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疑念と因縁

※今回も第1王子殿下視点です※

※悲恋、純愛要素あり※


―――異界より聖女が来た。


城はその日、異世界からの来訪者に対し大忙しだった。

そして、弟がその場に居合わせやらかしたことも。


結局、異世界から来たにも関わらず、国の情報や、機密事項をぺらぺらと述べ、その中には高位な王侯貴族の侮辱も含まれていたことから、スパイ容疑も含めて陛下と宰相が別室い監視付きで隔離することにしたらしい。


しかしながら、相変わらず勇者と言う建前だけは持つ愚かな弟は偉大なる異界から舞い降りた聖女の世話役を自ら願い出て、日々監視たちを困らせていると言う。影ではナハト侯爵も探りを入れているそうだが。


そして、その聖女と共に異界より紛れ込んだ女人がいたらしい。バカな弟が騎士たちに城の外に放り出させ、見かねた門衛がオリヴィア嬢が暮らす宮が近くにあったため、同じ女性でもあり、良識のある彼女に助けを求め、保護されたそうだ。そしてその後は、オリヴィア嬢がこの世界のことやマナーを教えるために行儀見習いがてら“侍女”とすることを提案している。


―――名前は。


カザミ ユヅカ?


その名前を見た瞬間、頭が真っ白になった。


そんな、はずがない。彼女は死んだはずだ。現に一緒に崖から落ちた私は死んで、生まれ変わっている。一体、どういうことだ。彼女は、単なる同姓同名か?


しかし、茶色い髪にグレーの瞳と言う特徴も他の身体的な特徴も柚津花ゆづかそのものだった。


「少し、出てくる」

いてもたってもいられず、席から立てば。


「ご一緒します」

侍従のアランがそう告げるが、それを断り真っすぐ彼女が保護されていると言う離宮に急いだ。



―――


形だけでも婚約者がいるオリヴィア嬢の元にいきなり押しかけては失礼に当たる。だからせめて遠くからでもいい。ひと目だけでも、彼女なのかどうか確かめたい。


オリヴィア嬢の離宮が見える場所で、柱の陰からそっと様子を窺った。―――そこには。



習いたてであろうか。少しつたないものの、オリヴィア嬢にお茶をれる柚津花ゆづかそのものの姿で、彼女はそこにいた。


遠くからちらりと聴こえてくる声も、表情も、柚津花でしかない。柚津花。今すぐに会いに行きたい。抱きしめたい。


―――だが、いきなりそのようなことをしたら。第一、柚津花が前世の私が生まれ変わった姿だと分かる保障はない。

取り調べの結果わかったのは、彼女が崖から突き落とされて気が付いたら異世界に来ていたと言う事実のみ。その調書の中に、前世の私の名前も許嫁の存在もなかった。

彼女は、私を覚えていないかもしれない。

私は、彼女にひどいことをしてしまった。

彼女を手に入れるために、一番彼女に見られたくない部分を見られてしまった。


―――彼女は、私を怨んでいるかもしれない。


そんな不安に胸が押し潰されそうになっていた時、遠くから呑気な声が聴こえてきた。


「あぁ、君を執拗に怨んでいると言うその女は、悪女オリヴィアの元にかくまわれているらしい」

「まぁ、何てひと!やっぱり類は友を読むって言うわね!」

―――類は友を呼ぶだ、バカか。


そう、舌打ちをしつつもその声の主の一方が誰だか分かっていた私は、柚津花に近づけさせまいとその進路を塞いだ。


「あ、兄、上」

突然進行方向に私が現れたことで狼狽えたリカルドがピタリと止まり、それに合わせるように黒髪黒目の少女がリカルドの腕にぎゅむっと抱き着く。


「やだ、だぁれ?リックに似てるけどぉ。お兄さん?不義の子ってやつ?」

そう、ケロッとしながら上目遣いに妙なしゃべり方をする女は、恐らく特徴からもあの“聖女”だろう。しかしその姿は初めて見るはずなのに仕草からしゃべり方まで全てがどうしようもなく、気持ち悪い。吐き気がしてきた。


―――何なんだ、この女は。


それに、私のことを不義の子だと言い、壊れてしまった母上の讒言ざんげんを、会ったこともないはずの彼女がぺらぺらと語ったと言うことも調書にあったな。不敬にもほどがある。そしてそれに何も感じていないのか、リカルドはへらへらしている。


