最後の手段
玉座の間に降り立つと、魔王様と偽物のデュラハンの姿は無かった。
「あれ、どこへ行ったのだ、偽物のデュラハンは」
「トイレかのう」
いつも魔王様と連れションするから……二人共男子便所にいるのかもしれない。最近、魔王様トイレがお近い……とは言わない。
片付けられて一つになっている玉座の座るところに……A4の用紙が置かれているのに気が付いた。
「――魔王様! こ、これは」
「手紙ぞよ」
玉座に置かれた紙は、魔王様が書いた手紙であった。
――偽物の魔王とデュラハンへ――。
「……」
汚い字だとは言えない。言わない。
――ここでこの手紙を読んでいるということは、同じことを考えついて戻ってきたのだと信じておる。
その通りなのだ。この世に魔王は二人もいらぬのだ――。
「タイトル通りでございます」
「黙って……まだ予は……読んでおるのだ」
――この魔王城だけではなく、この世界に予が二人いてはならぬことに気付いたのだ。世界は一つ。予にとっては狭すぎるのだ。――そこで!
「そこで?」
「まって! まだそこまで読んでおらぬ! 先に読むでない!」
「……申し訳ございません」
魔王様、読むの遅過ぎです。
――そこで、予はデュラハンを連れてここではない別の世界へと瞬間移動することを決意した。行く先は、この世界とまったく同じ世界。ただし、予とデュラハンだけが存在せぬ創り出したパラレルワールドへ行くのだ――。
「ま、まさか」
自分達だけがいないパラレルワールドを創り出し、そこで今まで通りの生活を続けるというのか――。それが……魔王様のお考えになられた解決策なのか。
「ですが……。魔王様とはいえ、はたしてそんなことが出来るのでしょうか」
――無限の魔力に不可能はない。その世界では堂々と予が唯一本物の魔王となれるのだ。
ちなみに、こっちのデュラハンにはそのことを内緒にしておく。パラレルワールドへ移ったことすら気付かぬであろう。さらには偽物をパラレルワールドへ消し去ったと嘘を吹き込んでおく。あいつ頭悪いから信じよる――。
「……」
ガクッとなる。なんか……魔王様には……敵わない……。
――最後に、パラレルワールドからこの世界には絶対に戻れぬから安心するがよい。願わくは、同じ過ちを何度も繰り返さぬことぞよ――。
手紙の最後には、「本物の魔王より」と書いてあった。……やれやれだ。どっちが本物だったのやら……。
「あの二人は、別の世界に行ってしまったのですね……」
隣では、ヒックヒックと魔王様の肩が動いている。
魔王様が……泣いておられる。
「……まだ……一行しか読んでいないのに……」
「――一行目で泣かないで!」
もっと早く読んでください――。それに、一行目には感動するようなことは何も書いてなかったでしょう。
「予から予への手紙ぞよ。感動して……読める訳がなかろう……」
書いてある字が……涙で歪んで読めないのですか……。
「では私が読み聞かせて差し上げます。えーと、偽物の魔王とデュラハンへ……」
「棒読みしないで! もっと抑揚をつけて感動的に読んで!」
またローブの袖で涙をゴシゴシ拭く魔王様……。
やれやれです。
魔王様、この世に魔王様はお二人もいらないのです。お一人様で十分なのです。
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