お城のパーティーと出会い
―――お父さまに抱っこされながら、訪れたのは何とお城のパーティーだった。何つーサプライズ。そしてそんな場所でもサイコお父さまはサイコお父さまであった。
「見つけた、カイル」
「あぁ、お前か」
“カイル”と呼ばれたミルクブラウンの髪の鋭い眼光の男性は、周囲を手で制しその場を離れると真っすぐにお父さまのところへやってきた。
さっきの赤い髪の騎士さんが言っていた“宰相”ってカイルさんのことだったのか。ん?宰相のカイル?原作小説でも、確かそんな名前のひとが。
「こちらへ来てくれ」
「あぁ」
お父さまは私を抱っこしながらカイルさんの後に続いていく。そしてその先からは子どもが言い合うような声が聴こえてきた。
「何だよ!呪われた子のくせに!お前がバケモノだって知ってるんだからな!」
何だ?見覚えのあるミルクブラウンの髪の男の子が、黒髪の男の子に掴みかかっている??
「殿下!一体何をされているのか!」
カイルさんがそう叫ぶ。うん?―――殿下??
「な、何って、コイツが悪いんだ!」
何となく見覚えがあるようなないようなミルクブラウンの髪に青い瞳の男の子が、黒髪の男の子を指さす。
「はぁー」
そう、カイルさんが息を吐きだすと、途端にミルクブラウンの髪の男の子がにやりとほくそ笑む。何コイツ、ムカつくな。
「私には殿下が、私の息子を一方的に侮辱しているように見えましたが」
そう、鋭い眼光でカイルさんがミルクブラウンの髪の男の子、いや“殿下”を見やれば、殿下は思わずビクンと肩を震わせる。
カイルさんの息子?あの黒い髪の男の子が?まだあどけなさが残る顔立ちではあるが、そのアイスブルーの瞳は何となく見覚えがあって、キッと殿下なる男の子を睨みつけている。
「ぼくの言うことを信じないのか!不義の子のくせに!」
―――不義の子?
「私は私の息子を信じます。陛下だって殿下のことを信じてくださるでしょう。それと同じです」
「でも、お前は父上の部下だろ!」
そりゃぁ、宰相だもんね。でもなんかいい方がムカつく。
「殿下の部下ではありませんし、それ以前に私は“ユリウス”の父親ですから」
ん?ユリウス?そう言えばこの子、黒髪にアイスブルーの瞳。更にはあの顔ってまさか!そしてカイルさんってもしかして!
「た、たぃこう、さま?」
「ん?カイルのこと?そうだけど」
と、ケロッと告げるお父さま。―――ってことは、カイルさんは、王さまの弟であるカイル・アルギュロス大公閣下で、目の前にいる黒髪の男の子はその令息のユリウス・アルギュロス!?まさかのラスボス!推しの子ども時代キタぁ―――っ!
いや、喜んでいる場合と違う。
でも、意外だな。原作では大公閣下とその令息・ユリウスは犬猿の仲だったはず。それも、ユリウスが母親にも大公閣下にも似ていないから。―――不義の子と呼ばれて大公閣下に冷遇されてきたのだ。でも今のやり取りを見る限り、少なくとも大公閣下はユリウスのことを息子として大切に思っているのでは?兄の息子である王子を前にしても毅然としているほどに。
―――ん?王子?王子と言えば、まさかコイツ、小説の主人公か!?
「ぼくは勇者なのだぞ!」
わぁ、勇者キタぁ―――。産まれた時に神託で“勇者”だと認められた王子、リカルド・クローネ殿下である。
「ぼくを敬え!ほら、お前も!」
「―――は?」
やっちまったぁ―――っ!お前はバカ王子か!バカなのか!何でお父さまを指さしたぁ―――っ!!お父さまの目がヤバい!!
「キアを指さすとか、殺していい?」
いや、私と違うー、違うよーお父さまー。
「んなっ!?何だよコイツ!」
「五月蠅いな」
やばいやばい!お父さまの目が虚無感丸出し!その上口に三日月形の笑みを浮かべているぅぅぅ―――っ!これ末期だあぁぁぁ―――っ!!
「ひっ」
しかし、さすがに裏ボスにはかなわなかった、ちび勇者は今にも泣きだしそうな表情をしていた。
「殿下、陛下がお呼びですよ」
そこに救世主が来た。先ほどの赤髪の騎士だ。
「あぁ、グウェン。陛下によろしく」
「うん、任せて~」
ん?―――グウェン。しかも赤髪??
もしかして、近衛騎士団長のグウェン・ヒャルテ伯爵!因みにナハト侯爵邸にその肉親がいるのだがみなさんは気が付いただろうか。
ついでにこれは原作の知識から拝借した。
そして、お父さまにビビりまくっているリカルド・クローネ殿下はグウェン団長に腕を引かれて退散していった。はぁ、ようやく静かになった。
「ユリウス」
大公閣下の静かな声がユリウスを呼ぶが、ユリウスはツンと顔を背けている。どうやら、一筋縄ではいかない父子仲なのかな。
「お前に紹介したい男がいると教えただろう」
「―――」
ユリウスはちらりとお父さまを見やる。
「なに?俺に何か用?」
「お前に、この子の魔法の講師を頼みたい」
え?―――ユリウスの、講師!?お父さまが!!?
本来、原作でのお父さまは将来ラスボスとなるユリウスを影で操っていた裏ボスである。そ、それを今、師弟にするというのか!?一体二人がどこでどうやって出会ったのか、原作では語られなかった。しかし、こんな出会い方をするなんて!
―――しかしながら、お父さまがここにいるのは国王さまから侯爵位を賜ったからだろう。そしてその理由は娘の私、だよね?ってことは、私がお父さまに引き取られて未来が原作とは変わりつつあることで、ユリウスとお父さまの出会い方も変わったのだろうか。
それならば、ユリウスが闇堕ちして破滅し、勇者と聖女に倒されてしまう未来も変えることができるだろうか?




