寝室
―――引っ越し祝いと言えば、おうどん。いや、こっちの世界の習慣ではないけど。それに確かお引越ししたほうの家か、浴槽の中で食べるやつだった気がするのだけど。細かいことは気にしない。だって異世界だもの。
異世界で味噌発酵させたり、醤油作ったり、コメの品種改良できたりするチート系主人公に比べればこれくらいのアバウトは許されると信じたい。
※お菓子に関しては大体作れる私。因みにカップ麺やおにぎりも立派な料理だと思っている。
「あら、いいかも!たまには姉妹で寝ちゃいましょうか」
「そう言えば姉さまと一緒に寝たことってないんですよね。パジャマパーティーしましょうよ」
「―――いや、待て」
晩餐を終えて私とオリヴィア姉さまがパジャマパーティーがてら一緒のベッドで寝ちゃおうと話していれば、唐突にユリウスが立ち上がった。
「どうしたの?ユリウス。確かユリウスの部屋にもベッドがあったから、大丈夫よね」
「いや、そうだが」
「ねぇ、ユリウスくん。今の発言はどう言うことかしら。確かまだ、婚前よね?」
「ぎくっ」
「あ、姉さま。普段は私とユリウスはふたりの寝室で寝てるんですよ。ユリウスがひとりじゃねられないと言うから」
「あら」
オリヴィア姉さまがユリウスを何だかかわいそうな目で見つめる。12歳までお父さまと添い寝してあげていた私。もらっていたのではない。あげていたのだ。ここ、大事。
そして、お父さまとの添い寝を卒業した私だが、ユリウスがあまりにも部屋で魘されながら寝るので、こっそりお部屋に入って傍で頭を撫でてあげていた。
そうしたら、添い寝してほしいとめっちゃかわいらしくねだってきて、いつの間にかユリウスが私の寝室に潜り込むようになったらしい。
なお、それについてお父さまはと言えば。
「キアが恋しくなった夜は、気配を消して添い寝するからね」
と、楽しそうに言っていた。え、そんなことしてたのお父さま。
まぁ、ユリウスの1匹、お父さまの1匹別にいいけど。ベッド大きいし。
※いや、そう言う問題とちゃう。
「俺も、気配を消して添い寝しよう」
―――ぐすん。
「いや、そこは姉さまの貞操があるからダメ」
「えっ」
すごいぎょっとされたのだが、オリヴィア姉さまは新婚なのだから。例え相手がエースと言えども。
「でも、キアとユリウスも婚前よね」
「あ」
そう言えばそうかも。でも紛れ込んでくるんだもの。防ぎようがないし、防ぐ理由もない。何せ添い寝してあげないとすすり泣くんだもん。
「あ、そうだ。それじゃぁ今夜はユリウスがひとりで寝ることになるわよね。どうしよう」
「あ、じゃぁお兄さんと添い寝するー?」
と、告げてくるオリヴィア姉さまの夫・エース。
―――
ついでにエースの結婚についてのみんなの見解はと言うと。
お父さま:いいんじゃない?エース本人も気に入ったみたいだし
アセナ:アイツに男女という認識があったのだな
ヴィダル:従姉妹とは好みが似るものなのですね
ユリウス:人聞きの悪いことを言うな
―――
「―――絶対ヤダ」
ユリウス、本気の拒絶。その目は底知れない虚無を宿していた。
「え~、じょーだんだよ~。あとおにーさんは今夜夜勤ねっ!」
―――夜勤。絶対闇に乗じて何かする気だこのひと!
「あら、そうなの?頑張ってね旦那さま」
「はーい、ハニ~」
「ぶぷっ」
何その新婚バカップルみたいな会話!オリヴィア姉さまは十中八九その夜勤の内容をわかってそうだし、それに“ハニー”って何。今そう言う夫婦ルール遂行中なの!?
「あ、そうだ。イイコト考えた」
前世のお泊りイベでも度々あったよね。
「私とオリヴィア姉さまはベッドで寝るから、ユリウスはその横にお布団敷いて寝てね」
「―――なぬっ!?」
そして、エースが夜勤と言うか、お父さまが夜勤なのでエースも同行するのだそうだ。「行ってらっしゃい」を言って寝室に移動した私たち。
最初はひとり布団の上ですすり泣いていたユリウスだけれど、翌朝目を覚ましたら、私を中心にオリヴィア姉さまとユリウスが両サイドをがっちりとキープしていた。
―――いつの間にぃっ!!!




