サイコ師弟
「ほら、キア。あ~んしてごらん」
輝かんばかりの笑みを浮かべたお父さまが、私の隣に腰掛けてケーキのイチゴをフォークで差し出してくる。お父さまは割と甘いものが好きである。
因みに、一番好きなものについては、食事をしている時に聞いてはならない。
「はむっ」
「おいしい?」
「はぃ、もちろんです」
「ほら、キア。こっちも食べて」
反対側からは我が愛しの恋人から婚約者にグレードアップしたユリウスがモンブランの栗をフォークで差し出してきた。
「はむっ」
「うまいか」
「はい」
いや、何でハーレムみたいになってんねん、私。
表向きは美男に両サイドを囲まれているように見えるが、右側がサイコパス。左側はサイコパスの指導をきっちり受けた弟子である。
―――夢も希望もねぇ。
まぁ、幸せに暮らしてますけども。
「そう言えば、リカルド殿下はお元気なのですかね」
申請は通らなかったはずだが、その後は特に何も来ていない。うまく陛下がせき止めてくださったのだろうか。
「あぁ、半殺しにしておいた」
と、ユリウス。
「本当は殺してしまいたかったけど、アレクが“待て”してきたから」
にこっとお父さま。
ぐはぁっ。
そうだ。その場合は半殺しにするのがこのサイコお父さまの指導であった。
※いい子も悪い子もマネしちゃだめだぞっ☆
「いや、でも。さすがに王子殿下を半殺しにしたらまずくないかな?」
「問題はない。陛下はリカルドを鍛え直すように俺に命じ、そして近衛騎士隊長もそれに賛成してくれたから、容赦なく半殺しにしてきた。安心してくれ」
それは、安心したほうがいいの?一応命が助かっただけ安心したほうがいいの?
「だが、師匠はもっとすごかった」
「お父さまもやったんですか?」
お父さまがやったら血の雨が降りそうなんだけど。一応そんな事件は新聞の紙面にそんなニュースは載っていなかったけど。
「あぁ、もちろん。俺の娘に手を出すなんておこがましいにもほどがある」
にこっと微笑む美しい裏ボスお父さま。一体何やったこのサイコお父さま。
「師匠は、回復魔法を絶えず詠唱しながら攻撃を加えていた。俺も今度やってみようと思う」
いや、マネしちゃだめだからぁ―――っ!!
ほんっと師匠大好きよねユリウス!原作小説でもお父さまに心酔してたけども!今は別の意味で心配である。
本来、お父さまは詠唱せずとも魔法を発動できる。ただそこに立っているだけで周囲を即座に殲滅できるほどに。だからその詠唱は明らかなる“見せしめ”である。
因みに、回復魔法は傷を治せるが病気には効かない。病気はお薬で治すしかないから。私の1度目の人生の死因は怪我ではなかった。衰弱死だ。それもお父さまの回復魔法では治せなかった。
―――どんなに魔法や魔力に恵まれていても、そればかりはどうしようもなかったのだろう。
だからこそ、2度目の人生を迎えられていることは奇跡と言っていい。
「後、王城のパーティーへの招待状だが、改めてアレクに再発行させた」
あぁ、そう言えば。殿下が送ってきたのはパーティーへの招待状だった。あれはあの後お父さまが花と一緒に消し炭にしてしまったから、無視してお家でのんびりしていていいものだと思ってスルーしていたのだけど。
「これで、ふたりで行っておいで。婚約後初なのだから」
「あ、ありがとうございます」
そう言えば、そうなのよね。お父さまがくださった招待状をもらう。てか、国王陛下に再発行“させた”って、オイ。
「もちろん、あのバカがもう一度何かしでかしたら」
お父さまは相変わらず私を甘やかしていて、私のこめかみに軽く口づけを落としてくる。
「この前の見せしめをまたやろうか」
反対側からはユリウスが唇を耳に押し当てながら告げてきて。いやいや、見せしめってオイ!
「こ、国王陛下の恥になったら困るから、二人はいい子にしてること!」
「お父さんはいつでもキアの味方だよ」
「あぁ、もちろん俺も」
まるでわかっていないこのサイコ師弟ども。
「ところで、お父さまもパーティーには顔を出すのですか?」
「あぁ、影に潜んでいるから。いつでも殺せるから安心して、キア」
安心できねーわっ!!
今度、宰相閣下(※ユリウス父)に会ったら釘を刺してもらうようお願いしないと!!
あぁ、パーティーとか、大丈夫だろうか。緊張とか社交付き合いとかもうそんなのどうでもいい!このサイコ師弟をどうにかするには。
「ユリウス」
「ん?」
イケメン顔近い。
「当日は、一緒に目立たないところにいようね!」
「ん?目立たないところ。あぁ、暗殺しやすいポイントは確保しておく」
いや、するなするな!普通に壁の華になりたいんじゃぁ―――っ!!
リカルドに目を付けられないよう気を付けないと。もうすぐ、異世界からの召喚者も来るのだから気を引き締めよう。
それにしても。リカルドめ。私のオリヴィア姉さまの婚約者の座に収まりやがってるのに相変わらずいけ好かないわぁ。
思えば、私とユリウスの出会いにもちゃちゃを入れてきたのよね。




