魔王様、残念ですがこの世に魔王は二人もいらないのです
「なぜだ! ……貴様……裏切ったな」
魔王城玉座の間に緊迫した空気が流れ魔王様のお声が響き渡り耳に心地よい。
大理石の床が冷たいのも……今日だけは足裏に心地よい。
「裏切ったとは……人聞きが悪い」
魔王様の青白いお顔がさらに青ざめる。「青白い」から「青」になる。半分青いとは違うので……冷や汗が出る。
「むしろ、裏切ったのは魔王様ではございませぬか」
ついにこの日が来たのだ。来てしまったのだ。
「ヌヌヌヌ……」
いつもいつも魔王軍のためにならないことばかりする体たらく。四天王をはじめ、魔王軍全体はそんな魔王様に嫌気がさしているのです。
今――魔王軍は新しく強い指導者を欲しているのでございます――。残念ですが、この世に魔王は二人もいらないのです――。
一人もいらないのですとは言わない。さすがに魔王様が可哀想だから。
「だが、なぜだデュラハン!」
「なぜだもへったくれもありません」
少し黙って頂きたい。口チャックして頂きたい。
「――!」
玉座に座ろうとしても……座れず、お互い譲り合っているのを見ていたらバカバカしくてなってきたのだ。この現状に。
「バカバカしいではなく……もはやむしろバカです」
「バカは酷いぞよ! 予は魔王ぞよ!」
「バカという方がバカぞよ! つまりデュラハンの方こそバカぞよ!」
「二人で一緒に喋らないでください――!」
頭が痛いぞ。なぜこんなことになってしまったのだ……。
玉座の前には……二人の魔王様。瓜二つの魔王様……。禁呪文、「双子よりも似た分身の術」で……魔王様がお二人になってしまったのだ。
「禁呪文は……大成功ぞよ」
「フッフッフ、どちらが本物か見分けがつくまい」
……くっ。たしかに本物と偽物の見分けがつかない。着ているローブや背の高さ、鼻の色までまったく同じで冷や汗が出る。分からないのが……ちょっぴり悔しい。
「私には分かりませんが、魔力に差があるのでございましょう」
本物の魔王様には無限の魔力があり誰にも破る事ができない魔力バリアーで覆われているはずです。
「まさか……魔力も半分ずつでございますか」
「「チッチッチ」」
チッチッチと二人の魔王様が人差し指を口の前で左右に動かす。ドルビーサラウンドのようで気持ち悪い。
「無限は2で割っても無限なのだ」
「予には無限の魔力があるのだ」
「予にも無限の魔力があるのだ」
ちょっと待って。
「――それはおかしいです。チートです」
無限だから割っても無限とおっしゃるのなら……無限を無限に割り続けても無限になる。つまり、無限の魔力をもった魔王様が無限に増えることも可能になる……。
ウジャウジャ増える魔王様?
「想像するだけで鳥肌が立ちます」
ニワトリになって空を飛んでいきそうです。……こけこっこ。
「想像しないで。全身金属製鎧なのに鳥肌とか言わないで」
左の魔王様が手を顎へともっていく。右と左とで区別しなくては他に違いが分からない。
「ふむ。もう一人くらいなら分身して増えても面白そうぞよ」
「やめーい! ぜんぜん面白くありません!」
一人でもたくさんなのに……二人いるだけで気が狂いそうなのに……。
「「ンサリクッソノイラクルスリクッビモトッボローピコノンマーパ、ヨデイ……」」
「だめ―!」
呪文の詠唱を始める二人の魔王様の手をグイグイ引っ張って呪文の詠唱を妨害する!
「痛い! 無礼ぞよ!」
「暴力反対ぞよ!」
ハア、ハア、ハア……。
「二人で同時に禁呪文を唱えようとしないで――! 二人が同時に二人ずつ増えれば……それはもはや分身では御座いません!」
倍々に増える、細胞分裂にございます――! 分身ではなく増殖でございます――!
「いいじゃん」
いいじゃんって……。
「無限の魔力に限界はないぞよ」
あって、……限界。俗に言うカンスト。
カンストってカウンターストップの略だぞ。数えるのをや~めた! ってことだぞ。モンストやパンストの略ではないぞ。冷や汗が出る、桁違い過ぎて。
「世の中が魔王様で埋め尽くされる日が来てしまいます」
想像したくない。世界の終わりって……そういう状況を指し示すのかもしれない。
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