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第23話 拗ねていない

 










『で、どうやって助け出すの?』


 尖兵たちの注目を集めながらふわりと地面に降り立った我に、心の中のヴィルが問いかけてくる。

 どうやってって……正面突破でいいだろう?


 そんな丁寧に救出なんてやってられん。


「おいおい、まさかここに人が寄ってくるなんてなぁ……」

「俺たちがいる所にわざわざそっちから来るやつなんて久しぶりだぜ。しかも、女連れだもんなぁ……」

「ヘンテコな恰好はしているが、見た目は悪くねえな。おら、テメエはこっち来い。男は暇つぶしにいたぶって殺すか」


 ニヤニヤと笑いながら近づいてくる尖兵たちは、本当に自分たちの思い通りに事が進むと思い込んでいる。

 それは、こいつらが馬鹿だということもあるだろうが、実際にその通りに進んできていたからだろう。


 やりたいようにやって、生きたいように生きる。

 それをすることが許されていたのだろう。


「呼ばれているぞ」

「い、嫌ですよ! 尖兵程度なんかに好き勝手されたくありません!」


 とりあえず、レナを差し出そうとすれば抵抗される。

 破壊神に抵抗とな?


「おい! 俺らを無視して勝手に盛り上がってんじゃねえぞ!!」

「ふう、やれやれ。破壊神パワー見せちゃうか」


 怒鳴り散らしてくる尖兵たちに、腕をぐるんぐるん回してやる気を見せる。

 こういうおごり高ぶった強者を弱者だと認めさせることは、なかなかに楽しい。


 よし。このうちの一人を生かしてどこぞへと逃げさせよう。

 ちゃんと破壊神が復活し、自分たちをボコボコにしたと話させるようにしてな。


 そうすれば、我のことが噂で大陸中に広まり、恐慌状態へと陥ることだろう。

 なんて素晴らしいんだ……。


『千年前のおとぎ話のキャラクターが出てきたなんて、ちゃんと信じる奴がいるのかしら?』


 ……それは確かに問題だな。

 まあ、とりあえず我の強さを……と思っていると、その前にスッと割り込んできたのはレナである。


 順番抜かしとか許さんぞ?


「いえ。それには及びません」


 彼女はどこからか薙刀を取り出すと、一閃。

 近づいてきていた尖兵たちを、一気に切り裂いたのであった。


 ……切り裂いたのであった。


「……数百年の虐待で衰弱はしていますが、この程度の連中にこの数なら負けません。それに、おそらく精霊がいるはず……。私では荷が重いでしょうから、その時ヴィクトリア様を助けるためにお力を発揮してください」


 スッと薙刀を振れば、血がビシャッと振り払われる。

 ……いや、まあね。聞く限り精霊は神をも倒すことができるみたいだし、確かに疲弊しきった使徒程度では敵わないかもしれないけどね?


「…………」

「あ、あれ?」


 スタスタと洞窟の中に歩いて行く我を見て、慌てて駆け寄ってくるレナ。

 我の中から黒い珠が飛び出し、妖精へと姿を変えた。


「あのねー。バイラは自分の力を見せびらかせてビビられたいのに、それを邪魔されたら拗ねるでしょ。ちゃんと謝っておきなさいよ」

「え、えぇっ!? わ、私は良かれと思って……!」


 拗ねてない。

 別に良いし。他にも尖兵はいるだろうし、そいつら痛めつけるだけだし。











 ◆



「……他の尖兵、出ないじゃないか」


 我は絶望していた。

 こんな負の感情を抱いたのは、千年ぶりだ。


『封印されていたからちょっと前じゃない』


 しかし、まさか洞窟の中にまったく尖兵がいないとは……。

 一般的な洞窟だと、あまり環境が良くないから人が滞在したがらないのは当然だが、この洞窟はしっかりと手入れされているし、じめじめもしていない。


 それなのに、人がいない……。


「少し不思議ですね。どうして他の尖兵の護衛がいないのでしょうか?」

「色々と考えられるな。護衛なんて必要ないくらい自分の力に自信があるのか、それとも尖兵相手にも見られてはマズイことでもあるのか……はたまた、この場所に人が寄りつかないと踏んでいたのか」

