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二話です!
「こんにちはっ」
「!」
彼女は僕に優しく笑う。
『マー』って、え? とりあえず待って? え? お、女なのか!? し、しかも愛衣にそっくり……。
そして僕が戸惑ったせいか、彼女は少し申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。混乱するよね? 私いわゆるネナベなの」
「!」
これで確定した。『マー』はこの子か……。何て言うか……可愛いな~。いや、顔は愛衣に似ているから可愛いと感じるのは……いやしかし性格から滲み出る清楚な感じが外見に漏れ出ている風に感じる。愛衣に似て非なる容姿だ! うん、そうに違いない!
「どうかした『ハル』?」
「!?」
彼女は頭を抱えている僕の所に顔を覗かせてくる。
「もしかして幻滅した?」
彼女はしゅんとなりながら言う。
「いやいや、そんなことは!? 可愛い子に会えてラッキーみたいな……」
あ、馬鹿。何、余計なこと言っとるんだ僕は!? 彼女は返って幻滅……ん?
「~~~」
彼女は明らかに照れていた。愛衣の顔して恥ずかしそうに。
キュンッ。……え?
「よ、よしっ。とりあえず行こーっ」
彼女は大きめの帽子を手で押さえながら、明るい声で言った。
「おっ、おーっ!」
僕も合わせて言って彼女の隣を歩いた。
話してみるとほぼ『マー』そのものだった。口調は違うが、とっつきやすく、話しやすく、優しい。
「今日のイベントなんだけど、お店でコラボメニューがあるんだって」
「ほう、そうなのか」
どんなのだろう。
「それと『山田の刃』の限定グッズがあるそうなの」
「ほう、それは楽しみだな~」
「そうよねーっ」
「どんなの買うんだ?」
「それは見てみないと分からないわね」
「そうだな」
と楽しく話しをしながらお店へと向かった。そして到着すると少し並んでいた。
「ほう、人気あるんだなっ」
「そうねっ、しばらく待ちましょう」
そしてそこで並んでいると往来の何人かの人、特に女子のグループからヒソヒソと笑い声が聞こえる。
「あの、男子の服見てよ」
「ぷっ、ダサーい」
「男女の組み合わせ悪いよね」
「本当だーっ」
しまった! 男と思ってたから服を気にしてなかったっ。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。そう思って自分の服をいじいじしていると、
「そんなの。周りの声なんだから気にしないで」
彼女は優しく笑う。
キュン。え? 今のは何だ?
そして僕達は座れる番になり、コラボメニューを見たが、あまり美味しそうなのはなかった。それでもせっかく来たのでそれを注文した。料理が来ると、
「きゃー、これよ、これっ!!」
と彼女は興奮しながら料理付属のバッジを手に取って喜んだ。
味はまあまあだった。そして二人でご飯を食べた後、限定グッズのミニ販売の所に行く。
「どうしようかしら。悩むわね」
僕はやはり強くて格好よい主人公を選んだ。
「ねぇ、『ハル』? 一体どっちが良いかしら?」
彼女は手に沢山持っているグッズを僕に見せながら言った。いや、どっちの量じゃないんだけど!?
「これと、これは?」
「うーん、少し違うわ」
「じょあこれとこれっ」
「いや、これは譲れないっ」
「じゃあこれっ!」
「一つは選べないの!」
どないせいっちゅんじゃ! で、結局彼女は三つ選んで買うことにした。
そして店を出た彼女は幸せそうだった。
「良い買い物だったな」
「そうねっ」
「好きな商品買えたし」
「本当にそれっ。ケン、ヤンとバンのバッジを買えて良かった~」
彼女はニコニコしながら歩く。そして、でも、と続けた。
「……料理は私の作った方が美味しいと思うわ」
「……!」
そ、そうなのか? 一体どんな味なのだろうか? 少し気になった。
そして時間があったので少しボウリングをして本日のオフ会は終わった。
「もうそろそろ帰らないと、お母さんが心配しちゃう」
「あ、そうだな」
楽しい時間はあっという間だな。
「今日は楽しかった、ありがとう」
彼女はニコッと笑う。か、可愛い……。
「いやいや、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」
「本当に?」
「本当、本当ーっ」
「そっか」
そして彼女は手を振って、
「じゃあねっ」
と言って彼女は帰ろうとした時、ぶわっと風が吹いた。
「きゃっ」
と彼女は衣類を押さえたが、帽子は力が足りなかったか勢いよく飛んだ。
あっ。
僕は急いでその大きいハットを取りに行き道路の手前まで飛んで行く。僕はしゅっとそれを取ると、プップーとクラクションが鳴る。見るとトラックだった。
「危ないっ!」
彼女らしき声を遠くから聞こえたが、僕からは普通にすっと避けれる幅だった。
だからひょいと避けた。
「もう、危ない真似はしないでね!」
「いやいや、全然危なくなかったよ」
僕は彼女の所に戻りちゃんと説明したがぷんぷんと怒られた。
「帽子なんて貴方の命に比べたら安いものよっ」
「けど君に似合った綺麗な帽子だから」
「そんな理由で……。大丈夫よ、まだ家にあるから」
そうなのか。じゃあ急いで取りに行った意味はあまりなかったな。
そして僕は彼女に帽子を渡す。
「少し汚れたみたいだけど」
「うんうん。そんなことないわ。ありがとう」
僕は彼女の仕草にドキッとする。……よ、よしっ。
「あのさ」
「何?」
「僕の名は“はるき”って言うんだ。だからこれからは、“はるき”って呼んでくれ」
彼女はしばし僕の目を見てニコッと笑う。
「分かったわ。はるきって呼ぶわ」
「だから……その……」
「?」
「君の名は……?」
そして彼女は考える素振りになる。
「いや、嫌なら別に……」
「いいわっ」
「え?」
彼女はニコッと優しく笑う。
「“まい”。“まい”よっ」
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