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第31話 なんだ貴様!?

 










 パチリと目を覚ます。

 我はつい先ほどまで眠っていた。


 正直に言うと、神に睡眠は必要ない。

 人間や魔族は眠らなければ死んでしまうが、不死の存在である神は当然不眠程度で死ぬことはない。


 まあ、だからと言ってずっと起きていても暇になってしまう。

 長い年月を生きる神だからこそ、なおさらである。


 それに、寝るということは快感だ。とても気持ちがいい。

 もちろん、しっかりとした寝具と安心できる環境が必要だが、我は少なくとも後者はいつでも確保できる。


 そのため、何か寝ずにやらなければならないことがあるのであれば別だが、それ以外は寝るようにしている。

 いやはや、千年も封印されていたからか、久しぶりに寝るベッドの感触が素晴らしい。


 世界を再征服した後は、ベッドと布団の職人だけ優遇してやろうかと思うくらいだ。

 そして、隣に備え付けられている温かくて柔らかいものもいい。


 抱き寄せれば何とも心地よく、また深い意識の底に沈んで行きそうになり……。


「あんっ……」


 ……何でこんな声が我の隣から聞こえてくるんだ?

 おそるおそる……というか、もうだいたい分かっているから嫌々目を開けると……。


「すー、すー……」


 穏やかな寝息を立てる女神が、我の隣で眠っていた。

 全裸で。


「……何してんだこいつ」


 完全に無防備で眠っており、隣にいるのが破壊神だと本当に知っているのか心配になってくる。

 破壊するぞ。


「おい、起きろ女神。貴様何度目だ」

「ふわあ……おはようございますわ、バイラヴァ様」


 我が無造作に揺すってやれば、むくりと身体を起こす女神ヴィクトリア。

 寝癖のついた乱れた金色の髪がふわりと揺れ、ゴシゴシと目元を擦っている。


 見えてる見えてる。シーツずれているから全部見えているぞ。


「ああ。おはようはいいから。貴様、何度言ったら分かる? 勝手に我のベッドに入ってくるな」


 我がこいつを見ても呆れた感情しか沸いてこないのは、これが初めてではないからである。

 精霊ヴェニアミンを破壊してから、ずっとだ。


 目を覚ましてからというものの、こいつは毎晩と言っていいほどいつの間にか我のベッドの中にもぐりこんでくるのだ。全裸で。

 普通なら寝ていても誰かが接近すれば気づくのだが、まず敵意や害意が一切ないことと、神としての力を行使していることで我でも気づくことができない。


 どちらかがなければいけるのだが……なに面倒なことに力使ってんだこいつ。


「そんなこと言われましても……。数百年たった一人で閉じ込められて魔素を吸い取られ続けていたんですもの。寂しいですわ」

「知るか。我は関係ないだろ」


 よよよっと泣き崩れる女神。我には通用しない。

 そりゃあ、こいつを信仰する者ならすぐにでも抱きしめていただろうが、我は冷めた目を向けるだけである。


 千年前の敵に何言ってんだとしか思えん。


「関係ありますわ! バイラヴァ様は、わたくしの依存たい……救世主なのですから!」


 目をキラキラ……というよりドロドロとさせた女神が我を見てくる。

 今凄いこと言おうとしていなかった?


 しかも、また救世主か。その言葉、もう大嫌いだ。

 何で期待して我を見て来るんだ。ビビれよ。


「わたくしの重荷も重責も全部バイラヴァ様に押し付けますわ」


 クソ迷惑なのだが。

 当たり前のように言ってくるが、貴様非常識にもほどがあるぞ。


 我が頬を引きつらせていると、柔らかく身体をしなだれかけさせてくる。

 熱い。邪魔だ。


「だけど、その代わり……わたくしの全てを捧げますわ。差し上げますわ。わたくしを救ってくれたバイラヴァ様……。これでも、感謝しているのですわよ? かつて敵だったわたくしを、どんな理由であれ数百年の拷問から救い出してくれたのはあなたなのですから」


