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お父さまとの邂逅

※残虐描写注意、流血、肉片散乱、グロあり

※サイコ注意



私の腕を引っ張り上げる感覚が、不意に消えた。


そして甲高い悲鳴が上がった。


「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ、」

その悲鳴は、不自然なところで途切れた。


ブシュッ


ブチッ


ブシャアアァァァァッ


「っ!!」

声にならない悲鳴が、私の喉を上がってきた瞬間。不意に私の腕を掴む指の感覚が外され、私は宙に浮きあがった。いな、抱きかかえられたのだ。


「あぁ、キアラ!いや、キア!やっと会えた、俺の娘!」

お、お父さま?


お父さまは私を抱きかかえ、そして髪を優しく撫でてくれた。そして自身の頬を私の髪に押し当てて幸せそうに微笑んだ。


タイムリープ前の最期に、そして小説の挿絵で見た裏ボスのルシアン。ダークブラウンの髪に、アメジストの切れ長の瞳、整った顔立ち。全てがそのものだが、表情はタイムリープ前の最期のモノとも、小説の挿絵で見た凄惨せいさんな笑みとも違う。どこまでも優しく甘い笑み。


―――しかし。


「ひいいいいいいぃぃぃぃっっ!!!」

叔父の絶叫が響き、そして使用人たちの悲鳴も上がる。

お父さまが私を抱きながら叔父の方を向いた時、私は見てしまった。お父さまの足元に広がる血だまりと、叔母だったものの肉片を。


突然私の腕が解放された意味が、ようやっと理解できた。いや、理解できてない、できるかいっ!!目の前の光景が、まるで信じられない。


「こっ、この人殺しいいいぃぃぃっっ!」

叔父がそう叫び、逃げようと扉に向かった瞬間だった。


「五月蠅い」

その声は、タイムリープ前の最期に聞いたお父さまの地底から這い出るような低い声色と似ていた。


そして、その瞬間。


ブヂュッ


グシャッ


ブチイイイィィィッッ


断末魔の声を上げる暇もないほどに、叔父の体が霧散したのである。おびただしい血と肉片と共に、ころころと転がるのは醜く歪んだ頭部であった。


え、なにこれ。恐る恐るお父さまを見上げれば。


感情の感じられない、どこまでも冷たい紫の双眸。そして口元に弧を描くように浮かんだ凄惨せいさんな笑み。


―――これって、小説の挿絵の!?ちょっと待って。今はまだ、闇堕ち前じゃなかったの!?私が訳も分からずにお父さまの顔を見上げていれば、不意にお父さまが私の顔を見降ろす。


「キア、ずっと恐くて不安だっただろう?もう、安心だ」

そう告げるお父さまの顔はどこまでも優しく、甘く蕩けるように美しい。

―――いや、今まさに恐くて不安だらけなんだけど。そんな私の心の内を全く理解していないらしいお父さまは私のこめかみに口づけを落としてくる。


「にっ、逃げろぉっ!」

「ひいいぃぃっっ!」

はっ!使用人たちの声!


しかしそれが聴こえたのも束の間。


ドシャッ


グシャッ


ひ、ひいいいいいいぃぃぃぃぃ――――――っっ!!!


「さぁ、キア。行こうか」

そ、そこに行くのお父さまあぁぁっ!私はどこに連れて行かれるの!?お父さまはぐしゃぐしゃになった使用人たちのなれの果てを物ともせず悠々とその上を歩きながら、部屋を出ると。


行き先が分かっているのか、すたすたと進んでいく。


グチャッ


ドシュッ


気味の悪い音と共に、広がっていく血だまりの海。


「あ、あのっ」

「ん?どうした?キア」

私に向ける優しい笑み。しかしその間にも、お父さまは歩くのをやめず、血の海は広がり続ける。


「な、何を、して」

何してんの!?そう聞きたかったが、うまく言葉がでない。


「あぁ、大丈夫だよ。キア。キアをここに閉じ込めて、こんなになるまで痛めつけたこの家の人間は、全てお父さんが殺してあげるから」

お父さまが傷だらけの私の頬を優しく撫でる。確かに、髪はオリヴィア姉さまがいてくれたもののパサパサで、肌はボロボロ、着ている服も碌に洗濯すらしていない。


ブシュッ


ドビュッ


グチャアアァァァァァッッ!!!


「―――後は、あの部屋だけか」

え?あ、あの部屋って?


お父さまは脚を止めず、一直線に扉の前に向かっていくとその扉を蹴り破った。そして中にいた2人の人物が悲鳴を上げた。


「な、何ですか。あなたは!何故そのみなしごをお嬢さまの元に連れてっ!」

あれは、メイドだ。オリヴィア姉さまを信奉して付きまとい、私を“みなしご”とあざけっている。そうか、彼女に捕まっていたからオリヴィア姉さまはここに来られなかったんだ。


「キアっ!?」

そして先ほどまで唯一私の名前を呼んでくれる少女が叫んだ。


スイートブラウンの髪にオレンジ色の瞳を持つ、私よりも1歳年上のオリヴィア姉さま。そしてズカズカと近づいてくるメイドの体が、あり得ない方向に折れ曲がった。


ボキッバキッ


グシャッ


「―――今、何と言った」

お父さまの冷たい双眸が、動かなくなったメイドだったものを見据えている。


そしてお父さまの目がオリヴィア姉さまに向く。


「キアをどうするつもり!?キアを放して!」

お、オリヴィア姉さまっ!


「はぁ?」

酷く軽蔑するような双眸がオリヴィア姉さまに向けられる。ま、まずい!このままじゃオリヴィア姉さままで!タイムリープ前と同じ結末になってしまうんじゃっ!


「やめて!やめてお父さま!お姉さまを殺さないで!!」

自分でも不思議なくらいの大きな声が出た。


「キア?」

呆然としながら私を見つめる姉さま。そして不意に私に向けられた父さまの表情はきょとんとしている。


「何で?」

いや何でって、まず何でこんなことになってるのかを知りたいっ!!まだ闇堕ち前のはずなのに、何で―――っ!!!


「だ、ダメなの。オリヴィア姉さまは、私の、私の唯一の味方、お姉さま。だから、ころさ、ないで」


「んー、キアがそう言うなら殺さない」

ふふっと微笑んで私の頭をなでなでしてくるお父さま。よ、良かった、ひとまずはオリヴィア姉さまの命を救えたの??


「さぁ、行こうか。キア」

力なく崩れ落ちるオリヴィア姉さまを物ともせず、お父さまは颯爽ときびすを返し、屋敷の中を進んでいったと思えば。


―――外に、出た。


「ど、どこにい、行くの?」

私はどこに連れて行かれるの?


「んん、お父さんはキアと一緒ならどこにでも行くよ」

そう、お父さまはものっそい優しい笑みで微笑んで、私の頭にそっと頬を寄せた。


―――つまり、このサイコパスお父さまとずっと一緒ってこと?私、知らず知らずのうちに新手の破滅ルート踏んでないよね?



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