罪と罰
※拷問回注意!残虐描写アリ※
※引き続き第1王子殿下視点です※
「あ、やっと君も来たかぁ~」
待ちわびたのかのように口元にだけ笑みを浮かべた男―――ナハト侯爵がへらへらと告げてくる。
「少々昔馴染みと話していたから、遅くなった」
「それじゃ、次は古馴染みが相手かなぁ?」
「馴染むなんて気色悪い」
「相当嫌悪しているねぇ。ゾクゾクする」
そう、愉悦の笑みをたたえるナハト侯爵。はぁ、本当に。こんな人格破綻者なのに娘の前だけではでろ甘なのである。本当に信じられない。
―――が、それが父上の腐れ縁であったこの男だ。
「中はどうなっている?」
「あぁ、君んとこに預けてるウチの子がお楽しみ中。前にできなかった分やるって」
「あれは確かに過去最高クラスで激怒していたからな。侯爵はもう済ませたのか」
溺愛する娘であるキアラ嬢にケンカを売ったあれを放ったらかすとは思えない。
「君んとこに預けてる子が来るまで楽しんでたけど。あ、ウチのユリウスは楽しんだ後でオリヴィア嬢の婚約者とバカ王子をちょいと半殺しにしに行ったら、先にキアのところに帰るってさ」
「本当に何度半殺しにしても学ばない」
そして打たれ強いのは勇者だからか。しかし勇者なのに半殺し。いや、勇者だから半殺しで生きているのだろうか。
「多少は情はあったのだがな」
「多少?」
「初めて、産まれたばかりの弟を見た時は、嬉しかった。兄になれたことが」
しかし、前世の記憶を取り戻してからは兄と言うものが憎くて仕方がなかった。前世の私はどうあってもユヅカと結ばれることができなかった。私がユヅカの異父兄だったから。―――しかし、今世は違う。どうして、私だけ王子に生まれ変わったのかはわからない。けれど、もう一度出会えたのだから、今度こそユヅカは私が守る。
例えそれが弟を犠牲にしたとしても。
「勇者であるから、多くの者に望まれ、担ぎ上げられた。あんな毒女に狙われる。あんなに素晴らしいオリヴィア嬢がいるのに、その魅力にも気が付かないうつけだ。王位継承権を剥奪して塔に幽閉される方が、アイツにとっては幸せなのかもしれない」
「―――ふぅん?」
「塔の環境や監視などは私が請け負う」
「多少の情けをかけるのか。ふふっ、そう」
「腹いせに私兵を送り込むなよ」
「でも運動不足になったら困るでしょ?随時募集中だからねぇ」
「考えておく」
私がそう告げれば、ケラケラと嗤う侯爵の前を通り過ぎて、その奥へと進む。
―――その先では。
「い、い‶だいいいいぃぃっ!だずげでぇっ!だれがぁっ!」
「まだ叫べるほど元気なのか」
床に寝そべりピクピクと四肢を痙攣させる毒女の姿を、冷静に眺める私がいる。
「我が王子のためにちゃんと生かしておりますので」
「公開処刑するまでちゃんと生かしておけ」
黒装束に身を包んだアランの闇色の髪と目は、すっかり薄暗い闇に溶けているが、不思議なほど白い肌には血痕が飛び散っているのが分かる。手元に握った斧からは血が不気味な静けさの中に明朗な雫を落とす。
「あ、忘れるところでした。ローウェンさまは何にします?」
嬉々として問うてくるアランは、普段の侍従の顔とは打って変わりナハト侯爵のお仲間よろしい顔つきに変わっている。
そして、私の名を聞いた毒女はぱあぁっと顔を輝かせる。
「ろーえん、さまぁっ!たすけに、きてくれた、のぉ~?」
ガッ
「ぶへっ」
「汚らしい口で、私の名を呼ぶな」
この毒女に名を呼ばれる度に穢されている気がしてならない。私は毒女の頬を容赦なく靴で踏みつけ、口を開けないように圧をかける。
「ぐごごっ」
「鳴き声ですら汚らわしい」
「どういう思考してたら、この状況で我が王子が助けに来たって思うんでしょうか」
「はっ、こうやって男に媚びて生きてきた女だ」
「詳しいんですね」
「それなりにはな。あと、コイツは私の妃となる女性を長年にわたって苦しめた女だ」
私の言葉に「?」を浮かべて醜く淀んだ目を向けてくる毒女は、まるで理解ができない様子だ。
「えぇっ、それを早く言ってくだされば。みんなもっと気合い入れましたよ」
「死ぬだろ、公開処刑前に」
「あっはっは。それもそうですよね」
目の前で嗤うアランの表情を見て、毒女がらしくない動揺を見せる。
「お前のことが気に入ったみたいだな」
「そうみたいですねぇ、光栄ですねぇ」
私が靴を頬から外し、アランの後ろに下がると。毒女が恐怖の表情を浮かべる。
「傑作だ。地球ではなかなかできんが、この世界ではこういった拷問はお前が犯した罪に関しては合法だ」
「な、あぁ、たずげっ」
「何故、私がお前を助けなければならない?私の愛しいユヅカを不義の子と呼び、そして私との血縁関係を盾に脅してきたのはお前たち母娘だろう?本当に、毒のような母娘だな。反吐が出そうだ」
「え?は?」
「まだ、わからないか?」
私は、前世での名を口にした。この世界の言葉は、厳密に言えば日本語ではない。しかし、召喚者のチートなのか何なのか、この毒女は普通に日常会話を行える。これに関してはユヅカも同様だ。読み書きは勉強が必要だから、ユヅカは必死に勉強していたが。
私の名を聞いた毒女はカッと目を見開いた。そして、私に助けを求めようとしてきた表情に恐怖の色を上乗せした。
「あ、あ‶、そんな、ばか、な」
「私のユヅカを傷つけ、そして私とユヅカの仲を引き裂こうとした毒女がっ!」
ドゴッ
気が付いたら抑えきれずに毒女にズカズカと近づき蹴りを入れていた。
「がはぁっ!」
「ユヅカが、どれだけ苦しんでいたか!こんなんじゃ全く足りない!貴様は、どれだけユヅカから奪えば気が済む!」
ドガッ
「あえ‶ええぇ‶ぇっっ」
醜い呻き声をあげながら、今更泣き喚いても何ともならない。それほどの罪を、この毒女は犯したのだ。
「公開処刑日まで毎日、来てやる」
「あははっ、楽しみが増えましたねぇ~」
その言葉に絶望の表情を浮かべる毒女。そして入れ替わり立ち代わり、侯爵の私兵たちが出入りしていく。
※次回、番外編フィナーレです※
※本編はまだまだ続きます(`・ω・´)ゞ※




