大団円
―――それからのクローネ王国では、王太子殿下とユヅカさまの婚姻披露パーティーやノグレー公爵家のオリヴィア姉さまとエースの婚姻披露パーティーが開かれた。
そして、私とユリウスは。
ナハト侯爵家が新興すぎるほどの新興貴族で、更にはお父さまとユリウスが不特定多数の貴族どもに何故私を見せびらかす必要があるとめっちゃ抵抗したため、身内だけを集めたパーティーとなった。
白い礼装に身を包んだ私とユリウスは、それぞれ互いの瞳の色の宝石を身に着けている。私は透き通るように美しいアイスブルーの宝石を、ユリウスは私のオレンジブラウンの瞳に限りなく近い宝石を。よく見つけてきたなぁと感心しつつ、参加者に祝福されながら小規模なパーティーを楽しんだ。
パーティーの準備はナハト侯爵邸の使用人であるアセナ、ヴィダル、お父さまの部下の方々やお姉さまのお屋敷の使用人たちまで手伝ってくれて感謝に堪えない。
私としても大規模なパーティーはあまり得意ではないので、ちょっとだけリラックスできて何よりだ。でもサプライズでお忍びで王太子殿下とユヅカさままでいらしていただいてたじたじであった。
吐血が心配なネッサには椅子席を用意し、アセナやお父さまの部下の方々と親し気に料理に舌鼓を打っている。もう、ネッサって最強な気がしてきた。そんな彼女のことはエースまで一目置いているらしい。
愉快そうにその様子を眺めるエースをオリヴィア姉さまも微笑ましそうに眺めている。もちろん大公であるお義父さまとスノウお義母さまも来てくださって、仲睦まじい姿を見ることができた。会場にはエースの異母兄であるグウェンさまもちらっと顔を出してくださったのだが、さすがに国王陛下はお留守番らしく、ひとりだけお留守番になったことを嘆いていらしたそうだ。
「お父さま」
私はユリウスと一緒に、少しみんなから離れた場所でワインを片手にサボっていたお父さまを捕まえた。
「楽しんでいるようだね」
「はい!とっても楽しいです!」
「そう、キアが喜んでいるなら俺はいいよ」
お父さまは相変わらず私には甘い。サイコ全開で暴走しがちだけども。
「あの、お父さまはお母さまとどうやって出会ったのですか?」
「ん?クレアと?」
「そう言えば、聞いたことがなかったなって」
「―――パーティー会場でアレクの護衛をしてる時。興味が湧いたから、絡まれていたところを助けただけだよ」
「でも、師匠が興味を持つのも珍しい」
ふっとユリウスが苦笑する。確かに。―――でも、その出会いがあったから私が産まれたわけで。
「何だか運命の出会いみたいで素敵です」
「それなら、俺たちだって」
「あ、確かに!絡まれていたのはユリウスの方だけど」
「む」
何故そこでむっとする。
「まぁ、助けたのは大公のお義父さまだったけど」
「もう少しカッコいい出会いが良かった。やっぱり今からでも当時の奴らを滅」
「いやいや、やめなさいこんなお祝いの席で」
そう言えば、その頃のユリウスはまだお父さまのサイコ思想に染まっていなかったなぁとしみじみ感じる。
「まぁ、俺は後で制裁を加えたけど」
わぁ、やっぱりお父さまはお父さまだった。どうやらお母さまに対してもサイコ満載だったようだ。
「もう、弊害はどこにもない。掃除は終わったからね。それにユリウスも育ったし」
そう、お父さまがふふっと微笑む。
「師匠の教えの通り、キアに手を出す者は殲滅する」
「そうだね、そうして」
「いや、二人して物騒な計画立てないでよ」
そう、苦笑を漏らしていれば。
「本当に、私の苦労も考えて欲しいものだ」
お義父さまによく似ているものの、表情はどこか面白そうに緩んでいる。
「へ、陛下!?どうして!」
それは紛れもなく国王陛下で。お父さまはごく普通にワイングラスを陛下に差し出しワインを注いでいたが。
格好も何だかラフで、王さま感はほぼないが、オーラは消せていない。
「今回はお留守番とお聞きしたのですが」
「ははは、甥っ子夫婦の婚姻披露パーティーだ。ワイン一杯くらいいいだろう?君たちのこれからの門出を祝って」
「そ、それは光栄です」
「後で父上に怒られますね」
「えぇ~、そこは内緒に」
「何してんだ、兄上」
しかし陛下の肩をぐわしりと掴んだお義父さまに捕まった。
「げっ、何故バレた」
「バレますよ。小規模な身内だけのパーティーなんですから」
「そう言う意味では私だって身内だろうに」
確かに、ユリウスの伯父さまだしなぁ。苦笑しながらワインを飲み干した陛下は、颯爽とやってきた近衛騎士団長のグウェンさまに回収されお城に帰って行かれた。
「全く、伯父上は昔からあぁいうことをする」
「でも、何だか親しみを持てるし」
「甘やかすと調子に乗るから俺の苦労が耐えん」
ユリウスとそんな会話をしていれば、ぼそっとお義父さまが呟いて、その傍らのお義母さまが微笑む。
「カイルは優しいから」
「そうか?」
お義母さまのその言葉に答えるお義父さまは、普段の宰相の顔から打って変わってお義母さまに優しく微笑んでいた。
「あのね、今度フレアのお見舞いに行きたいの」
「義姉上の、か?」
お義父さまがそう呼ぶと言うことは、“フレア”とは王妃さまであるフレアリカさまのことだ。未だに離宮で臥せっていると言うが。
「とってもね、優しくしてくださったの。誰も頼るひとがいなかった王城で、ライバルだったのに。だから、今度はスノウとして、本当の私としてお礼が言いたい」
「―――そうか。なら、今度兄上に相談してみよう」
優しく微笑み合う義理の両親を見て、隣でふとユリウスが笑みをこぼしたような気がした。私もおふたりみたいな仲の良い夫婦になりたいと思っていたら、その考えがバレバレだったのか、ユリウスに優しく頭をなでられた。
思わず頬を赤らめれば、お父さまにも頭をぽふぽふされた。
「幸せにおなり、キア」
「はい、お父さま」
「師匠、俺が付いているから平気だ」
「ううん、お父さまも付いているから。キアを悲しませる輩はひとり残らず殲滅するからね」
「ん、俺も殲滅するから、安心して」
いや、逆に安心できないのだけど。裏ボスとラスボスは相変わらずだけど。
―――でも、あの時思い切ってお父さまの元に助けを求めて良かったと思う。お母さま。私は今、とても幸せです。どうしてタイムリープしたのか、その理由は分からなかったけれど。けれど何でか、お母さまにお礼が言いたくなったのだった。
(完)
※あと1話で完結です(`・ω・´)ゞ※




