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雪の中の記憶

※本日はとあるひとの視点です※

※ラストに名前が出てきます※

※サイコちょっとだけ注意※


―――???


音もなくしんしんと降り積もる。


こんなつもりじゃなかった。


1年の半分を雪に覆われる雪深いその土地で、潜むように隠れるようにして暮らしていた家族のことを、私は何も知らなかった。


何でこんなことになったのか。


外に出てはいけないと言われていたのに、両親の目を盗んでこっそりと抜け出してそのひとに出会った。そうすればおいしいものがたくさん食べられて、広いお家で暮らせるからと言われた。


決して食べるものに困っていたわけじゃなかった。不満があるわけじゃなかった。ただ単に、子ども心に興味を持ってしまっただけだ。


その興味本位で連れてきたそれは、幸せだった全てを奪って行った。

動かなくなった3人の亡骸を前に、私は茫然自失のまま動けなかった。


しんしんと降り積もる雪が全てを封じ込めるようにしててつかせる。

そしてそれからが地獄だった。


―――確かに美味しいものはたくさん目の前に並べられた。広いお家に連れて行かれた。


けれど私ひとりだけ。必要なのは私ひとりだけだった。


名前を捨てられ、自分ではないひととして生きた。


いや、飼われた。


自分ではない誰かとして飼われた。

永遠に溶けない深い雪の中で縮こまりながら。


―――どうして、あんなことをしてしまったのだろう。


―――どうして、両親の言いつけを破ってしまったのだろう。


―――どうして、このひとたちは私を“マリカ”と呼んで“マリカ”として生かすのだろう。


やがて私は、“おうさま”というとても偉い人のお嫁になるのだと言われて買われて行った。また、買われるのだ。


しかし私は捨てられて、おうさまの弟だというひとに与えられた。そしてそのお役目の元に純潔を散らした。


だけどそのひとは優しかった。どこか記憶の奥底にいる誰かを思い起こした。


だからずっとずっと私が私ではないことも忘れて、幸せな日々を過ごしていた。

私が私であったことも忘れて、ただのうのうと暮らしていた。


けれどそんな偽りの幸せも突如として崩壊した。


その黒い髪も、アイスブルーの冷たい目も、私にも大切なひとにも似ていないそれは私を現実に引き戻した。


―――私は、何てことをしてしまったのだろう。


そして、何故。何故また、現れたのだろう。


これは、罰なのか。罪を忘れてただのうのうと大切なひとの優しさに甘えて見て見ぬふりをしてしまった私に与えられた罰なのか。


私は、恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。


ある日、その恐怖が爆発した。


その見返りは、全身に激痛を伴って帰ってきた。



―――以来、大切なひとの呼ぶ声が遠くから聞こえても、すぐ傍にあるその影に脅えていた。その亡霊に、悪魔に震えた。


約束を破って、マリカの皮を被った私に復讐に来た。


来ないで、来ないで、来ないで。


何度も何度も叫び続けた。いつしか叫び疲れて気が付けばベッドの上で空虚な時間に身をゆだねる。


不意に、懐かしい風が頬を撫でる。


失ったはずのその名を呼ぶ声がする。


『―――』


誰。


その名前を呼ぶひとなんて、もう誰もいないはずなのに。


『―――ウ』


私が殺した、その名前。


『もし、君が望むのなら』


聴いたことのない声。けれどわかる。


『君をここで殺してあげる』


私は、死ぬの?


やっと殺して、くれるの?


偽りだらけの私が、終わるの?


見覚えのあるアメジストの色が何の感情も映さないまま、ただずっと見降ろしている。揺れるダークブラウンの髪は、昔となんら変わらない。


「る、―――にぃ、さま」


けれど不意にそのアメジストの色が視界から消えた。そしてその色を求めて顔の角度を動かした。そうして見えたのは。


見たくなかった。


どうして。


どうして。


どうして。


ついに来たの?私を殺しに来たの?あなたを、あなたの大切な人を、私を、―――るーにぃさまを殺した、私を殺しに来たの?


けれどひどく恐ろしい。


「いや、やめて、やめて。お願い、お願い殺してっ!るーにいさまが私を殺して!!」

一心不乱にそのアメジスト色の瞳を求めて泣きすがった。


本当の私の名前を呼び、唯一私を私とわかってくれた。


るーにぃさまが、私を本物の私のまま、殺して。


「そうか。―――スノウ」

その言葉にほっと胸をなでおろした。


―――あぁ、やっと終われる。


「だ、ダメです!お父さま、ユリウスのお母さまなんですから!」


―ユリウス?―


―――だれ?あなたは、だぁれ?


「キア」

るーにぃさまが、その少女の名前を呼んだ。甘い茶色の髪に、オレンジ色に近い茶色の目。いつか見た色。


「きっと何か理由があるはずです!そ、それに、ユリウスと結婚したら、私のお義母さまになるんですから!」

お、かあさま?


あぁ、私が殺してしまった。


私のせいで死んでしまった。


お父さまはお母さまを愛していた。

お母さまもお父さまを愛していた。

ふたりとも、私を愛してくれた。


幸せな日々は、私のせいで壊れた。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

あの時のお父さまの目を、忘れることはない。怒りに満ちたあの目を。


その目が、また私に注がれている。


私が、“マリカ”になって、“マリカ”として生きたから。“マリカ”としてお父さま以外のひとを愛してしまったから、お父さまが復讐に来たの。


幸せの絶頂を迎えた私をいましめるために冥界から舞い戻った、死神。



「まぁ、あなたが“スノウさま”ですわね」

だぁれ?視界の端に揺れた、鮮やかな紫色のカーテン。


「私のマミーから聞き及んだ侯爵家じっか機密ですのよ。いつか必要な時が来ると。二次元マリカさまと同じ顔のひとに出会ったら、それはスノウさまだと教えられましたの。決して侯爵家じっかに感づかれることはいけないと言われましたけれど、全て滅んでしまいましたからね」

「アンタ、普通に喋れたんだな」

「お黙り!」

ふと聞こえた不機嫌な声にぴしゃりと告げ、シルバーブルーの不思議な瞳が絢爛に輝く。


「いつかそれが訪れた時のマミーからの遺言なんですの。“我がシュロス侯爵家の名に於いて、スノウの名を返す”だそうですわ。私は直系なので、その“権利”がおのずと移譲されたのですわ」


―――その瞬間、何かが弾けた。


マリカであった頃に、それを縛っていたものが外れた?


そして明瞭化してくる意識の中に膨大な情報が入ってくる。

スノウとして産まれて、スノウとして生きた記憶。そしてマリカの中に封印されたスノウが見てきた記憶。


「るー兄さま?どうして、生きているの?」


「やぁ、やっと目が覚めた?スノウ。君自身が眠っている間に殺してあげることもできたけれど。意図せず君自身が目覚めてしまったようだ」

そう語る口元には笑みが浮かんでいるのに、そのアメジスト色の瞳は何の感情も宿していなかった。




※続きは明日更新予定です(((o(*゜▽゜*)o)))※

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