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16 魔人

「ここだな。透明化の鎧があると言うのは」


 俺たち勇者パーティは魔王を倒すために強力な装備を手に入れる必要がある。

 俺たちが潜っているこのダンジョンの最下層には魔人が眠っているらしく、逸話ではその魔人を倒すと『透明化の鎧』という装備が手に入るのだと言う。


 透明化の鎧は名前の通り、装備すると透明になることが出来るため敵を欺くことが可能になる。そして魔法攻撃を無効化する力も持っているため、まさしく魔王討伐にはうってつけの強力な装備と言うわけだ。


「さて、最下層までたどり着いたが……こりゃとんでもなくヤバい雰囲気だな」


 いち早く異常な雰囲気に気付いたのは、大盾を装備した不精髭の目立つバルドだった。彼は勇者パーティの重戦士兼タンクとして前衛を担当しているためか、こういった危険を感知する能力は人一倍高い。


「なんか、肌がピリピリする……。ここ、何か変」


 金髪碧眼が美しいルネアは魔力に敏感なエルフ族の少女でありそのうえ魔術師であるため、空間内の魔力に異常があることをすぐに見抜いた。


「ひとまず退路の確認をしよう。何かあってからでは遅いからね」


 二人の言葉からこの先が危険だと言うことを察した黒髪ロングの女性レイスは、レンジャーとしての危機管理能力をいかんなく発揮してもしもの時のための準備を整えていた。


「いよいよだな。ここで魔人を倒すことが出来れば、魔王討伐は遥かに楽になるだろう」


 俺たちは魔力の濃度がどんどん濃くなる中、空間の中心部へ向かっていく。


「……貴様らは何者だ」


 空間の中心に集まった黒い靄から声が聞こえる。声だけで震え上がりそうになる威圧感。間違いなく魔人のものだ。


「俺たちは勇者パーティだ! お前を倒し、魔王討伐への足掛かりとさせてもらう!」


「ほう。我を倒すと申すか」


 靄は徐々に実体を現わしていく。人型のようではあるが、大きく発達した腕はまるで大型の槌のようである。あの腕での攻撃を正面から受ければまず命は無いだろう。


「我は魔人ファレルロ。勇者よ、せいぜい我を楽しませてみせろ」


「行くぞ!」


 俺の合図を皮切りに俺たちはそれぞれの持ち場に向かって散る。

 バルドがヤツの攻撃を引き受け、俺とレイスで攻撃を行っていく。そしてルネアの大型魔法の詠唱が終了した時点で一度退避し、一気に大ダメージを与える。いつもと同じ方法でいけると考えていた。


 だが甘かった。


「ぐっ……!!」


 バルドは大盾でファレルロの大きな腕による叩きつけを受け止めるが、たった一度受け止めただけで大盾には亀裂が入ってしまった。

 そして、衝撃を受け止めきることが出来なかったためか肩を脱臼してしまう。


「バルド! 一度下がって回復を行ってくれ!」


「すまない……」


 バルドが一旦下がったため、ルネアは俺とレイスで守らなければならない。

 

「レイス! 協力して一点攻撃だ!」


「了解した!」


 俺は片手直剣で斬り込み、ファレルロの腕に少しでもダメージを蓄積させる。そしてレイスも銃を連射し、腕にダメージを集中させる。

 ファレルロも無敵では無いのかダメージを負った腕を一度下げ、もう片方の腕を持ち上げた。


 そしてそのタイミングでルネアの詠唱が終了した。腕を交代させているこの隙に大型魔法をぶつける。


「ロストブリザード!!」


 瞬時にありとあらゆる物体を凍らせてしまう程の冷気を、吹きすさぶ嵐として広範囲に展開する。

 

 しかし、ファレルロは少し霜を被っただけで致命傷どころか少しのダメージにもなっていないようだった。


「うそ……」


「どうした? そんなものか勇者パーティというのは……」


 ファレルロは拍子抜けだと言わんばかりの声色でそう呟いた。


「く、まだだ……!」


 俺には勇者としての最終兵器がある。

 勇者のみが使える、全エネルギーを放出することで最大の一撃を与えることの出来る技。

 反動でしばらく動くことが出来なくなるが、背に腹は代えられない。


「ブレイブソードォォッ!!」


 俺の全エネルギーを巨大な剣として叩き込む!


 正面からファレルロに斬撃を与え、真っ二つにしようとする。だが、力が足りないのか腕で押し戻されてしまった。

 もう俺に動く力は残っていない。このまま無残に殺されるくらいなら、せめて自爆スキルでも使ってやろうか……。


「クソっ! 一度退くぞ!!」


 レイスは俺を担ぎ上げ、そのまま他の二人の所に連れていく。そしてダンジョン内から瞬時に抜け出せる道具を使い、窮地から脱出。

 俺たち勇者パーティはなんとか一命をとりとめた。


 だが、何も成果を出せずおめおめと逃げ帰って来た勇者パーティを賞賛する者などどこにもいなかった。

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