とある大ニュース
―――そして、現在
みんなちょっと忘れていたかと思うけれど、今までのは私たちの昔の回想である。そう言うこともあって、それ以来私たちとリカルド殿下の関係は最悪なものである。
リカルド殿下はしょっちゅうユリウスに茶々を入れてくる。オリヴィア姉さまを軽視する。オリヴィア姉さまとは、ユリウスも一緒に度々王城にてティータイムを楽しんでいる。
尤も、リカルド殿下の入室はどうあっても許可されない。
一度お父さまにオリヴィア姉さまとリカルド殿下の婚約をどうにかできないのか相談してみたことがある。そうしたら。
『ん?じゃぁ、そのバカ王子をお父さまが殺してあげよう』
と、笑顔で言われたので必死で止めておいた。
まぁ、婚約者が暗殺されたとなればオリヴィア姉さまの醜聞に繋がると必死に理由を絞り出して。その結果、暗殺と気取られない方法をお父さまに提案され、ユリウスも参入し、危うく王子暗殺計画が練られそうになり最初よりもかなり必死で止めたのは言うまでもない。
ついでに周りにいる使用人たちも暗殺者、イカれた魔法使い、殺人狂及び戦闘狂なのでみんなノリノリ。あぁ、こういった話題を我が家で出したら大変なことになってしまうと言う教訓を得た私であった。
そして王城のパーティーまでもう少しと言う日に、王国中に大ニュースが駆け巡ったのである。
―異界より召喚聖女が現る―
いや、正確には誰も召喚してないので、召喚したとしたら神さまくらいしかできないだろうけど。
名前は原作通り“ミナモ・ユメミヤ”と言うらしい。外見はどうだかわからないので何とも言えないが、偶然にも原作小説と同姓同名のひとなのだろうか。よくわからないが、王国中そのニュースで持ちきりであった。
「聖女って、どういうひとなんだろうね」
ふと、そう口にした時だった。
「気になるのでしたら、殺して死体をここにお持ちしましょうか?」
うおおぉぉいっっ!どこの貴族邸に話題の人物を殺して死体を持ってくる使用人がいるよイカれた魔法使い執事めぇっ!
私にお茶を出しながらケロッと言ってきた執事の皮を被ったヴィダル・クルタに脳内でハリセンチョップを決めた。
「ううん、いい。むしろユリウスに近づけたくないと言うか」
だって、聖女とバカ勇者王子がくっついたら、ユリウスの危機につながるかもしれないし。
「承知しました。では旦那さまにそうお話しておきましょう」
「いや、やめて。それはいい」
「しかし」
「完全に暗殺とかする気でしょ?いいから、そう言うサービスつけなくていいから。私はただユリウスとお父さまとみんなと平穏に暮らしていければいいから」
「暗殺はしませんよ」
「しないの?」
はて、今までの物騒思考回路を総合するとそう言う検索結果にならないか?
「お嬢さまがユリウス殿に近づけたくない、と言うのであれば。ユリウス殿が直接ご本人の前で堂々と手を下せばいいだけですから」
にこっ。
相変わらずそのイケメンスマイルだけは美しいのだけど。いや、そう言う話!?今のそう言う話に流れ着くの!?
「ユリウス殿は、旦那さまの教えを受け継いだ立派なお弟子殿です。何も心配はありませんよ」
いや、あるだろう。全力でそう叫ぶよ、―――ただし心の中で。
「一体何の話をしているんだ?キア」
そこへユリウスが本を携え部屋に入ってくると、私の横に自然に腰掛けた。あぁ、これはもう定例行事風になっているよね。もう、ユリウスの定位置、そこ。
膝の上に置いた本のタイトルは『これであなたも簡単殲滅!優しい殲滅魔法』。
げほっ。
どこら辺が優しいのか不明だが、絶対にそれの出版にはヴィダルが関わっていると思う。
ヴィダルはユリウスのお茶を用意しにその場を離れる。
私は今までのヴィダルとの会話は封印し、単純に聖女のことを聞いてみた。
「異世界から聖女さまが来たんだよね。大公閣下は何か言ってた?」
「いや、特には。機密事項が多いらしいし、スパイ容疑もかかっているから暫くは監視下におくんだって」
まぁ、そりゃぁ異世界からひとが来たとなれば、警戒はするよね。
ここ数年で新たに分かった事実も多い。
まず、原作小説ではユリウスに対して父子の感情すら持ち合わせなかった大公閣下は、現実ではそうではなかった。ユリウスがこのナハト侯爵家に預けられても、公の場、お茶会やパーティーに顔を出すことがあれば忙しくても少しだけ顔を出してくれるし、会話もしてくれる。さすがに侯爵邸まで来られることは稀だけど、誕生日プレゼントも毎年贈ってくる。
その内容は魔法に関わる本や魔動具が多く、お父さまがユリウスに与えているものとは真逆の清く正しいものが多かった。
そしてユリウスの母親である大公夫人については、未だ大公閣下もユリウスも語りたがらないが周囲の噂程度には耳にした。
何でも、長い間病に臥せっているのだとか。
―――ってことは原作通りなのか。それだとユリウスは幼い頃に魔力を暴走させたことになるのよね。まぁ、だからこそ大公閣下はお父さまにユリウスを任せたのかもしれないけれど。ユリウスはお父さまに面倒を見てもらうようになってからは、最初のお茶会の時のように魔力をしっかり制御できているし、闇堕ち感もあまりなく普通にカッコいいイケメン貴公子に育っている。―――若干執着系な気はするが、サイコお父さまに比べれば今更である。
「あぁ、聖女が気になるのなら大丈夫。もしもキアに敵対するようなら容赦なく殺るから」
―――というユリウスの発言は確実にお父さまの教えである。大公閣下の悩みの種が増えそうで何だか申し訳ないのだが。
「ううん、彼女もきっと異世界から召喚されて右も左も分からず不安な部分が多いだろうから、最初は話し合おう?」
「キアがそう言うならそうしよう」
うん、良かったぁ。後は聖女がまともなひとであることを願うまでだ。