 その申し出は、多くの人間にとって魅力的なものなのだろう。

 女神はその容姿が非常に整っている。


 身体も豊満なもので、三大欲の中に性欲がある人間たちにとっては、垂涎のものだろうから。

 ドロリと情欲に沈んだ碧眼と色っぽい表情は、枯れた老人ですら奮い立たせるに違いない。


 まあ、我には効かないんだけど。

 だって、これ面倒事とか全部押し付ける気満々じゃないか。


 我は世界を再征服したいのであって、女神の些事を手伝うほど暇ではないのだ。


「ふん。別に我は貴様を積極的に助けようとしたわけではない。貴様の使徒に感謝するのだな」


 女神には、彼女のことを思って数百年の拷問に耐えた使徒がいる。

 それは、彼女にとってとても幸せなことだろう。


 ……我はそういうのいらないから。皆死んでいてくれ。


「ええ、レナ。わたくしを裏切らなかった貴重な信徒。彼女のことも大切にしますわ。でも……わたくしの幸せも考えていいと思いますの」

「好きにしたらいいだろ。貴様が幸せになろうが不幸になろうが知ったことではない」


 やっと話が終わったか。

 さて、我もそろそろ外に出て日の光を浴びようか。


「ええ、では早速……」


 そう言うと、女神は我の胸をツンと押して仰向けに寝かせ、自分がその上に跨り……。


「なんだ貴様!?」


 何してんだこいつ!?

 こんなに狼狽したのは千年前のあの時以来かもしれない。


「好きにやるのですわ」

「我を巻き込んで好き勝手していいわけないだろうが! 恩を仇で返す気か!?」


 バサッと豊かな金髪をかきあげる女神。

 そのちょっとしたしぐさで重たげに胸が揺れる。


 てか邪魔! それで貴様の顔が見えづらいのだが!?


「大丈夫ですわ! バイラヴァ様も気持ち良くて幸せになれますわ! 経験ないから知りませんけど」


 こいつ……! いったいどんな思考回路をしているんだ……!?


「我は破壊神だぞ!? 性欲なんかあるか! そもそも、何でこんなことを……!!」

「……わたくしは裏切られて精霊に捕まり、地獄のような日々を数百年過ごしましたわ」


 うん。


「だから、裏切られるようなことは二度と経験したくありませんの。でも、あのようなことから、わたくしは他人を信じられるような感性を失ってしまいましたわ」


 うん。


「だから、絶対に裏切らないわたくしだけの子供を作ろうと思うのですわ! これなら安心ですわ!」


 それはおかしい。

 黙って聞いていたが、やっぱりおかしい。


 あと、子供だからって裏切らないとは限らないだろう。

 条件と環境が整えば、子供だって親を殺す。


 とはいえ、女神のことを慕う子供だって生まれてくる可能性は十分あるのだから、どちらでもいいことだ。


「だったら、我以外の適当な男を捕まえて子を孕めばいいだろう。我を巻き込むな」


 とにかく、これに尽きる。

 正直、我の邪魔さえしなければ何をしてくれてもいいから。我を解放して……。


「バイラヴァ様以外が信用できなくて……。正直、あなたとレナ以外に近寄られるだけで吐き気がするのですわ」


 重症すぎるだろ。ニコニコとした笑顔で凄まじいことを言っている。

 まあ、数百年生命力そのものを搾り取られていたら、そうなるのも当然かもしれないが。


 ヴィルよ。身体を治せたのだから精神も治せなかったのか?

 この女神、見た目以上に重症だぞ。


「それに……んっ、ふう……。バイラヴァ様の近くにいて、目を合わせられて、匂いを嗅ぐだけで……達してしま――――――」

「よし、もう黙れ」


 頬を赤らめ、豊満な肢体を悩ましげに震えさせる女神を見て、我は立ち上がった。

 ダメだ。もう千年前、この世界を守るために命を懸けて我に挑んできた女傑はいないのだ。


「あら、二度寝しませんこと? わたくし、いい抱き枕になると思いますわ。同じベッドで密着しながらねっとりと退廃的な時間を……」


 何でこいつ慈愛と豊穣の女神なの?

 性欲と依存の女神でもいいのでは?


 そんなことを考えながら、女神のことを無視して外に出ようとすると、我が扉を開く前にガタリと音を立てて開かれた。


「は、破壊神様。そろそろ、食事の準備が……」


 そこから入室してきたのは、女神の使徒であるレナだった。

 おそるおそるといった様子で入ってきた彼女は、我を見てからベッドの上に全裸でいる女神を見て固まる。


 そして、すうっと息を吸い込むと……。


「な、何をしているんですかああああああ!?」

「貴様の女神があれなんだ!!」


 我のせいにしてんじゃねえ!!




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