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オリヴィア姉さま


―――原作小説におけるユリウスの人生は酷く寂しい印象を受けた。両親に全く似ていない容姿を持ち産まれたことで、ユリウスの母親はユリウスを愛することはなく乳母に押し付けた。


そして、そのことにより妻の不貞を疑った父親の大公閣下は妻に冷たく関心を持たず、またユリウスのことを放置した。


その上、絶大な魔力を有していたユリウスはある日その魔力を暴走させたのだ。


そのきっかけは、夫に冷たくあしらわれて、更には実家からも見限られたユリウスの母親がユリウスに手を出したことが事の発端だった。


まだ幼く右も左もわからないユリウスにとってそれは一種の防衛本能だったのかもしれない。しかし初めての魔力暴走は、乳母や多くの使用人を巻き込み、たくさんの命が失われ、大公家の屋敷も半壊するほどだった。宰相として城にいた大公閣下は難を逃れた。しかし、残されたものは不貞を疑われ悲嘆にくれた重症の妻と、恐ろしい力を秘めたユリウスであった。


重傷を負ったユリウスの母は、一生寝たきりとなりユリウスを恐れ、脅え精神を病んでしまった。それでも妻にひとかけらも情を見せることのなかった大公閣下は金を出して使用人たちに妻の世話を任せっきりにした。


そして誰もが恐れる異端の存在・ユリウスを、大公閣下は地下牢に閉じ込めて育てた。


いつしか異世界から聖女が現れると、途端に火蓋を切ったようにユリウスはその力を解放し、復讐を始めるのだ。

詳しくは描かれていないが、ユリウスは自身を閉じ込める牢の前で誰かと邂逅していた。それは恐らく、ユリウスが誰よりも心酔し、そしてそのバックにいた人物。


裏ボス・ルシアン。


―――つまりウチのサイコお父さまである。


私は敢えてユリウスの過去には触れてこなかった。少なくとも、あの日パーティーでユリウスと出会い、大公閣下がお父さまにユリウスを紹介した時点で、ユリウスは牢に閉じ込められて生活していたわけではないのだろう。


原作通り何だかお父さまに懐いているような気はするけれど。今のところ闇堕ち感はないし、私に向ける微笑みもサイコお父さまに似ず爽やかなイケメンスマイルだ。


しかしながら、ユリウスとそのお母君についての話を聞いたことはない。会話にさらっと出てきたこともない。


大公閣下と奥さまの関係はどう言ったものなのだろう。少なくとも大公閣下はユリウスを忌避する様子はない。むしろ、兄であり国王さまの実子であるリカルド殿下が一方的にユリウスを卑下しても、大公閣下はユリウスの味方をしたのだ。


それに、大公閣下に対してツンケンするユリウスだが、嫌悪感は感じられない。明らかに原作と違うことが起こっている?


まぁこれは現実なのだから、全てが物語通りに行くとも限らない。もしかしたら異世界から聖女も訪れないのかもしれない。


だとしたら、このままオリヴィア姉さまがあの我儘リカルド殿下と結婚してしまうのだろうか。本格的にお父さまに相談、―――したら絶対に血生臭いことになるからダメだし。


成長したらあのリカルド殿下とてましな性格になるだろうか。それに賭けるしかあるまい。


なにはともあれお父さまからも許可をいただいた私とユリウスは、王城のオリヴィア姉さまの元を訪れた。ただしお父さま付きで。あぁ、周囲の騎士さんたちの顔がこわばっている。そしてまさかの近衛騎士団長付きである。あの、絶対にその人選はウチのお父さま対策ですよね?


まぁ、お父さまはまだまだ過保護すぎるほどで。私を睨んだひとがいたら即座に滅殺しようとするほどなので。仕方がないことでもあるのだけど。


幸いなのは、オリヴィア姉さまが待つテーブルの近くに寄ることを近衛騎士団長に止められたことだろうか。「陛下命令」だと近衛騎士団長は言っていたけれど。

そうしなければ血の雨が降るのでしょうがないのかもしれない。ぐすんっ。あぁこのお茶会、何も面倒なことが起こらないことを願おう。





傍にお父さまの姿を目にしたオリヴィア姉さまは一瞬顔をこわばらせたものの、すぐに私の方に向き直って微笑んでくれた。私と同じスイートブラウンの髪に、オレンジ色の瞳。とてもよく似ていると言われる私と姉さま。違うところと言えば私の瞳は若干茶色味のあるオレンジブラウンで、姉さまの方が誰が見ても美少女と言う点か。私は自分自身は割と平凡だと思っているので、オリヴィア姉さまはめちゃくちゃ美人だと思うし、将来も美人になるだろう。


だからこそ、あの我儘ぷー王子・リカルド殿下の婚約者であることがめちゃくちゃ不満である。


しかし、久々の再会。そのような不満を押し殺し、私は現在一緒に暮らしている大公令息のユリウスを姉さまに紹介した。現在この世界においてのユリウスの認識はどのようなものなのか。リカルド殿下が言っていたこと、大公閣下がお父さまにしか任せられないと言う話を総合すると決していいものばかりではないと言うことはわかる。


現在は王城で保護され、成人するまでは王城で暮らせるよう国王さまが取り計らってくれたと言うことで、姉さまも多少の噂は耳にしていそうだ。大公閣下のことももちろん知っている様子だったし。しかしオリヴィア姉さまは嫌な顔ひとつせず、私が世話になっていることに対し素直に礼を述べていた。


その後は3人で話をしながらお茶をする。私がお父さまに引き取られてナハト侯爵家の長女となったこと。ユリウスがお父さまの弟子になって住み込みで魔法の勉強をしていることなど。


無論血なまぐさい部分ははぶいたが。オリヴィア姉さまも城での生活のことを話してくれた。国王さまがよくしてくれること。第1王子のローウェン殿下が妹のように優しく接してくださること。けれど不思議とリカルド殿下の話はなかった。そして、両殿下のお母君である王妃さまの話も。

そう言えば、先日のパーティーでは国王さまの隣には誰もいらっしゃらなかった。


本来ならば、王妃殿下がいらっしゃるはずなのに。原作小説では、どうだったっけ。確か国王さまはリカルド殿下と会話しているシーンがあったはずだけど、王妃さまは出てきたっけ?あまり記憶にないなぁ。けれど、それをオリヴィア姉さまに問うこともできず。


だってここは王城だし。少し離れた場所とは言え近衛騎士団長も控えているのである。給仕の方もいるし、おいそれと聞けるようなことじゃない。


それよりも純粋にオリヴィア姉さまとの時間を楽しみたかった。


―――しかしそんな私のささやかな願いは、突然やってきた喧騒と共にあっさりとぶち破られてしまった。


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