リカルド殿下とミナモ・ユメミヤ
Q:何故第2王子はここまでアホになってしまったのか
1:原作小説の強制力
2:未確認飛行物体に攫われて改造されたが失敗してアホになってしまった
3:もう本人の性格なんだからしょうがない!
原作小説ではここまでアホではなかったし、主人公っぽく普通のリーダータイプだった。とても国民たちにも人気があった。あと、「2」の答えは作者の他小説のネタだろ、こっちに持ってくんな―――っ!あと、残念ながら未確認飛行物体の正体は大体新種の魔物だから!女神さま違うからこっちの世界!!
―――と、なれば正解は「3」しかない。うん。
私の隣のユリウスの覇気がほんのり感じられたので、ちょっと腕に手を当てて「落ち着け」とサインを送っておく。
しかしながら、不躾に名前を呼ばれたオリヴィア姉さまは毅然としていた。わぁ、やっぱり淑女の鑑!第2王子になんてもったいない限りである。
いいえ、やるつもりなど、ない!
―え、殺らないのか?―
ユリウスがアイコンタクトを送ってくる。そっちの「殺る」と違うからぁっ!!
「さて、オリヴィア・ノグレー」
厳かにオリヴィア姉さまの名前を再び呼んだ第2王子リカルド殿下。ここだけ見ると、リカルド殿下はミルクブラウンの髪に青い瞳のイケメン王子が毅然とした態度で臨んでいるようにしかみえない。そりゃぁそうだ。原作小説では主人公なのだから。
―――胸元に抱き寄せているご令嬢の存在を除けば。
異世界ファンタジー風ひらひら王子コスチュームに身を包んだリカルド殿下が抱き寄せているのは、原作小説の挿絵で見たヒロイン・ミナモ・ユメミヤそのものだったのだ。
まるで、原作小説のヒロインそのものを創り出したかのようなその姿に、私は呆気にとられた。恐らく彼女がミナモ・ユメミヤで間違いはないのだろう。さすがは主人公。ツーショットも原作小説の表紙のように決まっている。
ミナモ・ユメミヤは長く艶のあるふんわりとした黒髪に黒い瞳を持つ美少女だ。前髪はぱっつんに切りそろえ、後ろの髪は胸元までで切りそろえている。瞳はぱっちりしているが、微笑むとまるで慈愛の女神のように美しい。肌は雪のように白くて華奢な四肢。異世界ファンタジーなロイヤルブルーのドレスを着ていても映えるのなんの。さすがはヒロインである。
本来ミナモ・ユメミヤはヒロインらしく純情で真っすぐ。優しい心を持っているが、出る時は出る。主人公のために体を盾にして芯の強さをアピールする。本来は好感度の高いかわいらしいヒロインである。私はユリウスのファンだったけれど、彼女の真っすぐさは好感を持てたし、どうにかしてユリウスと和解することはできなかったのか。それだけが悔やまれる。
でも何故だろう。目の前のミナモ・ユメミヤは姿かたちはそのものなのだけど、その表情は私が見てきた彼女の表情とは異なり、めちゃくちゃ目を潤ませながら脅えたようにリカルド殿下の体に貼り付いているのだ。とても主人公のために体を盾にしてまで守ろうとする意志の強さは感じられなかった。
まぁ、リカルド殿下も原作とは違い残念な性格に育ってしまったので、彼女の場合も現実の性質が異なってしまうのもしょうがない。ここは現実なのだから。
現に、オリヴィア姉さまも原作とはかなり異なっている。原作では悪役令嬢として登場したオリヴィア姉さまは、突然現れた異世界の聖女ミナモ・ユメミヤに嫉妬し、数々の嫌がらせを行った。美人ではあったものの、その表情は嫉妬に歪んでいた。
けれど現実のオリヴィア姉さまは毅然とした態度でリカルド殿下に向き合い、淑女の微笑みを浮かべながら丁寧にリカルド殿下にカテーシーを決めていた。
「はい、第2王子殿下」
