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僕はあなたの“神様”なので。

作者: 白鷺緋翠

 

 神童。


 その言葉を聞いたことがある人は少なからずいると思う。

 言葉通り、他とは違って優れた子供のことを言う。


 僕は、そんな神童と呼ばれ“神様”と崇められた子供だった。


 変な宗教も存在するものだ。ましてや、こんな小さな子供を神と崇めるとは。当時から何かおかしいことは分かっていた。


 事の発端は、僕に()()()()()()ことだった。

 最初こそ、遠足の日は必ず晴れるとかそんな可愛いことだった。


 しかし、それから数日間の出来事はそんな可愛いものじゃなかった。

 失せ物の場所の予想が当たったり競馬だったり賭け事の予想が何度も的中したり、事件が起こるなどの予想が当たったり。そんなことが続いたのだ。


 まあ、偶然なのだが。今はそんなことできない。たまたまが重なっただけだけ。そう僕は思っていた。

 だが母は違った。母は僕を見て神童と呼んだ。神の生まれ変わりだと、そう言ったのだ。


 あっという間に母の言葉は波紋のように広がった。母がどのように周りに伝えたのか、すぐに分かった。

 家まで来て、僕に会う人たちは口揃えてこう言うのだ。


「神様、どうか助けてください」


 馬鹿げた話だ。たった十歳前後の子供に、大の大人が縋るのかってね。


 ある日を境に、ただの民家に有名店並の人だかりができた。

 全員、“神様”に助けを求める人間だ。大人の他にも子供まで来るようになった。

 僕は、そんな迷える人間へ()()()()を言い渡す。


 これがまた面白いんだ。ただの小学生の思いつきの言葉に大人は涙する。笑いを堪えるのが大変でさ。


 神様って何なのか。結局、神話に残る偉大な神も昔の人間が作り出した想像の者でしかないんだ。きっと。

 助けて欲しい。そんな願望の塊。


 可哀想だよね。本当に、心の中から可哀想だと思っているよ。

 今でも。


 僕が神と呼ばれ始めてからもう五年以上経つ。僕は高校生となっていた。

 学校でも僕は人気者だった。顔も性格も良い僕は、男女問わず人気を集めた。


 話を聞いて。私を助けて。


 そんな言葉は聞き飽きる程聞いていた。どこに行っても、人は神に縋る。

 僕は可哀想な人を助けるために産まれてきたのだと思うようになった。そんな一人じゃ何もできない弱い人間を、助けるために。

 だって、僕は“神様”なんだから。そんな可哀想な人間を助けてあげられる。


 僕には軽々しく声をかけることはできない。そんな人間がいたのなら、周りの信者が許さない。

 これも、一種の優越感だろうか。

 僕だって君たちと変わらないただの人間なのに。神様に祈るような人間なのに。周りが神様と呼んでいるからというだけで、人間は神様になれるのだ。


 僕の一日は人の話を聞いてばかりだ。

 学校へ行って生徒の悩みを聞く。学校から帰り、家で待ち構えてる信者の悩みを聞く。夜、母の悩みを聞く。


 寂しいという人間には寄り添うのが一番良い。僕がそばにいてあげる。寂しくないよ。そう言うだけで、そういう人間は満足してしまうから。

 事業に失敗したという人間には、適当に言いがかりをつけて仕事を紹介すれば良い。出来損ないの人間でも受け入れてくれる会社なんて、この世にはたくさんある。それで人間は仕事を手に入れてくるのだ。


 結局、人は自分から行動するのが怖いだけなのだと、最近分かった。


 ああ、そうだ。僕の話を律儀に聞いている、君たちはどうだろう。

 目の前に外国人がいて、道案内を頼まれたら英語で話そうとするか?それとも、断る?

 大半の人間は断るだろう。完璧な英語を話せないから、どうせ伝わらないと断るのだ。


 心の底から尊敬するよ。君たちのその勇気の無さにはね。


 何かに失敗したらやる気を失うだろう?誰かに批判されたらすぐに諦めるだろう?


 そうだよ、それで良い。

 そしたら僕の所に来ることを勧めるよ。この僕が直々に勧めてあげてるんだからさ。

 話すだけでも良いんだ。楽になるかもしれない。

 信者になりたくないって、信者になんてそう簡単にならないよ。僕の話を聞いていただろう?あんな狂人に、君たちがなるとでも思ってるのかい?

 僕が可哀想? そんな僕の心配なんてする必要ない。


 だって、僕は“神様”だから。

 君のために、君だけのために。僕が力になるよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神童と呼ばれる主人公が、苦悩しているのではなく、自分に群がってくる人々に失望しているのでもなく、いっそ清々しいくらいに振り切って『神童』という役割に徹している、という点が逆に新しいと思いま…
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