「なるほど……」


 手入れがされているということは、人がいるということ。

 しかし、尖兵はいないとなると……ここには精霊がいるのだろう。


 少しワクワクしてきたな。

 ようやくこの世界を支配している精霊とやらに会うことができるのだ。


 我を手こずらせてくれるような存在がいればいいのだが……。


「これは……」


 そんなことを考えながら洞窟の中を歩いていると、この場所に不釣り合いな機械的な扉が現れた。

 大きなそれは、岩壁に密着してしっかりとこの先に進むことを許さなかった。


「開け方は分かるか?」

「……いえ、すみません。おそらく、登録されている魔力などがキーになっているのでしょうが……尖兵たちを連れてきましょうか?」


 確かに、精霊側の存在である尖兵ならば、この扉を開けることができるかもしれない。

 洞窟の入り口にレナが切り捨てた尖兵たちが数人いるので、それらを引っ立ててきて開けさせることもできるかもしれないが……この洞窟の中に一人たりとも尖兵がいないことを考えると、それも難しそうだ。


「いや、あいつらではここに入ることは許されていないだろう。精霊だけが入ることができる場所ではないか?」

「じゃあ……」


 どうすればいいのか、とレナは続けようとしたのだろうが、そもそも破壊神である我の前に障壁が立ちはだかるなんてことがありえない。


「ああ。強行突破だ」


 そう小さく呟くと、体重の乗せた蹴りを巨大な機械扉にぶつけるのであった。

 なるほど、なかなか頑丈な造りのようだ。


 ガァン! という凄まじい音と身体全体に衝撃が走るが、我の必殺技破壊神キックにより、その扉は見事破壊されたのであった。


「えぇ……?」


 破壊された扉を見て困惑の声を上げるレナ。


「行くぞ。そもそも、女神を取り返しに来たのだろう? お行儀よく侵入する方がおかしい」

「ま、待ってください!」


 先に扉の中へと入って行った我に、慌ててついてくる。

 しかし、すぐに我が立ち止まっていたことに気づき、不思議そうに周りを見渡して……彼女は唖然とした。


 そこは、先ほどまでの岩肌がむき出しになった洞窟と違い、機械的な設備が並んだ研究室のような場所だった。

 それだけでも驚くべきものだが、何よりも目を引きつけるのは……。


「こ、これは……!?」

「悪趣味だな。嫌いじゃないぞ」


 地面から天井に向かっていくつもの筒が伸びている。

 その中には大量の液体が注ぎ込まれており、その中にさまざまな生物が閉じ込められていた。


 魔物や動物はもちろんのこと、人間や魔族といった知的生命体まで。

 いくつもの管やよくわからない機械が身体中に巻きつけられ、装着されている。


『うっげぇ……。何かいかにも悪の科学者がいるような場所ね』


 どうやら、ヴィルもあまりこの場所を好まないらしい。

 レナなんて嘔吐するのをこらえているかのようだった。


 まあ、五体満足じゃないものもあれば、上半身だけ入れられているグロテスクなのもあるしな。

 あそこなんて、子供が詰められている。


 一般的な倫理観を持つ者なら決してできないことだし、怒りを覚えるのも当然の光景だった。


「ああ、すまないな。もともと、人を招き入れることは想定していないんだ」


 そして、そんな我らに声をかけてくる男がいた。

 だが、彼は我らに背中を向けたまま、何かに没頭している。


 異質なのは、男が身に着けている白衣である。

 清潔さを表すのが白衣のはずなのに、それは白の布地に大量の血しぶきが付着している。


 不衛生極まりなく、おぞましさを感じさせる。

 そんな男が、ゆっくりと振り返った。


 キラリと光るのは、彼の装着しているメガネだ。


「とりあえず、言っておこうか。ようこそ、招かれざるお客様。私はヴェニアミン。精霊だ」


 ようやく、我はこの世界を支配する精霊に出会ったのであった。




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