二つの玉座
「もう一つ玉座を出そうぞよ」
「禁呪文で出せばよいぞよ」
「予の玉座はこれぞよ」
「いや、この玉座は予の玉座ぞよ」
「ごめん、じゃあ、二人で一緒に出せばいいぞよ」
「その手があったか! さすが……ぞよ」
「……」
「せーので! で出そうぞよ」
「よしきた」
「「せーので、ザクョギヨデイ!」」
絢爛豪華な玉座がポンッと現れる。見分けがつかないくらい同じ……汚れやくすみ。新品を出せばいいのにと……うっかり言いかけて止めた。
なんか……頭が痛くなってきたぞ。これぞ剣と魔法の世界のようだが……なんか違う! ――剣と魔法の世界は、こんなんじゃない! 二つの玉座にはそれぞれ二人の魔王様がお座りになり、ご満悦なご様子だ。
「いかに魔王様とはいえ、禁呪文にも効力がおありでしょう」
禁呪文の効力が切れれば分身は消えるのではありませんか。
「予の魔力は無限ぞよ」
「無限に分身は姿を消さぬぞよ」
「たとえ本物が倒されたとしても、分身は消えぬぞよ」
……おいおい。本当に大丈夫なのか。二人になって消えないのって……思った以上にヤバいのではないだろうか。物が物だけに……。スライムとかならまだしも……。
もうこの時点で面倒事は二倍。いや、二倍以上だぞ!
「面倒事の相乗効果にございます」
二倍の頭痛に悩まされます。首から上は無いのだが、バファリンが四錠必要になります。一回二錠だから。
「無礼ぞよ!」
「すなわち、デュラハンぞよ!」
「……」
腹立つわあ……。
「よいことを思いついたぞよ」
「なんでしょう」
魔王様のよいことは、必ず私にとっては悪いことだ。
「デュラハンを二人にすればいいのだ」
――!
「やめーて! 二の舞でございます」
面倒事の二の舞でございます! いったいなぜそんな発想になるのだ。魔王様一人にデュラハン一人? 一家に一台? 私が二人に増えれば……働き者で気が利く有能な人材が倍になるのだから……魔王軍にとってかなり有益になるのは間違いないでしょうが……。フッ。
「それに私には一切の魔法が効かないのです。分身の術も恐らく効果ありません」
助かったぞ……忘れていたとは言わないぞ。
「心配無用だ。この禁呪文は空間系なのだ」
「瞬間移動とかと一緒で、必ず効くぞよ」
フッ……絶体絶命。
「禁呪文でデュラハンが二人になれば、どちらが本物かが分かるではないか」
「デュラハンが身をもってそれを見極めるのだ。さすれば見分け方が分かるに違いない」
私が身をもって……見極める?
「もし分からなければどうするので御座いましょう」
増えてしまったもう一人のデュラハンを……。現状のあんたたちのように……。
「……役に立たぬ方を消す」
「二度と生きては戻れぬ異次元の彼方へと消し去る」
「……」
「原子一粒さえこの世には残さぬ」
「すべての者の記憶からも完全に抹消する」
「……」
魔王様は……お二人とも本物でございます……。他人を出したり消したりするくらいなら、あんたらが消えろと言いたい。
タイトル間違えたぞ――!
この世に魔王様は……お一人もいらない~――! 今なら女勇者に討伐されてもいい~! 経験値ももれなく二倍獲得できるぞ……。
「「では行くぞよ! 『ンサリクッソノイラクルスリクッビ……』」」
「いや、ちょっと待って下さい! 二人で唱えちゃいけません!」
三人になっちゃうでしょ! それも分かんないの――! ……三人になったら真ん中が本物っぽいでしょ!
「おお、そうだった。仕方ない予が唱えよう」
「任せよう」
すんなりまとまる二人の恐ろしさ。
「……」
なんか不安だなあ……。本当に分身の時に分かるのかなあ……。
「ゆっくり唱えてゆっくり分身させた方がよいのではないだろうか」
「いや、あまりゆっくりだと分身している最中がグロイかもしれぬぞよ。伸びたり中身が見えたりして」
「……」
「あーなるほど。たしかにグロそうだぞよ」
「デュラハンは立っているだけでグロいぞよ」
「受けるぞよ~」
「――シャーラップ!」
ひどいパワハラの応酬だ。相乗効果で二倍以上だ。早く分身しなくては身が持たないのかもしれない……。シクシク。
片方の魔王様が禁呪文を詠唱される。
「ンサリクッソノイラクルスリクッビモトッボローピコノンマーパ、ヨデイ……」
ああ……体が温かくなって……まるで春の河原に寝そべって日向ぼっこをしているような気持よさだ……。
そして……少しずつ……少しずつ体が……あっ! 右にスライドしていく――! ということは、明らかに右が本物だ!
「分かりました魔王様! 右が本物で間違いありません!」
「分かりました魔王様! 左が本物で間違いありません!」
――!
「「……これ失敗ぞよ」」
「「はやっ!」」
結論を出すのが早過ぎるぞ魔王様。失敗って……酷いぞ。
見ていた読者の人は分かったよね。絶対に右が本物だって――!
「読者には見えないぞよ」
「冷や汗が出るぞよ」
「見ていた読者こそ左が本物なのが分かったはずだぞ。偽物め」
「いやいやいやいや、冷静になるのだ偽物よ。紳士な騎士として自分に起こった現実を真摯に受け入れるのだ」
「受け入れていないのはお前の方ではないか、偽物よ」
カッチーン。頭にきたぞ! 首から上は無いのだが――!
「剣を抜くがいい! どっちが本物か白黒付けてやる偽物よ!」
「望むところよ、本物が偽物に負けるはずがないのだ!」
白金の剣を鞘から抜くと、まったく同じタイミングで偽物のデュラハンも剣を抜いた。
「「やれやれー!」」
ズルっとなるぞ。せめて……やめろとか、「魔王城の外でやれ!」とか言ってほしい……。
「酷いですよ!」
「誰のせいでこんなことになったと思っているのですか!」
「予ではない。偽物の魔王のせいぞよ」
「さよう。だから予ではないのだぞよ」
「「……」」
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