化けの皮
―――さて、リカルド殿下がぶっちゃけ発言をしたその対象である第1王子・ローウェン殿下は滅多に公の場に姿を現さないことで有名だ。他国に留学していたり、執務でお忙しかったりといろいろとあったらしいが。
「リカルド、ローウェンは正真正銘、私とそなたの母との子だ。お前のその発言は私に対しても母に対しても、王太子となるローウェンへの侮辱になる」
「そんなっ!でも母上が申しておりました!それは実の子ではないと!!」
リカルド殿下の言葉に周囲は騒然となるが、当のローウェン殿下は一ミリたりとも表情を動かさなかった。
「それは、王妃フレアリカが長らく患っていることに関連している」
そう言うと、陛下はちらりと大公閣下を見やる。大公閣下がゆっくりと頷くのを確認すると、国王陛下は再び続きを話し始める。
「その昔、ローウェンが子どもの頃に、毒を盛られたことがあった。それは勇者と言う役目を持って産まれたリカルド、そなたを推す者たちが勢い余って犯した罪だ。もちろん罪人たちは全員処刑したが。その後フレアリカは、ローウェンが狙われたのは自分がそなたを勇者として産んだせいだと思い込み、ローウェンを実の子ではないと叫ぶことで守ろうとしたのだ。家柄は高貴ではあったものの、彼女は王妃と言う重圧に耐えられなんだ。そして精神を病み、離宮にて静養している。それが真実だ」
「は?そ、そんな。そいつが、実子?そんなバカな!」
「リカルド、お前は今この時を持って、私とフレアリカの子ではない。ローウェンへの無礼な発言は控えよ」
「そんなっ!ぼくは勇者だ!」
「だから何とする。近衛騎士団長であるグウェンにも全く歯が立たぬではないか」
「うぐっ」
マジか。
「お父さまはグウェンよりも強いよ~」
そう言って頬ずりをしてくるお父さま。うん、国王陛下がお父さまを手懐けられる時点で、勇者いなくてもいいかも。だって、勇者が相対すべき本来のラスボスと裏ボスは世界を征服しようとしてないもの。
「そして、聖女ミナモ・ユメミヤ殿、あなたが神殿の検査により聖女と認められたことは承知の上だが」
「そうよそうよそうよ!私は聖女なのおおおぉぉぉぉっっ!!何でこんなことになるの!?リックもユリウスもグウェンもヴィダルも全員私のものになるはずなのにいいぃぃっっ!」
え?何でそこにウチの執事ヴィダルが出てくるの?もしやゲーム化でヴィダルが攻略対象に入ったのだろうか。そして彼女は逆ハーエンドを狙っていたと。
「静粛に!」
「あああああぁぁぁぁぁぁ――――――っっ!!!」
陛下の言葉にも耳を貸さないミナモさま、いやミナモもどきが奇声を発する。
「もう、もうやめなさい!」
そう、凛とした声で告げたのは、意外や意外。ユヅカさまだった。オリヴィア姉さまと並んだユヅカさまは、決意のこもった目でミナモを見降ろし、ミナモはギリっとユヅカさまを睨む。
「あなた、好子でしょ。風海、好子。姿かたちが違ってもわかる。その性格は変わらないもの」
そう、ユヅカさまが言った瞬間、ミナモの目がくわっと見開かれる。
「や、ややや、やめろおおおおぉぉぉぉぉ――――――っっ!!!ああぁぁぁっっ!私、私ミナモじゃなくなっちゃう!私はミナモ・ユメミヤ!ヒロインで聖女なのにいいぃぃぃっっ!!!」
いきなり喚き散らしたミナモの肌がポロポロと剥がれていき、髪が抜け落ちる。そしてその場に残ったのは、ぼさぼさの傷んだ黒いショートヘアーにヒロイン・ミナモちゃんとは似て非なるそばかすが目立ち、日焼けした素朴な少女の顔だった。
「あ、あ、あ、あっ」
そしてホールの柱に括り付けられた鏡を見て、彼女は絶望に満ちた表情を浮かべる。
「あんたが、あんたが私の名前を呼ぶから、戻っちゃったじゃないいいいいぃぃぃぃ―――――っっ!!!」
ユヅカさまに掴みかかろうとしたミナモ、いやカザミ ヨシコは近衛騎士隊たちに取り押さえられる。
「宰相、聖女鑑定の手配を」
「はい、すぐに」
宰相である大公閣下はすぐに神殿の神官を招き、彼女の手に水晶を握らせる。
しかし何も起きない。
「聖女ならば、まばゆい光を放つはずだな。私も確認した」
「えぇ、その通りでございます」
神官が首を垂れる。
「つまりこの少女は、やはり」
「そのようだ」
大公閣下の言葉に陛下が静かに溜息をついた。
「リカルドを塔へ、そしてこの少女は牢へ!ユヅカ殿、申し訳ないが。彼女との関係を後程聞かせてもらうが、良いか」
「はい」
陛下の言葉に、ユヅカさまは抵抗せずに応じる。そしてその横にはオリヴィア姉さまが付き添った。
こうして、化けの皮が剥がれた聖女、いや偽聖女カザミ ヨシコさんが近衛騎士たちに引きずられていき、パーティーは当然ながらお開きとなったのである。




