この世界で2度目の人生の幕開け
※まだサイコ発現前です※
※誤記修正済み※
―――キアラ8歳。
この世界に転生した1度目の人生を終えて、目を覚ました私は15歳から8歳の姿になっていた。因みに自分の年齢は、オリヴィア姉さまに確認して特定している。
だが、2度目の人生をこれからどう変えていくか、その前に立ちはだかった問題がある。それは、地球という星で日本という国で暮らし、更にはオリヴィア姉さま、リカルド王子、そして私のお父さまが登場する小説の世界と酷似しているという点。
最も重要なのは、私が裏ボス・ルシアンの娘だという点だ。7年後に起きる悲劇を防ぐには、早めにこの家を出なくてはならない。オリヴィア姉さまと一緒に。ただ、オリヴィア姉さまは未来の王太子の婚約者である。いたずらにオリヴィア姉さまを連れて逃げたところで、国家を敵に回すだけ。他に私ができることと言えば。
闇堕ち前のお父さまと再会することである。
お父さまは私を魔力で見分けることができるのだという。オリヴィア姉さまの魔力は平均的なもの、私の魔力は微弱なものらしいが、タイムリープ前の私のことをお父さまは一目見ただけでわかったのである。だから、お父さまに会う機会さえあれば、可能性はある。お父さまは私の魔力が微弱であっても、私が娘であることを見抜いて下さるはず。そして、何とかしてお父さまに助けを求める!仮にも裏ボスなんだから、魔法とか武術とか得意ですよ~にっ!と願ってことに臨むこととした。
さて、まずはどうしたらいいか。
そう言えば今日は私の誕生日だったっけ。後でオリヴィア姉さまがこっそり持ち出したお菓子を持ってきてくれるはず。私に何かプレゼントを渡しただなんて叔父、叔母夫婦にバレたら何をされるかわからないから。
もらっている古着についてはみすぼらしさを目にして叔父、叔母たちが喜ぶから、適度にオリヴィア姉さまがくださる。せめて身に着ける服を、そして暖を取るために。今では布団代わりにもなっている。けれど形の残るものはバレる危険があるからと、食べ物をもらっているのだ。普段からたいして食事を与えられていない私にとってもそれはありがたいものであるのに変わりはない。
オリヴィア姉さま、来ないなぁ。何かあったのだろうか。
不意に、脳裏によぎるのはタイムリープ前のあの出来事。オリヴィア姉さまは小説の開始時17歳だったはずである。しかし、恐らくタイムリープ前のあの日、お父さまに殺されてしまったはずである。もしかしたら生き延びてくれていたかもしれないが。いずれにしてもオリヴィア姉さまに危険が迫るのは間違いない。
だからこそ、その前に何とかしなくては。ちょっと様子を見に行くだけでもいいから。普段私が屋根裏部屋を出ると、叔父や叔母、使用人たちからのきついオシオキが待っているのだが、やはりオリヴィア姉さまが心配だ。オリヴィア姉さまはタイムリープ前からの唯一の味方。―――お父さまは、まだわからないけれど。それでも最期のお父さまの様子には私への父娘の情はあったのではないかと思えるのだ。
それだけを頼りに。
ゆっくりとバレないように屋根裏部屋の階段を降りると、遠くの部屋から怒鳴り声のようなものが聴こえてきた。
『―――だ!に、―――てもいいだろ!』
聞き覚えのある声だ。あの声は。知っているはず。ずっとずっと、その声を知っているはずだった。
忘れもしない。タイムリープ前の最期に聞いたあの、声は!
私は、使用人たちに見つかる危険はあったが、一心に声のする部屋に向かって走った。お父さまに、お父さまに会えば、きっと!
「―――だから、キアラはウチで暮らしたいと言っているし、それが姉の遺言でもあるんだ」
「そんなわけがないだろう!アイツがそんなことを言うはずが!」
「黙れ!貴様のような貴族でもない平民風情が、キアラを養えるとでも!?キアラが不幸になるだけだろう!」
叔父と、お父さまの声だ!叔父の言い分には言いたいことが山ほどあるが、今は構っている場合ではない。幸い、昨日オリヴィア姉さまが誕生日のことを伝えにご飯を持ってきてくれたから、走れる。
お父さま!
お願いお父さま、私を助けて!
「―――ぅさま!」
いきなり部屋に駆けこんできた私に、一行の目が集中する。叔父、叔母が驚愕している顔、使用人たちの嫌悪する顔、オリヴィア姉さまはいないようだが。
―――私の顔を見て、驚いて目を見開いているお父さま。
「あっ、ぅ、さまっ」
しかしそこで私の体力は尽きる。当然だ。昨日ご飯を食べられたからと言って普段から栄養失調気味で碌に運動もしてこなかった私の体力はほぼゼロに近い。それでよく走れたものだ。
多分、日本で走った記憶と気合い的なものしかない。オリヴィア姉さまのために。私のために。今度こそ生き残る!そう言う火事場のバカ力が働いたのだろう。
しかし、崩れ落ちる私の腕を素早く誰かが掴んだ。
「何でアンタがこんなところにいるの!」
叔母だ。素早く私の腕を引っ張り上げた叔母が憤怒の表情を浮かべている。
「いやぁ、申し訳ない。ウチのオリヴィアが」
叔父が取り繕うようにお父さまに語り掛けるが、お父さまは叔父の顔を見ることはなく、じっと私を見つめていた。
―――あぁ、お願い。私だと気づいて。オリヴィア姉さまじゃない。私はお父さまの娘!
祈るような気持ちでお父さまを見やれば。不意に私の腕を引っ張り上げる力が、―――消えた。
※修正部分:キアラの母=叔父の姉です