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絶望と死

※今回はとあるひとの視点です、下記注意事項にご注意くださいまし※

※内容を読めばわかるようになっております※

※ご注意※

近親相姦要素あり、悲恋もの、最終的には救われます


―――意識を取り戻した時。


傍にいたのは幼い頃から仕えてくれている少し年上の侍従のアランだった。


「あぁ、お目覚めになられて、良かった」

侍従は目尻に涙をためて、私の手を両手で包み込んで自身の額に引き寄せた。


「わ、たしは」


「ローウェンさまは、毒を盛られたのです」


「どく、を」


「犯人たちは全て捕縛され、即日処刑されました。ひとまずは、ご安心を」


「しょ、けい」


「はい」


「は、は、うえは?」


「申し訳ありません。暫くはお会いになることができません。これは、陛下の決定です」

何故?母上は、とても優しい方だった。王妃と言う立場でやっていけるのかと思われるほどに。だから、私が母上を守ろうと思っていた。


「げんき、なの、か」


「はい、どこもお怪我はございません」

怪我は、ない。


「びょ、き?」


「―――これ以上は、まだ陛下から止められております。しかし、命に別状はございません。まずはご自身のお身体を第一に」


「―――うっ」

「ローウェンさま?」

不意に、その言葉を聞いて涙が溢れてきた。


「恐かったのですね。もう、大丈夫です。私がお傍におります」

侍従はずっと手を握っていくれていた。


違う、毒を盛られたことが恐かったんじゃない。王族なのだから、毒にはならされているし、避けては通れぬ道だとわかっていた。母上が弟を、“勇者”を産んで以来、勇者である弟こそ次期王太子だと持ち上げる声が多かった。


それほどまでに勇者とは力を持つ存在だったから。

そして侍従が告げなかった真実も容易にわかってしまった。


―――ただの夢だとは思えなかった。だけど、全て見てきたから。




―――愛していたひとがいた。けれど、突き付けられた現実はどこまでも残酷で。彼女は幼い頃からの許嫁であった。ひと目見た瞬間に、愛おしいと思った。運命という存在が本当にあるのならば、彼女こそ運命の相手だと思った。


彼女が実家で置かれている状況も分かっていた。けれど、日本と言う国で、子どもであった私にはどうしようもなかった。彼女が高校を卒業すると同時に、私が彼女をあの家から絶対に連れ出す。そう、心に決めて毎日毎日、言いたくもないお世辞を言って、父親と母親、親戚どもの機嫌を取った。


父が築いた一大財産は、まるで在りし日の“財閥”とまで例えられた。実際に財閥が存在した時代には産まれていないからよくわからなかったが、それでもその中で地位を築くまでになった。


全ては、彼女のために。


彼女の代わりに結婚を勧めてくる親族や取引先もあったが、私は彼女以外選ぶつもりはなかった。そんなある日、あの毒女が現れた。


彼女の異母妹で、父親の長年の愛人であり後妻に収まった女の娘。彼女は何を思ったのか、愛嬌のある笑みで私に近づき、べたべたとスキンシップを始めた。


それが異世界にクローネ王国であったならば、すぐに彼女を騎士たちが取り押さえて引き剥がせたのに。本当にあの頃の私には力がなかった。本当に、必要な力が。


そしてその毒女や実の娘と結婚させようとする後妻が、毒女と共にやってきて私に衝撃の事実を告げたのだ。


―彼女の本当の父親は、私の父親だと―


嘘だと言うのなら、調べてみればいいと。御曹司の妻となればその血統も重要視される。以前出されたものは、彼女が前妻と戸籍上の父親の子だった。しかし改めて調べてみれば、その結果は確かに、私と片方だけ血がつながっていたのだ。


こんな、残酷な真実があるだろうか。幼い頃から恋焦がれ、そしてやっともう少しで救い出せると、守ってあげられると思ったのに。


そしてその事実を盾に、後妻は自分の娘を妻にするように迫ってきた。そして娘の毒女は更に狡猾な提案をした。


―――私と結婚すれば、使用人として彼女を同伴させると。


私は彼女を守りたい一心でその提案を呑んだ。そして、彼女との婚約披露パーティーの日。あれほど彼女を連れてこないで欲しいと言ったのに、継母は彼女を連れてきた。


そして、私の隣に毒女がいるのを見た彼女は、会場を飛び出した。


慌てて追おうとするが、出席者たちに邪魔されて彼女に追いつけなかった。


ようやっと彼女の後を追い、探し回っていれば。少し離れた崖の外れに彼女の姿が見えた。そしてその後ろにはあの毒女がいたのだ。


駆けた。風を切って駆けた。


―――けれど間に合わなかった。


彼女は毒女に崖から突き落とされたのだ。


私は叫んだ。彼女の名前を。勝ち誇ったように振り返り、何事もなかったように私に擦り寄ってきた毒女を突き飛ばした。毒女がその後どうなったかわからないが、信じられないと言う表情で宙に浮かぶ毒女の表情を見た。


だが、毒女には構いもせず、私は彼女の元に手を伸ばした。崖から落ちたって知ったことか。空中で、彼女に手を伸ばした。



―――だって彼女がいない世界なんて、意味がないから。


物凄い速さで落下していく。


世界が流れていく。


けれど私は最期に、彼女の温もりをその腕に抱いた。


「―――来世はきっと、君を守れる力を手に入れるから。だから」


―――だから、待っていて。





柚津花ゆづか





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