ウイ~ンウイ~ン
ウイ~ンウイ~ン
「魔王様、偽物に偽物と説得するのがどれほど大変なのか、身をもって分かりました」
それな。
「たしかに御察しいたします」
魔王様も大変だったのだ。偽物も自分が本物と思っているのだから。
「では、Win-Winで考えてみましょう」
お互いが得をする方法を考える手法でございます。
「win-winとな」
「今それを私も思いついたところです」
「……黙って」
話がややこしくて進まないから。
「皆、自分が本物と疑わないからややこしい話になるのです。ですから逆に自分が偽物と考え、偽物だったのならどうしたいかを考えればよいのです」
「おお、偽物だから得したと思えれば、おのずと偽物が手を上げるということか」
「はい、さようでございます」
ちょっと違うかもしれないけれど、細かいことは気にしません。話が進まないから。
「だが、偽物のメリットってなんだ」
「偽物でいいはずがないぞよ」
フッ。だから私が本物なのだろう。
「偽物は、魔王城にいる必要はありません。逆にいえば、魔王城から逃げ出せます」
「「――魔王城から逃げ出せる――!」」
みんな目を輝かせないで。私の目も輝いているかもしれないけれど……。
「そんな……え、本当にいいの?」
「魔王城を放置プレイ?」
「耐震補強工事の責任から……免れられる?」
「いいに決まっているではありませんか。なにせ、本物の魔王様と本物のデュラハンは魔王城に残り、今まで通り職務を続けるのですから」
「「――!」」
――作戦名。甘い誘惑!
「作戦名、甘い誘惑!」
「――! それ、頭で考えていたのに言うな!」
ベラベラ喋るな偽物よ!
「魔王城に残る方は自分こそ本物だったと思い、偽物が去っていったと思えばよいのです。魔王城を去る方は本物じゃないから魔王城の外の生活を満喫すればよいのです」
「人間界に行き遊んで暮らせばよいのか!」
「名案ぞよ! ウキウキするぞよ」
あんまりウキウキするなと言いたいぞ。あんた魔王様でしょ。
「しかし、偽物として魔王城を去っても、いずれは謀反を企むやもしれぬ」
「本物にとって代わろうと」
「うんうん」
その点はご安心ください。
「今の生活に戻りたいのなら……そうすればよいでしょう」
「「「……」」」
みんな一斉に黙らないで。
そんなに今の生活が嫌なのだろうか……私はともかく?
「さて、ではどうやって魔王城に残る者と出て行く者を決めるのだ」
また堂々巡りのような気がするぞ。
「出たい人、挙手を願います」
私も手を上げるのになんの恥じらいもない。全員の手が綺麗に上がり、ため息が出る。指先までピンと伸びている……。
「あー、これじゃなんの解決にもならぬぞよ」
「いや、待って下さい魔王様。ここは公平に……」
「ジャンケンで決めましょう」
「……」
「結局はジャンケンぞよ……」
「ですが先ほどのジャンケンと同じではございません。負けた方も勝った方もどちらもそれぞれ『お得感』があるのです」
本物として認めて貰えたり偽物として魔王城から……逃げ出せたり。「お得感」は大切です。
「なるほど」
「グッパでもいいです」
「「なるほど――!」」
グッパで通じるのだろうか……。冷や汗が出る。「グーとパーで分かれましょ」ってやつだ。
「だが、分かれるだけならどっちが魔王城に残るのだ」
「勝った方が魔王城を出るのでよかろう」
それってパーじゃん! 絶対にみんなパー出すじゃん!
「それってパーじゃん!」
「予はパーではない! 無礼ぞよ」
「「申し訳ございません」」
「永遠にあいこにはならぬであろう。面倒臭いから適当にグーにしたりパーにしたりすれば、いずれは決まろう」
「もし、強情にもパーを出し続ければ……」
「その時こそ、全員がパーぞよ」
「「……」」
玉座の間で四人が永遠にグッパでパーばかり出し続けていれば……笑い者になるだろう。他の四天王にもゲラゲラ笑われるだろう。
「グッパでホイ! あいこでホイ! あいこでホイ! あいこで……」
魔王様同士とデュラハン同士にならないようになるまで数十回に及ぶ「グッパ」が繰り返され…… 私がたまたまパーを出した時に勝敗が決した。
「この組み合わせか……」
私と魔王様。偽物のデュラハンと本物か偽物か分からない魔王様……。
「では、予とこっちのデュラハンは魔王城を出るぞよ」
「あとよろしく」
「ああ。任せるがよい」
「私と魔王様の分も……外の世界を楽しんでくれ」
「瞬間移動――」
偽物か本物か分からない魔王様と共に魔王城を出た。
ああ……最後に部屋から必要な物を持ってきたらよかった……女子用鎧とか。
だが……あれはもう私のものではない。偽物の物なのだ……たった今から……。
魔王城から数百メートル離れた森の中へと降り立った。
「……」
これからいったいどうするのだ。というか、なぜ人気のない森へと降り立ったのか……。
「予は自由だ――!」
――!
魔王様らしからぬ大声。突然両手を上げて喜ぶ魔王様に思わず笑ってしまう。ストレス発散だ。私もやってみよう。
「ヒャッハー! ざま見ろでございますー!」
何に対してのざま見ろかはあえて言いません。
「アーッハッハッハ!」
笑い声が森に響き渡り……鳥や鳥に似た魔物たちがバサバサ飛んで逃げていく。
「ハッハッハ……」
「ハッハッハ……。はあー」
笑い声がため息に変わった。
「本当にこれでよかったのでしょうか、魔王……様」
魔王様でいいんよね。本物か偽物か分かんないけど、魔王様には違いなさそうだから。
「よかったのだ。魔王城に魔王が二人もいては混乱が増すばかりぞよ」
「たしかに」
一人でも混乱が増すばかりでした。
「……言っておくが、デュラハンが二人いても同じぞよ」
「分かっていますとも」
いちいち言わないでください。偽物のデュラハン……仲良くは出来ないタイプだった。誰に似たのかは分からないが、たしかに嫌な奴だった。一緒に仕事がしにくいタイプだった。
「で、これからどうされるのですか。本気で人間界や魔王城の外で好き勝手に振舞おうなど、考えておりませんよね」
どこか無人島にでも移り住んで自給自足のひっそりスローライフを満喫いたしましょうか。
数百年もの余生をずっと……二人っきりで。それはそれで冷や汗が出る。
「無論。予と卿の存在がいずれは魔王城にいる偽物の魔王とデュラハンにとって無視できない不安要素となるのは必至」
帰ってこない保証がないからなあ……。いつかは、「やっぱり予が本物ぞよ」と言い出すか分からない。魔王様、気まぐれだから。
「やっぱり、戻ろうか」
「はやっ!」
まだ魔王城を出て五分も経っておりませぬ……。
「だが、不安要素は早目に取り除いてやる方がよいぞよ」
「ですがどうやって……」
それが出来ればこんなことにならずに済んだのでしょう。
「予は偽物と違い、一つだけよい方法を考えておったのだ」
まだ自分が本物と疑わない魔王様。流石で御座います。
「……よい方法? どのような方法でしょうか」
「それは皆の前で話そう」
「瞬間移動――!」
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