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再生と余韻

※今回の語り手も引き続き第1王子殿下です※

※ちょっと短めです※




「ローウェンさま?何ですか、それ」

執務室に戻れば、いつも仕えてくれている侍従のアランが私の手の中にある包みを見てきょとんとしていた。


「ナハト侯爵令嬢にもらった」


「えぇっ!?あのナハト侯爵令嬢にですか!?」


「―――何か、妙な噂でもあるのか」


「あぁ、いえ!そんな噂が流れていたら、侯爵に誅殺されますよ。何せ彼女がいるだけで侯爵だけではなくてあの大公令息のユリウスさまもたいそう機嫌が良くなりますから。影で微笑みの女神と呼ばれています」

至極真面目な侍従だと思っていたのだが、何故か妙にウキウキしながらしゃべりだしたな。


「何か幸運が舞い込むかもしれませんね」

「そんなはずがあるか」

そんな都合の良い話があるわけがない。第一、女神だと言うのなら、柚津花ゆづかに会わせてほしい。ただ、柚津花に会いたかった。彼女にそれを望んでも何にもならないのは分かっているけれど。


私は彼女からもらった包みを開いた。


「それ、何ですか?あ、毒見しましょうか?侯爵に半殺しにされる覚悟はあります」

「何故そこで侯爵が出てくる」

「だって、女神の手作りですもん。この間、リカルド殿下も半殺しにあったそうですよ。容疑はちょっかい出そうとした罪らしいですけど」


「―――はぁ」

あの男が過激派だと言うのは知っている。特に娘に対して異常なほどの執着を見せる。そんな男がユリウスだけは娘に近づけても何も言わないらしい。


―――同じ穴のむじな


一瞬、そんな前世の言葉が浮かんだが。


「問題ない」

「え、ですが」

「毒には慣れているし、もしそうだとしても侯爵はそこら辺も対策できるだろう。半殺しにしに来たついでに解毒を頼めばいい」

「仰っていることめちゃくちゃですよね、それ」


そうは言いつつも、侍従も何かを察したのか無理矢理毒見をしようとはしなかった。


久々に口に運んだそれは。


「―――甘い?」

「想像通り、甘味なのですね」


毒で倒れて以来、この世界に柚津花がいない現実を思い出してから、味を感じることがなかった。ただ、生命維持に必要な食べ物を摂取する。それを一日3食繰り返すだけ。そんな日常を繰り返すだけだから、ティータイムの時間を設けることもしない。


「―――っ」

何故かその味をかみしめるように、私はそれを味わった。こんなことは、いつぶりだろう。味覚を失ってから、長い時間味わうこともなかった味。


―――前世で、味わった。


―――柚津花を思い出す味。


「それにしても、ローウェンさまが間食なんて、珍しいですね。明日からは何かご用意しましょうか」

侍従は何かを期待するような目を向けてくるが。


「いらない」

侍従はその答えに少し寂し気な表情をしたものの、食べ終わればすぐにたまった書類を持ってきてくれた。また、取り留めのない時間が繰り返される。柚津花のいない空虚な時間が。


夕食も口に運んだが、あの甘味のように舌に響くことはなかった。これもまた、空虚なもので。私の味覚のことを知っている侍従は、私の反応を見て少し残念そうな表情を浮かべていた。


―――ただ、あの甘味の余韻だけはいつまでも、いつまでも心の中に残り続けた。



※キアちゃんがあげたものは何なのか!?お楽しみにお待ちくださいまし(`・ω・´)ゞ※

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