうちに溶かされてしまった。確かに強力な一撃だったはずだ。それこそSランクの魔物であれば今の一撃で終わっていた。
しかしと言うかやはりと言うか、このダンジョンの魔物は一筋縄ではいかないのだ。
「クソ……やっぱり勝てないのか……? 駄目だ!! 俺はこんなところで負けられないんだ……勇者である俺はもっと強くなって、魔王を討伐しなければならないんだ……!!」
「勇者……だと?」
ルカの言葉に、一瞬思考が止まる。
彼は自分の事を勇者と言った。つまり、ランを追放したあの勇者なのだ。
俺は体の内側から、怒りが湧いてくるのを感じた。




