お父さまの行き先
※残虐描写注意
※サイコ注意
「待て!貴様何者だ!名を名乗れ!」
えっとー。このいかにも、な異世界ファンタジーなお城はなんだろう。まさか、城!?本物の王城?そして多分まっとうな仕事をしているはずの衛兵さんたちを見るお父さまの目が、恐ぇ。感情が全く以って感じられない点が、マジで恐い。
「あ、あの。お父さま」
「恐がらなくて大丈夫だよ、キア。すぐに殺すから」
キラッキラ~。私の顔を覗くお父さまの表情は、優し気でめちゃくちゃキラキラしている。先ほどまでの虚無感満載の目はどこ行ったよ。うわーんっ、セリフと表情が全く以って一致していない!!このサイコお父さまどうにかしてぇ~~~っ!どうにかできるひといないのぉ~っ!?
少なくとも今のところは、私にはものっそい美しい微笑みをくれるのである。
「い、いい」
「何で?」
断ることの方が世間の一般常識から外れてるみたいな表情向けないで~~~っ!
「こ、恐くないから!あと、命大事に!!」
「キアのことはお父さん何があっても守るから大丈夫。キアに手を出そうとするやつらは全員殺してあげるから」
いや、そうじゃない!私だけの命じゃなくって他のひとの命も大事にして~~~っ!
「何をごちゃごちゃと!」
「“殺す”と聞こえたが、何をしに来た!ことと次第によってはただじゃ済まさんぞ!」
ひいいぃぃ~っ!衛兵のひとたち怒ってる~~~っ!ん??
お父さまが不意に顔をあげる。あの虚無に満たされた目と、凄惨な笑みは、―――まさかっ!!
グサッ
「がああぁぁぁっっ!!」
ズコッ
「うぐああぁぁぁっっ!!」
ぎゃああぁぁぁぁぁぁ―――――っっ!!!
も、門番のひとたちの体を氷の突起が貫いている!?
「―――っ!!」
私がわなわなとしていれば、頭上からお父さまの声がした。
「ほら、殺してないよ。生きてる」
た、確かに、指先は動いていて呻き声をあげているけどっ!!そうじゃない~~~っ!!
「キア?どうした?まだ恐いのか?やっぱり殺そう?」
こ、恐いのはお父さまあなたの方ですこのサイコめ―――っ!!
しかしその瞬間、城門が開いて行く。その先にひとりの男性が立っていた。あのミルクブラウンの髪はこの国の王族のものと似ている。瞳は青で、目つきは鋭い。前髪を真ん中分けにしており、眉間に寄った皺が際立っている。そして何だか目つきが恐い!ダメだ、恐がったらまたお父さまが!
「貴様!何をやっているルシアン!」
あれ、お父さまの知り合い?お父さまって裏ボスになる予定なのに城に知り合いいるの??
「あぁ、カイル」
んー、カイル?どこかで聞いたような名前だな。
「アレクは?」
飄々と誰かの名を口にしたお父さまに、更にカイルさんの眉間の皺が深まった。えぇと、どうやらお父さまの抹殺対象には入ってない?―――ようだ。
一安心といったところか。
「こちらだ。あと、むやみに城のものを殺すな」
「殺していない。生きている。娘のキアが殺すなと言うからな」
そう言って私に頬ずりしてくるお父さま。カイルさんは私を一瞥するとこめかみをぴくぴくさせながらも続けた。
「これより先、みだりに陛下の臣を傷つけることは許さん」
「ん?何で?キアに手を出すなら殺すけど」
やーめーてー。
「俺が共にいるのに、手を出すやつはまず俺が殴って気絶させる。それでいいだろう!」
いや、いいのか。殴ってるけども。暴力反対っ!!
