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プロローグ

※タグ注意!※

※但しヒロインのノリはいつも通りです(笑)※


―――私の意識は、薄らぎつつあった。


冷遇される屋敷の中で、唯一の私の味方であった従姉のオリヴィア姉さまが私のいる屋根裏部屋に来なくなってから1週間が経とうとしていた。熱にうなされ、水も食料も尽きた屋根裏部屋で、私は薄れゆく意識の中、はっきりとした悲鳴を聞いた。


叔父の怒号、叔母の悲鳴、その他大勢のひとたちが恐怖で逃げまどう声。こんなにもはっきりと聞こえるのは、屋根裏部屋の床に私が耳を付けながら横になっているからだろうか。これでも、オリヴィア姉さまの古着を布団代わりにしてきたが、私はもう一滴も残っていない水差しに手を伸ばしながら布団を這い出てそこで力尽きて動けなくなっていた。


唯一の心配は、ずっと、オリヴィア姉さまの声だけがしない。オリヴィア姉さまの声だけは、阿鼻叫喚の渦の中でも聞き取れる自信があったのに。


オリヴィア姉さまは、どこ?


運よく外出しているのだろうか。それとも叔父によって強引に嫁に出されてしまったのだろうか。オリヴィア姉さまはそれを一番に懸念していた。私をひとりにしてしまうことを。だけどオリヴィア姉さまはこの家の唯一の子女である。だから嫁がせられる可能性は低いのだと私に教えてくれた。


いつか必ず、この家から私を自由にしてくれると。


―――オリヴィア姉さま。


そんな時、聞いたことのない地を這うような怒号が響いてきた。恐らく声が魔力を帯びているのだ。だからこんなにも恐ろしく、そして明瞭なのだと本能がそう認識した。


『お前は一体誰だ!俺の娘をどこにやった!』

―――娘?この声のぬしは、誰?


『娘かどうかなど、魔力を見ればわかる!この女は一体なんだ!髪と目の色が似ているからと言って、この俺をだませるとでも思ったか!』

―――この女?


『死ね。お前たち、全員』


低く、恐ろしい声。


『助けて』『やめて』『私を誰だと思っている』甲高い叫び声や怒号が飛ぶ。姉さま、姉さまは、無事なの?そう思った時に聞こえた“名前”を聞いて私は戦慄した。


『俺の娘は、“キアラ”はどこだ!』

―――キアラ?

それは、オリヴィア姉さまだけが呼ぶ私の名前だった。キアラが、その男のひとの娘?私は、あなたの娘なの?そしてオリヴィア姉さまはいつも言っていた。


私とオリヴィア姉さまの容姿はとても似ているのだと。


だから、私のことをオリヴィア姉さまは本当の妹のようにいつも大切に思っているのだと。


『お前も、死ね』

―――や、やめてっ!


『忌々しい下衆げすの分際で俺の娘をかたった罰だ』

―――ね、姉さま!オリヴィア姉さまっ!!


そして、最期の叫びは聞こえなかった。―――静寂が訪れる。


ただひとつ、屋根裏部屋に続く階段を誰かがのぼってくる音を除いては。


オリヴィア姉さまの足音じゃない。私に酷いことをする叔父や叔母、ここの使用人たちの足音でもない。ひどく静かで、けれど怒りに満ちた足音が、ギィ、ギィと木がきしむ音に込められているようでひどく恐ろしい。


―――あぁ、私は、死ぬの?


もう体も動かない。まぶたを開けているのもきつい。


「キアラ!」

下から響いてきたその声が、私の名を呼べば。不意に体が浮き上がる。誰かが私を抱き上げている。


「あぁ、キアラ!俺の娘!どうしてっ」

絶望に打ちひしがれた表情を浮かべるのは、ダークブラウンの髪に、アメジストのような美しくも他を寄せ付けない神秘的な魅力を放つ双眸を持つ男性だった。顔の形は整っているように見える。このひとは、私の“お父さま”なの?段々と視界がゆがむ。もっとその顔を確認したいと思うのに、私のまぶたは重く閉じられてしまった。


―――そして。


『―――あぁ。こんなことになるのなら、とっとと人間などみなごろしにしてしまえばよかった』


酷く恐ろしい声。まるで地底から這い出してくるような声が響くのと同時に、私は意識を失った。




―――それが、()()()()()私が迎えた1度目の人生の最期であった。


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