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新たな家族


「まぁ、ナハト侯爵家に監視下に置く方が、彼女の身の上を考えれば安心だろうな」

そう、大公閣下が仰る。まぁ、本人的にも私の側にいる方が嬉しいらしいし。

ナハト家はお父さまの部下も常駐しているから、万が一ネッサさまの素性を知られて危険に晒されるようなことがあっても守れるよね。


「まぁ、キアが望むのなら叶えてあげるけど~」

うん、相変わらずお父さまは私に甘いわ~。


「それで、マリ・・・いや、スノウは」


「あっち。泣きつかれて寝てる」

お父さまが示したのは天蓋の中である。


ネッサさまによって本来の名と自分を取り戻した彼女は、兄であるお父さまにすがって泣き叫んだ末に疲れ果てて眠ってしまったのだ。

大公閣下がスノウさまの眠る寝台の前に立ち、そっと天蓋を開く。


「スノウ」


「―――れ?」

スノウさまのか細い声が響く。気が付かれたんだ!


「俺だ。スノウの、夫のカイルだ。わかるか」


「かっ、か?―――わ、私、私は、違うっ!」

「お、落ち着け!」

大公閣下がスノウさまを抱き留めたのが分かった。天蓋の隙間から、スノウさまの長いプラチナブロンドが垣間見えた。そして大公閣下の腕の中で、ふるふると震える小さな身体が見て取れる。


「私は、私はマリカじゃないの!私はあなたを騙して!」

先ほどよりも、前よりもずっと、スノウさまは自分を取り戻しているように思えた。


「いや、騙してなんていない。俺はずっとスノウを見てきたし、俺が愛してきたのもスノウだ」

た、大公閣下ったら、そんなじょ、情熱的なっ!

いや、でもそう言うところは確実に息子にも遺伝している気がする。


「かっか」

「カイルでいいと、言っただろう。スノウ」

「―――か、いる」

「あぁ、スノウ」


ずっと同じ屋敷で過ごしてきたのに、ずっとずっと遠くに引き離されていた夫婦のように二人は長いこと抱きしめ合っていた。




―――そうして暫くして、スノウさまはゆっくりと大公閣下に手を引かれて、ベッドを降りてユリウスと向かい合った。


「スノウ、わかるか。息子のユリウスだ」

「あ、ぁ、私、私はっ」

恐らく、スノウさまは解放される前の縛られていた時の記憶もあるのだろう。そしてユリウスを息子だと認識できなかったことを。

ユリウスは無表情でじっとスノウさまを見据えていた。その双眸は、お父さまがよく他者に向ける感情のこもらないものと同じで。


「―――ひどい、ことをしたのね」

「スノウ」

ユリウスはただ、黙ってスノウさまを見ていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

ただ、スノウさまはそう繰り返した。


「別に、俺はあんたのことはどうとも思っていない」

そうユリウスが冷たく言い放ったのは、せめてもの彼女への“気にするな”という気持ちが込められていたのだろうか。しかしそれは彼女の目に絶望の色を映す。きっと大公閣下が手を取っていなければ、すぐにでも崩れ落ちていたのだろう。


―――それほどまでに、別人として過ごさなければならなかった時間が遺した呪いの血の対価は大きかった。修復など、不可能なほどに。


「スノウさま」

私はスノウさまの側に寄り添った。


「私はキアラ・ナハトと言います。お父さまの、スノウさまのお兄さんであるルシアンの娘です」


「―――えっ」

スノウさまは、お父さまが生きていたことに当初は錯乱していたが、泣き疲れて眠りについた後は生きていてくれたことに安堵したようだった。


「私はユリウスと婚約しました。遠くないうちに正式に籍を入れる予定です。だから、もしよろしければお義母さまとお呼びしてもいいでしょうか?」

いや、むしろユリウスは即婚姻と宣言していたのだが、従兄であり王太子のローウェン殿下の結婚もまだだったため時期を見計らっていたと言っていい。この間めでたく王太子殿下とユヅカさまが結婚されたので、もう秒読みと言うところまで来ていたのが実情である。


「私が、おかあ、さま?」

「はい。これからお義母さまとの時間を過ごしたいです。ユリウスも一緒に。ね、いいでしょ?」

「キアが、望むなら」

ユリウスが戸惑いつつも頷く。


「これからは一緒にたくさん家族の時間を過ごせばいいんです。今まで、一緒にいられなかった分、たくさん」


「―――ありがとう」

スノウさまは目を潤ませて頷いた。


「その時は、大公閣下もご一緒に」

「あぁ、もちろんだ。だが、そのっ」


「えっと、閣下?あの、お忙しい時は無理をなさらなくても」

お忙しい方だから、無理を言ってしまっただろうか。


「いや、そうではなく。いつまでも“閣下”でなくていい。その、君の“義父”になるのだから」

「では、お義父さま、と」

「あぁ」


しかし、そんな和やかな雰囲気の中で、不満の声をあげたのが。


「え~、何で」

「お前は全く、変なところで嫉妬するな!」

大公閣下、いや、お義父さまに額を小突かれつつも、不満げなお父さまが何だか面白かった。


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