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当然の揉め事


「目障りだから早く消してください」


 もう禁呪文の効果は十分御見それいたしました。

「「お目障りって――酷いぞよ~!」」

 お口が過ぎました。本音が出てしまいました。心が身体を追い越してしまったんだよ。

「というか、元に戻ってください」

 正気に戻って下さい。

「仕方ないのう……」

「予もそろそろ……一人に戻ろうと思っておったのだ」


 そして見つめ合う魔王様と魔王様……嫌な予感がする……よね。

「そろそろ消えてよいぞよ、分身した魔王よ」

「いやいや、予が本物ぞよ」

「ほらね」

 大きくあくびをした。予想通りで誰も驚かないぞ。

どっちが本物でもいいから、ややこしくなる前にさっさと消えて欲しい。まるでア〇レちゃんのガッチャンが一匹から二匹に増えたみたいだ……。冷や汗が出る、古過ぎて。クピプー。


「予が本物ぞよ! 予が禁呪文を唱えたのだから予ぞよ」

「禁呪文を唱えたのは、予ぞよ! 冗談は顔だけにしてさっさと消えればよいぞよ」

 魔王様の醜いやり取りが玉座の間に響く。まったく……いつもいつも後先考えずに行動するから……。

「ジャンケンしたらよいではありませんか。はーい最初はグー!」

 無限で「あいこ」になるかもしれないが、やってみなくちゃ分からない。

「まてまて!」

「まって!」

「じれったいなあ……」

 どっちの魔王様も両手を握りこぶしにしているのが笑える。どさくさに紛れてグーを作っている。

 たとえ偽物であっても、自分が消されてしまうと思えば必死に抵抗したくなるのなのだろう。

 だからややこしいのだ――! 増える前に気付けと言いたい。言えない。言ってももう遅い。


「デュラハンよ! 卿は本物の魔王がどちらかも見抜けぬのか!」

「それで魔王軍四天王が務まると思っておるのか。嘆かわしい」

「……ほほう」

 どっちが本物か分からないですと……。魔王軍四天王筆頭たるこの私が?

「じゃあ右でいいっス」

 こっちから見て右。向かって右。

「「――雑に決めないで~! 当てずっぽうはやめて~!」

 冗談でございます。唾を飛ばしてまで焦らないでいただきたい。

「365日一緒にいて本物がどっちか分からないなんて……酷いぞよ。なあ」

「うん。これでは四天王筆頭とは呼べぬぞよ。まあ、予が本物なのだが」

「いや、本物は予ぞよ」

「いや、予ぞよ」

「グヌヌヌヌ……」

 ぞよぞよぞよぞよといつにも増して五月蠅(ウザ)いなあ……。

「分かりました。では……少し失礼いたします」

 どっちが本物か当てて差し上げましょう。


 金髪の髪や顔の輪郭を触ったり匂いを嗅いだりして確認する。

「ちょっと近過ぎるぞよ」

「ボーイズラブのキーワードが必要になるぞよ」

「お静かに。気が散ります」

 本物を見抜けなれば偽物が本物に成り代わってしまう……重要な局面でございましょう。


 冷や汗が出る……まったく違いが分からない。恐らくは髪の毛の本数まで同じだ。DNA鑑定をしても同じだろう。鑑定団に出展しても価値は同じだろう。一、十、百……チーン。

 だんだん面倒臭くなってきた。両方の魔王様に一度パンイチになってもらったが、何の違いも見出せなかった。

「デュラハンのエッチ」

「デュラハンの変態」

「おやめください。それより早く服を着て下さい」

 誰か来たらどうなるのだろう。玉座の間に二人のパンイチ魔王様……。


「どっちも大差はございません。両方本物です。言い換えれば両方偽物です」

「「……」」

「ジャンケンが嫌なら腕相撲か大相撲で勝負すればいいではありませんか。たとえ偽物であったとしても強い方が勝ちでよいではありませんか。剣と魔法の世界では弱肉強食が通用するのですから」

 でも、魔力で勝負するのだけは勘弁してほしい。けたたましい禁呪文が横行しそうだから……。

「「望むところよ!」」

「え、望むの――」

 魔王様同士が玉座の間で……大相撲って……ちょっと見てみたいかもしれない。

 負けた方の無様な言い訳を聞いてみたい……。


 キュッキュッと大理石の床にマッキーで丸い大きな円を書く。土俵のつもりだ。真ん中には=の仕切り線を白ペンで書き、魔王様と偽魔王様に土俵入りしてもらう。

「まったなしですよ」

「無論」

「予に二言はない」

「負けた方は私が『白金の剣』で容赦なくブッタ切りますよ、偽物なのですからね。はっきょーい」


「「ちょっと待った――!」」


 誰だ二言はないとか言ったのは。魔王様だ。右の魔王様だ。

「やれやれ……冗談ですよ」

「冷や汗が出たぞよ。冗談にはぜんぜん聞こえなかったぞよ」

「シリアスは似合わないぞよ。殺気がプンプン感じられたぞよ」

 ……御冗談を。

「どちらが本物か決められないのなら、いっそうのこと私が決めて差し上げましょうか」

 白金の剣を鞘から抜いてみせる。久しぶりに剣を抜いた気がする。白金の剣も血を吸いたがっているのだろうか。うんうんよちよち。

「マジで怖いぞデュラハンよ!」

「涙目になっちゃうぞよ!」


 おだまり。にっこりと微笑む。


「予が本物ぞよ。その証拠に……」

「その証拠に……なんですか」

 本物と偽物の区別がつく証拠がおありなら話が早いです。さっさと見せて下さい。マイナンバーカードは早めにお作り下さい。

「デュラハンの好きな女子用鎧をやるぞよ」

 ……そうくるか……。うん。本物だ。

「――こっちが本物の魔王様だ――」

 右側の魔王様を指さし、左側の魔王様に剣先を向ける。

「ええー! 物で釣るのは反則ぞよ! えーっと、では、予は卿の欲しがっておった顔を生やしてやるぞよ」

 うーん。欲しいぞ、顔も!

 困っちゃうぞ。こっちも本物だぞ!

「デュラハンよ騙されるな! 顔など生やせる禁呪文などないわい!」

「――!」

 ないんかーい! 危うく騙されるところだったではないか――!

「バラすでないわい! だったら女子用鎧をこっちは二つだ!」

「――二つ!」

 このまま魔王様同士争って頂ければ……身動きが取れなくなるほど女子用鎧を貰えるかもしれない。


 ――うれぴ~! 等身大の女子用鎧! ――鎧はそもそも等身大!


「では、女子用鎧を沢山くれた方を本物と認定し、偽物は処分させていただきます~」

 さあ、早く女子用鎧を出してください。玉座の間が埋め尽くされるくらいに!

「待て、予は魔王ぞよ」

「はい」

「二人になったからといって、なぜデュラハンごときの言いなりになる必要があるのだ」

「たとえ偽物の魔王であったとしても、剣を向けるのは無礼ぞよ」

「……」

 チッ。

 金の斧と銀の斧と鉄の斧を全部持っていかれた木こりの気分だぞ……。渋々剣を鞘へと収めた。


読んでいただきありがとうございます!


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