37 巨砲龍
凄い。とにかくその一言だった。龍転身をする際には以前と変わらず耐えがたい苦痛が発生したが、その代償が安いくらいに変身後の能力は凄まじかった。
魔力は溢れ出る程に満ち満ちており、今ならどんなことでも出来そうだ。鱗や角、牙なども以前とは比べようもない程に強固なものになっており、確実に種として進化していた。
その中でも何より特筆すべきは、体の中央にある巨大な砲塔のような器官だ。俺の頭の中に浮かび上がって来た今の形態の名は『巨砲龍』と言うらしく、その名に恥じない大きく立派な巨砲がそこにはあった。
『サザン、聞こえる!?』
「メルか! 無事だったんだな!」
『今、イル・クロマが国に向かってブレスを放とうとしているの!』
「なんだって!? 能力をじっくり確認したいところだが、今はそうも言っていられないな」
俺は今にもブレスを撃とうとしている太食龍……イル・クロマの首を掴み、無理やり折り曲げる。それによってブレスは王国に命中することは無く、天の彼方へと飛んで行った。
「これだけ大きいとパワーも凄いな。どれ、少し実験台になってくれよ」
巨大な体躯から繰り出される攻撃はどれも凄まじい威力を誇っており、イル・クロマの外皮をいとも容易く破壊する。すると攻撃対象を俺に切り替えたのか、再度ブレスを放とうとした。しかし素直に食らってやる義理も無い。
俺はそのままイル・クロマの首に噛みつき、引きちぎろうとする。ブレスの発動を止めることは出来たが、致命傷を与えることは出来なかったのが残念だ。
その後も爪による攻撃を当てたりと色々な攻撃を加えたものの、どこか決定打に欠けるダメージしか与えられない。このままでは埒が明かなそうなので、俺は一気に決めるために中央の砲塔のような器官に魔力を集める。
「俺が本当の遠距離攻撃を見せてやるよ!」
徐々に巨砲の温度が上がっていくのがわかる。ただここまでやって一つ問題が発生した。このまま撃つとまず間違いなく地上に被害が出るのだ。そうなってしまえば今度は俺が討伐される側に早変わりだ。
「不味い、もう止められねえ!」
今この瞬間にも魔力は凝縮され、巨砲内のどんどん温度は上がっていく。
「サザンよ、我に出来るだけのエンチャントを頼む! 我がヤツを打ち上げ、その隙に下から撃つのだ!」
「ファル!? 良かった、無事だったんだな!!」
「あまり余裕は無いのであろう? さあ行くぞ!」
「わかった。ファルを信じるよ」
ファルは俺の足元で魔人の力を解放し、元の姿に戻る。俺はそのファルに付与できるだけの魔法を使用する。そして現状出来る限りの強化が施されたファルはイル・クロマの足元へと向かって行き、攻撃を仕掛けた。
「ぶっ飛べぇぇッ!!」
力いっぱい巨大な腕で殴ったファル。しかしいくら強化が施されたファルでもこの巨体を打ち上げることは出来ないのでは無いかと、心のどこかでは思っていた。そうなれば俺はこのイル・クロマを倒したうえで地上の被害を全て背負い込むつもりだった。
だが現実は違った。
あの巨体が打ち上がったのだ。
「今だ! サザン!!」
「……俺の巨砲を食らえぇぇぇ!!」
打ち上がったイル・クロマの下に潜り込み、巨砲に集めた魔力を一気に放つ。それはイル・クロマの巨躯を全て覆い尽くし、塵も残さず消滅させた。
「……終わったか」
「そのようだな。……それにしても『俺の巨砲を食らえ』だなんて、仮にも我は女なのだぞ?」
「うん……? ……あ、えっとそういう訳じゃっすまん!!」
『俺の巨砲を食らえ』なんて女の子の前で言うもんじゃない。気分が乗っていたから突然出てきてしまったが、今度からは気を付けよう。
「まあそこまで気にしてはいないから良い」
「そう言ってくれると助かる。後、気になることがあるんだ。付与魔法をかけたとは言っても、良くあの巨体を打ち上げられたね」
「何を言っているんだ? サザンがかけてくれた付与魔法のおかげだぞ?」
「え?」
「能力が今まで以上に大幅に上昇したんだ。サザン、この短い間に何があったのだ?」
そうか、限界突破によって俺の能力だけでは無く俺の付与魔法も強化されたのか。だからファルの能力がイル・クロマに通用したんだ。
「まあとりあえず元に戻ってから話そうか」
俺とファルはひとまず元の姿に戻った。
しかし俺はまたもや眩暈や吐血に襲われ、倒れてしまった。
「また……なのか……?」
薄れゆく意識の中、ファルが何か叫んでいるのが見えた。
◇
「え、貴殿また来たのであるか?」
「……そうみたいですね」
「ということは太食龍を倒したのだな」
「はい。ですがその後また倒れてしまいまして……」
「まさか貴殿、またレベル限界に到達したのか!?」
龍神のその言葉を聞き、即座にレベルを確認する。レベルは200+200……つまりは400レベルに到達していた。
「ありえん……いくら龍を倒したとは言え、そのような経験値が一度に入るなど……」
それを聞き、俺は大器晩成スキルを思い出した。
「あの、思い当たる節があるのですが」
俺は大器晩成スキルのことを龍神に説明した。
「なるほど、聞いたことはあるがまさか本当に所持している者がいるとは」
「龍神様でも実際に会ったことは無いのですね……」
何か情報が得られるかもしれないと思ったが、どうやら龍神クラスの存在にとっても大器晩成スキルについては謎が多いようだ。
「どれ、今後何か情報が入り次第共有してやろう」
「ありがとうございます!」
「それと、貴殿はまた限界突破の試練を行うのであろう?」
「はい!」
「では結界を張ってやろう。思う存分戦うが良い」
龍神は以前と同じく、結界を張ってくれた。その中で再現体と戦うわけだが、攻略法はもう分かっているため倒すのはそう難しいものでは無かった。ただ、いつまでもこの方法は使えない。今回戦った再現体は当然、前回作った重ね掛けの出来る付与魔法を使えるのだ。これを繰り返していればいつか限界が来る。その時までにどうにか対策を考えて置かなければならないな。
「えらく速いでは無いか!?」
「一応二度目の戦いなので……」
「まあ良い」
あまりにも速く倒したためか龍神にも驚かれてしまった。
「さて、それでは今度こそしばらくの別れとなるな」
「はい、大器晩成スキルの件もありがとうございます!」
「うむ」
挨拶の後、以前と同じように念じて元の世界に戻る。
気が付くと、人間体になったファルの膝枕で寝かされていた。
「……ファ、ファル!?」
「サザンよ、またもや倒れたのを見て我は今度こそ駄目かと思ったのだぞ」
「……心配かけて悪かった」
「全く……」
他の皆や国が無事であることもファルから聞かされ、ひとまず無事に解決したことに安堵する。
その後も、怒りと安堵の混じった表情で俺の頭を撫でるファル。しばらくの間こうされていても良いかと思う中、部屋の扉が開きリア、メル、ランの3人が入って来る。
「ああー! ファルちゃんずるい!」
「ふふ、良いであろう。最後にサザンの補助と言う大きな功績を残した特権というものだ」
「良いなーー!」
「ハハっ今回はファルの完全勝利と言った感じだな」
「全く……」
皆元気そうで良かった。ファルもみんなと打ち解けたし、俺も前よりも強くなったし、万事解決だな!
龍神界と限界突破 完




