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第8話 もったいない気がする

 










 凄い。

 我が破壊しに来たはずなのに、先に破壊されているんだけど。こんなの初めて。


『山賊かしら? 千年前は基本的にあなたvs.世界だったから、こんなことなかったものね』


 ね。

 しかも、この我の脚にしがみついてくる血だらけの今にも死にそうな人間。


 いや、助けてって……我、破壊神ぞ? 助けてって懇願するのは、四大神の方では?

 まさか、破壊神に助けを求めてくる人間がいるとは……世も末である。


 しかし、うーん……やはり、我が人や魔族を助ける神ではないためか、こういって懇願されてもまったくやる気が出ない。

 あの女神だったら嬉々としてやる気を出して助けていたのだろうが……我、むしろ正反対の立ち位置だから。


 助けを求めるような元凶を作りだしちゃう側だから。


「あ? なんだああ、テメエ。村人……ってわけじゃあねえみてえだなああ?」


 ギロリとこちらに目を向ける、一際背が大きく立派な筋肉をした男。

 こいつが今村を焼いている連中のリーダーだろうか?


 しかし、なかなか見る目があるようだ。我を村人と間違えなかったことは褒めてやろう。


「ふっ、当然だ。我をそこらにいる連中と一緒にされてもらったら困る」


 バサッと手を大きく広げる我!

 一気に注目を集めることに成功する。


 村人たちを殺していた連中も、逃げ惑っていた村人たちも、皆我に夢中!

 超、気持ちいい!


「我は破壊神! 貴様らに暗黒と混沌を齎しに来た者だ!」

『おー、格好いいわよー』


 ヴィルの言葉が心地いい。

 ……やけに投げやりな感じだったが、まあいいだろう。


 我のこの勇姿に、皆愕然としている。

 ふっ……恐怖のあまり声も出ないか。それも仕方のないことだ。


 我は破壊神。世界を破壊し、破滅させる、最恐最悪の神である。

 人間たちが怯え、おののき、震えるのは当然のことと言えるだろう。


「破壊神、様……?」

「あのおとぎ話の? そんな……」


 愕然としつつ、会話とも言えないような独り言が聞こえてくる。

 ふっ……いいぞ、いいぞ。


 こんな感じ、我大好き。


「で、でも、精霊の尖兵に暗黒と混沌を齎しに来たってことは……私たちを助けに来てくれたの!?」


 いや、違う。そうじゃない。

 誰だ、勝手に我を希望の星にしているのは。


 おい、止めろ。『おぉっ』じゃない。我、破壊神ぞ? 何度言えば分かる。

 別にその尖兵とやらにだけ言ったわけじゃないからね。お前たちにも言っているからね。


 世界を征服するんだから、当然お前たちも征服するんだからね?


「ぶっ……ぎゃはははははははははは!! 今日は面白いことばっか起きるじゃねえかああああ!!」


 何やら大笑いして我を見る巨漢。

 むっ、デカい。


「自分を神様だと思ってやがる精神異常者かあ!? 俺たちのお仲間にいじめられでもしたのかよお!?」


 いや、さっき千年ぶりに外出てきたばかりだから、いじめられてなどいない。


『そう考えると、とんでもない引きこもり野郎ね。ヒッキーって呼んでもいいかしら?』


 ダメ。

 どうして呼んでもいいって言ってもらえると思ったの?


 逆に聞くけど、お前のことチビって呼んでもいいの?


『殺すわよ』


 そういうことである。


「俺たちを精霊様の尖兵だと知ってそんな生意気なこと言ってんのかあ!? 俺たちに刃向うってことは、すなわち精霊様に逆らうこと! 今の時代、この世界で精霊様に逆らって、まともに生きられるわけねえだろうが!!」


 大男がそう言って笑う。

 それを聞いて、何だか勝手に我に希望を見出していた村人たちも、がっくりと肩を落とす。


 まるで、我がそれを聞いて何もしないで逃げると思っているかのようだった。

 だから、我は大男にハッキリと言ってやった。


「知らん。精霊って誰だ」

「…………は?」


 ポカンと我を見る大男。

 そいつの仲間の尖兵(?)とやらも、村人たちも……。


 え? なんだ、この空気? 常識を知らないみたいな感じ止めてくれる?

 そりゃ、千年も封印されていたんだから、今の時代の常識なんて分かるわけないじゃん。


 ヴィル、お前も知らないよな?


『知ッテルヨ』


 嘘つけ! 片言だぞ!

 我だけ一人にするな!


「はあああ……本当にただのヤバいやつかよ。おい、さっさと殺しとけやあ。興味ねえからあ、お前らに任せるわ」


 一気に我に興味をなくす大男。

 え? 我、破壊神なのに? めっちゃ無防備に背を向ける? 向けちゃう?


 凄い……これがカルチャーショックというやつだろう。

 千年前、少なくとも我に背を向ける者なんていなかった。


 いや、いたわ。やっぱり、我から逃げ惑う時は皆背中を向けていたわ。

 ただ、それは逃げようとする意思があってのことであり、まったく我に無関心で背中を向けられたのは初めての経験かもしれない。


 こいつ……強い……!


『いや、それは違うと思う』

「へへへっ。まあ、グラシアノさんの言う通りだ」


 ニヤニヤとしながら、剣を構えて我に近づいてくる尖兵。

 だから、めっちゃ無防備。我ににじり寄ってくるとは何事?


 隙だらけだし……。そのお腹に風穴開けちゃうよ? いいの?

 ポンポンと手を叩いている剣は、血に濡れていた。


 村人たちを切り捨てたものだろう。

 それは、確かに力のない弱者には驚異的に映るだろうが、残念ながら我には大したものには映らない。


 しかし、あの男はグラシアノと言うのか。覚えて……おかなくてもいいかな?


「死ねやああああああああ!!」

「あ、止めた方が……」


 ダッと駆け寄ってくる尖兵。

 その目的は剣で我を斬るということが明白に伝わってくる。


 だが、それは我ではなくやつにとって悪手である。

 一応止めようとするのだが……。


「今更遅ええよおおおお!!」


 我が命乞いをしたとでも思ったのか、やつはニマニマと嗜虐的な笑みを浮かべながら剣を振りおろした。

 惨劇が再びと想像した村人たちは、皆絶望の表情を浮かべ……。


 ガキン! と音が鳴った。

 それは、我が斬られた音でも防いだ音でもない。我は何もしていないし。


 ただ突っ立っていた我に、確かに尖兵の振り下ろした剣は当たった。

 そして、砕けたのは尖兵の剣の方だった。それだけのことである。


「…………は?」


 ポカンと口を開ける眼前の尖兵。

 敵を目の前にして、その隙だらけな様子はいかがなものか。


 まあ、安心してほしい。我は反撃するつもりはない。


「もう、終わっているしな」

「なにを……」


 言っているんだ、と続ける前に、尖兵の懐に小さな魔力の渦が発生する。

 それは轟々と唸りを上げ、怪訝そうにそれを見ている尖兵を差し置き……爆発した。


 ドン! と炸裂し、尖兵の大きな身体を空中へと打ち上げる。

 そして、ぐしゃりと受け身もとれずに地面に叩き付けられた尖兵は、もう二度と起き上がることはなかった。


「これが、我の最初の破壊か。……何か勿体ない気がする」


 何が起きたのかと皆が注目するなか、我はそう呟くのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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