「でもぉ、リック見たいな勇者なすっごぉい王子じゃないんでしょ?」

「ま、まぁ、勇者なのはぼくだけだからな!」

「そうよねぇ、未来の王太子も、リックなんだからぁ!」

「いや、それは、そのぅ」

一歩間違えれば、反逆罪にもなりかねないことをつらつらと。さすがのリカルドもそれは不味いと悟ったらしい。


「あ、兄上、ミナモはまだこの世界のことについて知らなくて、そのぉ」

調書では十分すぎるほどの知識を持ち合わせていたと言うがな。事実無根な誹謗中傷も含めて。そして未来を見通すようなことをつらつらと述べたらしい。

この愚かな弟は調書もまともに読まずに聖女にかまけているのか。いや、普段の執務もおろそかにしているほどだ。調書すら回ってこないのだろうな。


「はっじめましてぇ~、ローウェンさまぁ♡」

いきなり駆け寄ってきたミナモと言う名の聖女は、いきなり私の名を呼び腕に抱き着いた。その瞬間、奇妙な感覚に襲われる。


―――そして、直感した。この女はっ!


何故、姿かたちが違うのかはわからない。だが、魂が警告をあげているような気がした。


そうだ、前世でも同じようなことがあった。それを思い出した途端、強烈な不快感と吐き気に襲われる。


「あのぉ~、私ローウェンさまともお近づきになりたいなぁ~、なぁんてぇ~」


声が出ない、動けない。この女はっ!目の前に柚津花を苦しめ、そして殺した女がいるのに!


その時だった。


「いったぁっ~~~っ!」

不意に聖女が私の身体から突き飛ばされて床にたたきつけられた。


「ミナモ!オイ、何をする!」

血相を変えたリカルドが聖女を抱きしめ、怒りに満ちた表情でこちらを睨むが、聖女を私から突き放した侍従のアランが私の前に立ちはだかる。


「何を、とは?いくらあなたが第2王子殿下であっても、陛下から部屋から出ることを禁じられているその異界からの客人を第1王子殿下に近づけていい理由にはなりません。それも、いきなり抱き着き名前を呼ぶなどと、無礼にもほどがあります!」

アランは怒っていた。こんなにも怒りをあらわにするのはいつぶりか。


「んなっ!ミナモは聖女だ!それにずっと部屋の中にいては気が滅入るだろう!」

「あなたはご自身のしたことが分かっておいでですか!陛下の命に逆らったのですよ!それ相応の処罰をご覚悟ください!」


「うぐっ」

一切物おじせず、引き下がらないアランの形相にさすがのリカルドも俯く。


「ちょっとぉ、リック。この生意気な男、だれぇ?あ、でも顔だけはイケメンだから、私の言うことを聞くなら許してあげるぅっ!」

何様だ?この女は、いつもいつも!


「場をわきまえてください、異界からのお客人」


「私は客人じゃなくて聖女よ!」


「そうですね。聖女でなければ、今頃我が王子に危害を加えるかもわからない軽率な行動を目の前で起こされれば、八つ裂きにしていたでしょうね」


「な、何よ、や、八つ裂きって!こ、恐い、リカルドぉっ!」

あの女。相変わらずだな。私は近衛騎士を呼び、リカルドと女を引き剥がし、それぞれ別室と私室へと運ばせた。


「この件は早急に父上に伝えろ。そして私も後程、伺うと伝えてくれ」

「御意」

アランは慣れた所作で跪く。


「済まない、助かった」

「来るなと言われれば、影ながら配備につくまでです。まぁ、一瞬あの行動には唖然としました。ナイフを慌ててしまったので、その分遅れて申し訳ありません」


「いや、いい。私も護身術くらいは身に着けていたのに」

「いえ、これは我々の仕事ですから。しかし、聖女じゃなければ八つ裂きにしてやったものを」

「そう、できる理由を見つけ出さねばな」


「え?」

アランはきょとんとした表情で私を見上げる。相変わらず、こういうところがある。


「私は、覚悟を決めた」

「それは、陛下もお喜びになるでしょう」

そう、頷きを返したアランは、早速とばかりに父上の元へと飛んだのだろう。


「―――柚津花、今度こそは、必ず」

現在はオリヴィア嬢に勉強を教えてもらっているのか、本を広げながら必死のその内容を読み込んでいる柚津花の姿が目に入り、その姿を脳裏に焼き付ける。―――そして私は、父上の元へと向かう。






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