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剥がれた化けの皮

※ユヅカさま視点の提供です※


―――彼、第1王子殿下が国王陛下と王妃殿下の本当の御子ではない。


勝ち誇ったように告げた第2王子殿下。これ以上、私の大切なひとたちから奪わないで。そんな悲痛な心の叫びもぐっと押し殺すしかない。


しかし、そんなことは事実無根だと国王陛下が告げてくれた。そして第2王子殿下もさすがに国王陛下に言いくるめられて意気消沈した。


けれど、それでも聖女さまは食って掛かる。そして、まるで聖女様自身が日本ではまっていた乙女ゲームのヒロインのように、わめきたてた。


彼女がはまっていた乙女ゲームについては、父に買ってもらったことをことさら私に自慢してきた。ほとんどの内容はただ黙ってじっと聞き流していた。抵抗したり無視して去ったりすれば、好子に叩かれ、ありもしない罪をでっち上げられて、私が父と継母に怒られ、二人からも叩かれるから。


感情を押し殺して空気のように立ち続けあの子の自慢話を聞かされた。もしかしたら、私が読んだあの小説もゲーム化したのだろうか。私の楽しみと言えば読書くらいしかなかったから、ゲーム化などそう言った最新の知識にはうといけれど。


しかし、陛下の言葉にも耳を貸さなくなった聖女さまは喚き散らした。私は感情を押し殺すのには慣れていたけれど、さすがに我慢できずに声を絞り出した。

彼女はいつもいつもそうやって、手に入れられないものがあれば泣き叫んでわめき散らす。そうすれば、何もかも自分のものになってきたから。―――私の、名前以外は。


そしてここでも、それ以外の全てを奪おうとしている。もしかしたら、この異世界ならば私の名前を奪おうとしたのかもしれないが、今の彼女は“聖女”の名前と姿を手に入れた。自分が唯一手に入れなかった他人の“名前”を手に入れた彼女は、最早制御不能だった。


全てが、ヒロインの名のもとに自分のものになると思っている。

そんなのは許せない。許せるはずがなかった。オリヴィアさまも、キアラさまも、ユリウスさまも、キアラさまのお父上も、第1王子殿下も。


―――もう、これ以上奪わないで。


「もう、やめなさい!」


オリヴィアさまの隣に並び立つ。下手をすればオリヴィアさまの醜聞になってしまう。けれど、これ以上あなたが奪っていいものなんてないの!


「あなた、好子よしこでしょ。風海かざみ、好子。姿かたちが違ってもわかる。その性格は変わらないもの」

そして、その醜悪な表情もね。


私の言葉を聞いた好子はくわっと目を見開く。


更に喚き散らし、自分がヒロインなのだと叫ぶ好子の肌がポロポロと剥がれ落ちる。髪が抜け落ちる。


ぼさぼさのいたんだショートヘアー、そばかすだらけの日焼けした素朴な顔をした少女。そのショートヘアーはどうしてそうなったのかよくわからないが、それは紛れもなく“好子”だった。


かつて継母が言った言葉が聴こえた。“ひとに好かれる、良い行いをする子に育つようにそう名付けた”のだと。


しかし、好子はその名前を酷く嫌い、珍しい響きの私の名前を羨んだ。それが欲しい欲しいと叫んだ。だが、そればかりはどうにもならなかった。戸籍上の問題だし、年齢も3歳ほど離れている。私に成り代わることなど不可能だし、容姿も異なっている。


私の名前は誰が付けたかはわからない。もしかしたら父と母が唯一私にくれたかもしれない名前まで、あの子は欲しがった。


唯一残された、私の名前まで。


―――それほどまでに、あなたはミナモ・ユメミヤになりたかったの?


そして、“私が名前を呼んだから戻っちゃったじゃない”と好子は叫んだ。彼女のあの姿は、本当の名前を呼べば戻るものだったのか。


私から名前以外をすべからく奪って行ったあなたが、欲しがったものは自分ではない他人だったのか。他人から奪えば、自分のものになると思っていたのか。何もかも浅はかでしかない。


本当の姿を取り戻した好子は聖女の力を失っていた。そして好子は牢屋へと引きずられて行った。


当然、彼女の化けの皮をはがした私にも話を聞かねばならないと陛下は仰った。私が迷いなくその言葉に従うと、オリヴィアさまは優しく私に付き添ってくださった。

オリヴィアさまには迷惑をかけたくはなかったけれど、握られたその温かい手を振りほどくことなんて、私にはできなかったから。



※因みに毒女さんは日本ヨシコさんの会から永久追放されましたので、全国のヨシコさんの皆さまご安心くださいまし(`・ω・´)ゞ※

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