「しょうがない」
しかしながら、サイコお父さまが妥協したのでいいのかな。いや、良くないのだけど。私はこのカイルさんと言うひとを救世主と認定した。
「そこのもの、門番たちに手当の指示を」
「は、はいっ!閣下!しかし何が」
「いいから、行け!」
「はい!」
カイルさんに急かされ、騎士たちが門番のもとへと向かう。良かった。手当てしてもらえるんだ。ほっとしたのも束の間。
お父さまの身なりと私の方を見て口を開こうとした王城のひとたちを、カイルさんが徹底的に魔法でぶっ飛ばして気絶させていた。
いや、拳とちゃぅやん、魔法ですやん。
少々手荒であるものの、サイコお父さまが起動しなかっただけでも良かったとほっと胸をなでおろしたのだが。何やら荘厳な扉をくぐり、連れて来られたのは。
―――え、何ココ。玉座の間みたい。そして、レッドカーペットの先には玉座っぽい椅子があって、そこにはカイルさんに似ているものの、雰囲気が少し異なる男性が腰掛けていた。
ミルクブラウンの髪に青い瞳を持つ美男。そして肩に羽織ったマントはいかにもな王さまっぽい。え、誰?このひと。
「アレク」
お父さまが呼びかけると、そのひとが「久しいな、ルシアン」と口にする。
どうやらあのひとがアレクさんらしい。
「今日はどうした。“ノグレー公爵家”と城門の方がやけに騒がしい」
あの、知ってんの?やっぱ知ってんのかな、アレクさん。先ほどのサイコお父さまの所業をぉ~~~っ!!
「娘を連れ帰ってきた」
「それがどうしてノグレー公爵家のものたちを、ただ一人を除いて鏖という流れになるのだ」
ひぃっ!やっぱ知ってる―――。そして、そのただ一人とはオリヴィア姉さまのことだ。オリヴィア姉さまはこれから、どうなるのだろう。
「キアをここまで傷つけた。キアが幸せに暮らしているというのは全て狂言だった。裏切り者は殺して当然だ」
―――私が、幸せに暮らしていた?オリヴィア姉さまだけは優しかったから、オリヴィア姉さまとの時間だけは幸せなものだった。けれど叔父や叔母夫婦は、私があの家で幸せに暮らしているとお父さまに告げていたのか。そもそもお父さまとノグレー公爵家の関係って何なんだろう?全てがわからないことだらけだ。
「少なくとも、彼らは私が爵位を与えた臣のひとりだ。勝手につぶすことは許されない。わかるな?」
爵位を授けた?授けるのって普通王さまだよね。やっぱり王さま!?そして王さまはお父さまに説教を、している!!そして王さまを見上げるお父さまの目は相変わらず虚無のごとし。しかし手を出していないことを考えると、王さまの言うことは聞くってこと?王さまとの関係も気になるけど。
「アレクにあれはいらない」
「はっきりと言うな」
カイルさんが吐き捨てるが。お父さまの表情は変わらなかった。
「とにかく、オリヴィア嬢はこちらで保護する」
オリヴィア姉さまを保護してくれる!あぁ、でもここにはリカルド・クローネもいるのか。でも、この王さまの元なら、大丈夫だよね?そう、信じたい。
「それでお前はどうするつもりだ」
お父さまは、一体私をどうするつもりなんだろうか。ぶるぶる。
「爵位、ちょうだい」
え?爵位??それってそんな「ちょーだいっ☆」というノリでもらえるものだったっけ?
「前にいらないか聞いただろう?くれ」
ええええぇぇぇぇ――――――っ!?ちょっと王さま!このサイコパスにそんなこと言ったの!?き、危険すぎないっ!?
「全く。お前はそれで大人しくするのか」
「キアに手を出されないのなら、アレクの命がない限り俺は動かない」
お父さまは、王さまの命で動くの?つまりは仕えている臣のひとりってことかな。
「わかった。かねてより用意していたナハト侯爵位、そして屋敷を与えるから。大人しく帰れ」
王さまがそう言うと、ずいっとカイルさんが何かを渡してくる。お屋敷の住所かな?
「わかった」
そう言うと、お父さまは私を抱いて城を後にした。