師弟
―――と、言うわけでキアラ・ナハト、16歳現在。
「ほんっと、どう料理してやろうかしら」
私は再びリカルド・クローネ王子から贈られてきた花束と手紙を睨みつけてそう呟いた。
「あぁ、やはり暗殺することにしたのか。斬り刻むか?それとも丸ごと煮るか。味付けは何味がいい?」
いや、なーんでーやねーんっ!!
「お、落ち着いて。ユリウス。そう言う意味じゃないから」
あぁ、何と言うことだ。我が愛しの恋人は、サイコお父さまに師事した影響でこうも思考回路がおかしくなっている。
「いかにこの困難を乗り越えるかという話よ。少なくとも、国王陛下だけはお父さまに何を言っても殺されないんだから。いくらバカ王子だって言っても陛下の御子を手にかけさせちゃいけないわ。陛下には恩があるのだから」
「師匠はキアラも殺さないと思うが。あ、“ぱぱ嫌い”とか言ったら世界が半壊するって以前ウチの父から助言があったな」
大公閣下―――っ!!それはそうだけど!的確な予言ではあるよ!さすがはウチの国の宰相だ!!
あのサイコお父さまに何があっても殺されないリストは、
私、弟子のユリウス、陛下、大公閣下のみである。あとお父さまに忠誠を誓っている物騒極まりない部下たちかな。
ついでに、大公閣下とはユリウスの父親でありこの王国の宰相。国王陛下の弟君であらせられる。本名はカイル・アルギュロス大公閣下と仰る。
そして瞬殺される可能性が高いのは、私に盾突いてくる方々。この手紙の主もそうである。もともとリカルド・クローネ殿下はユリウスと折り合いが悪い。特にその恋人でありオリヴィア姉さまに懐いている私にめちゃくちゃガンツケまくってくるのである。
最近は何事もなかった。多分、陛下が手を回したんだろうけど。
「陛下の目を盗んで贈り物をしてくるとは」
「キアに贈り物をしてくる男には、師匠に言われて半殺しにしているから問題ない」
いや、あるだろーがっ!!
「でも、半殺しなら生きてはいるのよね」
「あぁ、そうだな。父上から殺す場合は事前に申請するように言われているから、今のところは許可が出なくてな。半殺しにする分については師匠も父上の許可が出ないのなら仕方がないと言っていた」
本当に大公閣下。これから義父になるのだけど。まともなお義父さまができることを、私は期待していいのだろうか。
「う~ん、しかしこれは」
現物がここにあるのである。王族の印と共にリカルド・クローネの名が入った封筒、そして花束。
「あ、そうだ。ちょっと思いついたんだけど」
「何?」
「こっちきて。私の横」
私がぽんぽんとソファーの横を手でたたけば、ユリウスが颯爽と立ち上がって私の横に腰掛け腰を引き寄せてきた。因みに、これはユリウスだから許されていることであり、よその令息がやろうものなら確実に0.1秒でサイコお父さまの餌食になるであろう。
「キア」
華麗なる顎くいを決めたユリウスは私にぐいっと顔を近づける。
「いや、そうじゃなくて顔こっち」
私はユリウスのほっぺを両手で包み、顔を前に向けさせる。
「き、キアッ!?」
そんな愕然とした顔しないで~~~っ!私はすかさずユリウスの耳に口を近づけ、万が一にもメイドのアセナに読唇術でバレないように口の周りを両手で覆った。
「うん、こういうプレイもたまにはいいな」
私は全く以ってどう言うプレイなのかわからないんだけど。
「(ごにょごにょごにょ、ごにょごにょ)」
「―――なるほど」
「ね、いいと思うでしょ?だから、口裏合わせよろしくね」
「あぁ、だけどキア」
「ん?」
「師匠が今手紙の封を開けたけど」
え?
はっ!!
急いで後ろを振り返れば。
ぶおわっ
一瞬にして花束が消し炭になっていた。やばい。あのお父さまの目はやばい。虚無そのものだっ!!
「殺すか」
ニタアァァァッッと、口元だけに三日月形の笑みを描くお父さま。
ひぃ~~~っ!!お父さまぁ~~~っ!
私宛の手紙を勝手に読むのもあれだと思うけどもっ!そこを指摘したところでリカルド殿下の命が風前の灯火であることには変わりはないのである。
「師匠、俺もそう思っていたところだ」
お前もや~め~れ~~~っ!!!
「早速父上に申請しようと思う」
「そうだな、しておけ」
―――あ、そっか。それには大公閣下の許可が必要なんだよね!そうそう。どうせ許可なんて下りないんだから。はぁ~、良かったぁ。何とかなって。
「それはそうと。ただいま、キア。俺の愛する娘」
お父さまが先ほどの虚無に満ち溢れた瞳を完全に封印し、優しい笑みを浮かべて額にキスを落としてくる。あ、相変わらず娘にべた惚れなんですけども。その2面性がパナイっすお父さま。
「あ、うん。お父さま」
苦笑いを浮かべながら流れに身を任せた私であったが、許可が出ない場合のこのサイコお父さまとラスボスユリウスのオシオキの内容をすっかり忘れていたのである。
それではまた明日~(/・ω・)/




