断罪劇
※引き続きユヅカさま視点のお話です※
―――オリヴィアさまの侍女となって暫く経ち、それからも第2王子殿下の襲来はあったものの、オリヴィアさまが完膚なきまでに叩きのめしてくださった。そしてオリヴィアさまが近々行われるパーティーに侍女として同伴してほしいと私に告げてきた。
「あの、私は礼儀作法もまだまだですし。その、服だって」
「心配はいらないわ。必要なものはこちらで用意するし、それに以前から話していた私の従妹が婚約したから、紹介したいのよ」
そう、微笑みながら告げてくださった。
第2王子殿下は婚約者のオリヴィアさまのエスコートもされない。何だか両親のことが一瞬脳裏をよぎったが、オリヴィアさまは自身の唯一の肉親だと言う従妹のキアラさまをとても大切に思っていらっしゃる。本当の妹のように。そして私や他の使用人仲間に向ける目も優しさに満ち溢れている。だからこそ、オリヴィアさまだけは違うと思えた。
そして、そんな大切な従妹さんを私に紹介してくれることがとても嬉しかった。
私は、オリヴィアさまのその言葉を喜んでお受けすることにした。
―――そしてパーティー当日。オリヴィアさまに付き添って入場した会場で、オリヴィアさまによく似たスイートブラウンの髪にオレンジブラウンの瞳のかわいらしい少女を紹介してもらった。
彼女が従妹さんのキアラさま。そしてキアラさまの隣に立つ黒髪にアイスブルーの瞳を持つ青年に思わず驚いて目を瞠ったが、ふたりがとても幸せそうにしているのを見てそっと安堵した。
―――やはり、ここは小説に似ているだけでそのものじゃない。
小説の中の彼は、両親に殺されそうになった挙句、いないものとして扱われた。私の両親は殺そうとはしなかったものの、私をいないものとして扱った。両親に全くと言って似ていない彼の容姿、そして両親から愛情を受けられずに闇に堕ちたもうひとりの主人公。私と、似ていたから。だから小説を読んだ時、酷く印象に残っていた。そして、酷く悲しかった。だけど“彼”が幸せそうに微笑んでいる。私を拾ってくれたオリヴィアさまの従妹であるキアラさまが私と“似ている”彼の隣にいるこの縁が、とても嬉しかった。
しかし、そんな幸せな時間も、突然割り込んできたその怒号に吹き消されてしまった。
オリヴィアさまを名指しした第2王子殿下と、それに寄り添う聖女さま。そして恋愛小説のように、オリヴィアさまを断罪し始めたのである。
しかし、そんな第2王子殿下の言葉にも淡々と言葉を返したオリヴィアさまは、私と一緒に城下で暮らそうと仰ってくださった。私は迷いなく付いて行くと告げた。この世界で私が行く場所など、オリヴィアさまのお傍しかないのだから。
そんなオリヴィアさまの言葉に第2王子殿下は更に追い打ちをかけるように「王都からも出て行け」と言い出す。いくら何でもひどすぎる!けれどここで私が怒ったら、それこそオリヴィアさまの立場が悪くなってしまう。私の行動の行きつく先は、全て主で恩人であるオリヴィアさまなのだから。
そしてそんな第2王子殿下の言葉もものともせずオリヴィアさまが言い返せば、聖女さまもまた賛同する。本当に、何もかも私から奪い取ろうとするのね。
更に一番許せなかったのが、聖女さまがキアラさまを名指しし、そしてユリウスさまとの仲を引き裂いたことだ。私と許嫁の間と同じ。救われようとしている彼の幸せをも引き裂こうとするの?
しかし、そんな聖女さまの言葉にも第2王子殿下の追撃にもひるまず、ユリウスさまは原作でも度々見せていた感情を押し殺し、非情な表情を浮かべて聖女さまを牽制する。
きっと、とても傷ついている。私にはわかった。そして、私は奪われてしまったけれど、自らキアラさまを奪われまいと必死に抵抗する彼を見て羨ましくも感じつつ、そして応援したくなった。
そして続いて現れた男性にも私は目を瞠った。オリヴィアさまがこっそり、キアラさまの御父上だと教えてくれた。
―――あぁ、あなたにもいたんだ。大切な愛する存在が。孤独を共有したユリウスさまと彼は原作では共に手を組み、ユリウスさまは彼に傾倒した。
そして、二人が何よりも大切に守ろうとしているキアラさまの姿に、小説の最後の彼の言葉が蘇る。彼もまた、その未来を回避したのだ。
更には上半身だけ分裂してぎゃぁぎゃぁ騒ぐ聖女さまと第2王子殿下の元に国王陛下や宰相さま、グウェンさまたちが現れる。
そしてその場に一緒に来た青年に目を奪われた。―――どうして、この世界にいるの?
わからなかった。容姿はまるで違うのに、彼だとわかった。
だけど、今は。
国王陛下はオリヴィアさまと第2王子殿下の婚約解消を認めてくださった。これで、オリヴィアさまが自由になれるとほっと胸をなでおろす。そして“彼”が国王陛下から正式に“王太子”になることが告げられた。
―――しかしそんな安堵の時間も長くは続かなかった。




