第62話 宣戦布告された……
「植民地、ねえ……」
なかなか性格の悪い精霊のようだ。
まあ、今まで出会った精霊も皆性格破たん者だったが。
「しかし、魔族が支配されているのか。いや、この世界全体を支配しているのが精霊ならば、それも当然なのだろうが……」
魔族というのは、我もよく知っている。
千年前の戦争の時、我に刃向った勢力の一つだからだ。
普段は人類といがみ合っていたようだが、その時は力を合わせ手を携えて我に向かってきた。
勇者エステルと共に我と戦ったあの魔王はどうしているのだろうか?
勇者と魔王のタッグなど、そうそう見ることのできないレアものだっただろう。
「魔族ですらも従属しなければならない。それほど、精霊マルエラが強大なのでしょう」
魔族は人類よりも数は少ない。
その分、個としての能力は、人類よりも上だ。
魔法を扱う能力であったり身体能力であったり……それこそ、生命力という点でも違う。
寿命だって、人間よりも長い。
また、人間と違って特異な能力を持つ魔族も多い。
そんな連中をまとめ上げ支配するのは、並大抵のことではない。
だからこそ、今までも魔族の王として君臨する魔王は、最強の魔族が選ばれていたのだ。
「まあ、精霊がその魔王よりも強いというだけの話だな」
それならば、それでいい。
その強大な精霊を我が破壊してやることによって、魔族たちの畏怖は我に向くことになるだろう。
世界に暗黒と混沌を齎すために、精霊を破壊しよう。
「とにかく、次の精霊は『ヘドルンド』にいるんだな? ご苦労だった」
『バイラヴァ教』が情報網を作り上げることができるほど拡大しているという頭の痛いことも分かったが。
とはいえ、カリーナを労わないということはない。
こうして、次に破壊すべき対象を見つけることができたのだから。
「いえ! 破壊神様がお求めになるのであれば、命も差し出します!」
「いらん」
我は破壊が好きなのであって、殺人は別に好きではない。
しかも、喜んで差し出してくるとか、何か違う。
ニコニコ笑うカリーナに呆れていると……。
「きゃっ!?」
「む……?」
神殿が揺れるほどの地響きが起きた。
重たい爆発音のようなものも響き渡る。
少なくとも、この村で起きるようなことではないはずだ。
これは、そう……戦争の時に起こるような攻撃された時のもので……。
そう考えると、我の口角は歪に上がっていた。
『何だか面白そうなことが起きてそうね。ういっぷ……』
まず貴様は酔いを覚ませ、馬鹿。
◆
神殿の外に出る。
改めて村を見るが……本当にあの寒村かと思うほど発展していた。
もはや、村どころか街と言われても納得してしまいそうなほど見違える。
『バイラヴァ教』の寄進などの影響だろう。止めろ。
あの爆発音と地響きは、当然ながら村中に響き渡っている。
多くの人々が外に出てきて右往左往していて……我を見てひれ伏す。
……うん。そういうのは悪くない。悪くないのだが……。
「おお、破壊神様だ! 万歳!」
「破壊神様さえいてくだされば、怖いものなど何もない!」
歓迎するのは止めろ。
もっとこう……怯えるとか、あるだろう!?
ここにいても居心地が悪いだけなので、さらに音が鳴った方へと近づいていく。
すると……。
「あら、バイラヴァ様」
「女神か」
我よりも先にその場にいたのは、女神ヴィクトリアであった。
豊かな金色の髪を揺らし振り返る姿は絵画のように美しく、とても様になっている。
我はそういった美しさはあまり理解できないが、少なくとも忌避するようなものでもないのだが……。
ぶるっと豊満な肢体を震わせて、隣に立った我を恍惚とした表情で見上げてくる彼女を冷たい目で見降ろした。
「うっ……ふう……。もう、いきなりなんですから」
「我は何もしていないだろうが」
いじいじと細長く綺麗な指を押し付けてくる女神に、額に青筋が浮かぶ。
千年前は、確かに女神然としていたのだ。
数百年精霊に囚われて壊されてしまったせいで、こんな色ボケ女神が誕生してしまった。
やはり、精霊。許さん……!
ちゃんと責任持って引き取っていけ……!
「わたくしの準備は万全ですわ! さあ、早く子をたくさん産ませてくださいまし! 地を満たすのですわ!」
「クソ! まずはこいつから処分するしかないか……!!」
縋り付いてくるヴィクトリア。
大きな胸がつぶれて柔らかい感触が伝わってくるが、我からすると鬱陶しさしか感じない。
何が子供だ! 破壊神の子供とか、絶対産ませたらダメなやつだろ!
そもそも、我と女神は敵同士であらねばならんはずなのに……!
何とか縋り付く女神を引き離そうとしていると、再び我らの近くで衝撃と爆発音が発生する。
それは、どこぞから飛ばされてくる魔法攻撃だった。
ゴウッと間近の着弾に、女神の豊かな金髪が大きくなびく。
それだけでは終わらない。
その後に続くように、次々に魔法攻撃が迫ってくる。
そのまま無視をすれば、間違いなく深刻な被害をもたらすであろうことは明らかだった。
「もう。お邪魔虫ですわね。せっかくいいところでしたのに……」
我が破壊してやろうと手のひらを掲げるのだが、それよりも先に我にしなだれかかってきている女神が不服そうに頬を膨らませる。
そして、カッと地面を蹴りつける。
「邪魔する悪い子は、お仕置きですわ」
地底の奥から何かがせりあがってきて……それは、大きな木だった。
目を見張るほどの速度でどんどんと成長していったそれは、豊かな緑を生い茂らせる。
迫りくる魔法攻撃を、その全身で全て受け止めてみせた。
ドドド! と身体が震えてしまいそうになるほどの衝撃は伝わるものの、その攻撃が我らや村に届くことはなかった。
……力は未だ強大なものだ。立派なものだ。
なのに、どうしてこんなバカな性格に……。
「……で? なんだあれは?」
気を紛らわせるために、気になっていたことを尋ねる。
この魔法攻撃を仕掛けてきた者たちがいるのだ。
それは、一人ではない。一人で撃てる攻撃でもない。
数人、数十人……いや、数百人か?
その軍勢とも言える規模の集団は、この村へと着実に近づいてきていた。
我の元へと駆けつけてきたカリーナが、その軍勢を見て目を丸くする。
「あ、あれは……『ヘドルンド』の軍です! 尖兵も混ざって……」
ヘドルンド……つまりは、現在の魔王軍だろう。
なるほど。目を凝らしてしっかりと見れば、確かにその軍勢はほとんど魔族で構成されていた。
しかし、その中には人相の悪い人間も混ざっている。
それが、精霊マルエラの尖兵だろう。
そんな軍勢が、この村に……遺憾ながら『バイラヴァ教』の総本山に攻めてきたのである。
「ほう。まさか、あちらから来てくれるとはな。手間が省けていい」
我は嬉々として笑みを浮かべる。
こちらから探しに行くよりも、あちらから出向いてくれた方が楽だ。
さて、精霊はどこだ?
存在感の強い者を探していると……強大なオーラを溢れ出させている者が、その軍勢の中から一人現れた。
その女は、不敵な笑顔を浮かべていた。
……その恰好は痴女みたいだが。
「さて、と。さっさと出てきなさい、クソ神。あたしがあんたのこと、殺してあげるから」
……痴女に宣戦布告された……。
前作の『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』のコミカライズ1巻が発売されます。
活動報告に詳細をのせていますので、よければご確認ください。