そして、不躾に呼び捨てで呼ばれてもそれに食って掛かることもしない。誰が見ても目を奪われるほどにオリヴィア姉さまは美しく輝いていた。周囲はリカルド殿下の突然の声にどよめいていたが、それすらも鎮めて会場中を凛とした空気で満たしていく。
「―――くっ、相変わらず面の皮が厚いな」
貴族令嬢が面の皮厚くなくてどうするよ。私なら右ストレートを頬に決め、更には腹に一発、金的の後、極めつけのアッパーパンチを決めたい。今ならば、近衛騎士団たちも見逃してくれないだろうか。いや、多分見逃してはくれないし、一応リカルド殿下も王子なので我慢するのだ。だからこそ面も厚く保たないとね。
お父さまやユリウスのように瞬殺しないだけありがたいと思ってほしい。
「貴様のやったことは全てお見通しだ!」
「何のことでしょう、殿下」
「何をしらじらしい!貴様がやったことは、ミナモから全て聞いているぞ!」
「わたくしが聖女さまに何をしたと申されるのでしょうか」
「ふんっ、ミナモが泣きながらぼくに訴えてきたのだ!そこの偽聖女・ユヅカと言う女と謀ってミナモを虐めていたことは百も承知だ!」
いや、ユヅカさまは聖女を名乗ってはいないと思うし、今はオリヴィア姉さまの侍女である。
「わたくしとわたくしの侍女が何をしたと仰るのでしょうか」
「まず、ミナモを狭い部屋に閉じ込めただろう!ミナモはこの世界を救う聖女だと言うのに!」
いや、狭い部屋に閉じ込められたのはスパイ容疑がかかっていたからである。そして、世界を救うと言っても何から救うのだ。現在、ラスボスであるユリウスは私の婚約者として大人しくしているし。裏ボスのお父さまもサイコなだけでこの世界の裏ボスとして君臨しているわけじゃない。
原作小説ではラスボスのユリウスと、ユリウスがけしかけた魔物に脅かされた世界を何とかするためにふたりは戦ってゆくのだけれど、別に脅かされてはいない。ユリウスとお父さまが毎日私にべったりなおかげか、物騒思考以外は平和なもんである。
「さらには、夜な夜なミナモを恐がらせる嫌がらせを行っていると聞く!」
それはお父さまの部下の方々が殺気を込めて見張っているからだろうか。そこら辺はお父さまにお願いして善処することも可能かな。―――このバカ王子がオリヴィア姉さまを責め立てていなければの話だけれど。更にはユヅカさままで巻き込むなんて、何を考えているのか。
「ミナモの悪口を吹聴した挙句、頭から水を掛けたり、ミナモにぼくがプレゼントした宝石をめちゃくちゃに壊したり、ぼくがプレゼントしたドレスを引き裂いたり!」
私個人の見解だが、もしもこの王子がミナモさまと常に一緒にいるとすれば、その悪口の9割はリカルド殿下のせいだと思う。あと、頭から水を掛けるとか王城の使用人さんたちの手を煩わせるようなことをオリヴィア姉さまがするはずないし。
あと、何でミナモさまは宝石やドレスを王子からプレゼントされているのだろうか。おかしくね?それなら先に述べた悪口と言うのは王子のその行動が原因なのではと思えてくる。
「貴様は仰々しくもこの城にぼくの婚約者として居候しているにも関わらず、このような蛮行を聖女ミナモ・ユメミヤに働いた!貴様のようなものは次期王太子のぼくの妃として相応しくない!ぼくはこの場で宣言する!今、この瞬間。ぼくはオリヴィア・ノグレーとの婚約を破棄し、そして聖女ミナモと婚約をすることを宣言する!」
「リック!」
聖女・ミナモが感極まった表情でリカルド殿下の愛称を呼ぶ。因みに、オリヴィア姉さまがリカルド殿下の愛称を呼んだところは見たことがない。
「さぁ、即刻この城から、いいや国から出ていくがいい!」
うわぁー。とんでもないこと宣言しやがったぁー。完全にざまぁされ王子フラグが立った―――。
※風邪なのか体調不良を拗らせてしまい( ̄▽ ̄;)、本日も一話のみの更新ですが、どうかご容赦くださいまし<(_ _)>※




