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第17話 また、来ますわ

 










 木々が生い茂る自然豊かな場所。

 多くの動物たちも生息しており、小鳥が鳴いている様はとてものどかだった。


 そんな場所を歩いているのは、美しい白い翼を生やした女だった。

 彼女はこののどかな光景を見て薄く微笑みながら、とある人物を迎えに行っていた。


 歩いていると、次第に小鳥のさえずりが聞こえなくなっていく。

 また、豊かな緑もだんだんと減っていき、いつの間にか殺風景な土しか見えなくなってくる。


 それに従い、女の顔も穏やかなものから引き締まった緊張したものへと変わっていく。


「(あまりここには来たくないのだけれど……)」


 しかし、自分の敬愛するあの方は頻繁にこの場所を訪れている。

 とくに、何か大きいことをしなければならない直前には、必ずと言っていいほどだ。


 大事な決戦前に姿が見当たらなかったので、おそらくここだろうと当たりをつけてやってきた女。


「やっぱり……」


 案の定というか、想像通りその場所にいた彼女を見て、思わずため息を吐いてしまう女。

 彼女の敬愛する人物が、そこで目を閉じて祈っていた。


 うっすらと光が差し込みながらの祈りは、決して邪魔をしてはいけない神聖さを感じさせるものだったが……。


「ヴィクトリア様、またここにいらしていたんですか?」


 流石に何度もしていれば、慣れてしまう。


「ええ。わたくしには、ここで眠っている彼にちゃんと報告しないといけない義務がありますから」


 そう言って、祈りを捧げていた女は振り返る。

 使徒である彼女はいつも見ている姿なのだが、やはり女は同性の自分でも息をのむほど美しかった。


 金色の豊かで長い髪は絹のように上等で、透き通った青い瞳は空のようにどこまでも奥行を感じさせる。

 キリッと吊り上った目は、彼女の意思の強さと高潔さを表している。


 戦装束を身に纏っているが、その上からでも分かるほど彼女の身体は起伏に富んでいた。

 大きく張り出した胸や安産型の臀部は、なるほど豊穣の女神らしいといえばらしい。


 豊穣と慈愛の女神……ヴィクトリア。使徒の女が敬愛し忠誠を捧げる美しき女神だった。


「そ、そんな義務なんてありませんよ。だって、ここに封印されているのは、あの破壊神じゃないですか」


 何度も見ているはずなのに、その美しさに当てられた使徒の女は言葉を詰まらせてしまう。

 しかし、次第にその顔は険しくなっていく。


 ここに封印されている破壊神は、彼女にとって憎しみの対象でしかないからだ。


「世界中を破壊し、征服し、暗黒と混沌を齎した最恐最悪の化け物。数百年前の傷跡は、未だ癒えていないところもたくさんあります」


 あの世界の命運をかけた大戦争に、彼女もヴィクトリアの使徒として参戦していた。

 その結果、破壊神は四大神……いや、世界に敗れてこうして封印されているわけだが……彼女からすると、決していい思い出ではない。


 結局、ヴィクトリアを守ることもできず、戦いの最初の方で甚大なダメージを受けて戦闘不能に陥り、最終戦争と言ってふさわしい大激戦を、ただ見ることしかできなかったのだから。

 だからこそ、世界に害を為し、ヴィクトリアを命の危険にさらした彼のことは、大嫌いであった。


「そう、ですわね。レナ……あなたたちから見て、この方を許せないのは当然ですわ。あまりにも身勝手で横暴で……世界をめちゃくちゃにされたんですもの。怒りを抱いて当然……」


 使徒の女……レナを見て、ヴィクトリアはそれを非難することなく認めた。

 誰にでも優しく慈悲深い彼女は、それを破壊神にさえ向けていた。


「だけど、彼は破壊神。破壊をつかさどる神。たとえ、彼が望んでいなくても、そうしなければならないように定めづけられているのですわ」

「だ、だからと言って……」


 確かに、それは一理あるかもしれない。

 だが……それで納得できるかと言われれば、否である。


 破壊をするために生まれてきた。だから、破壊しても許す。

 そんなこと、レナにはできるはずもなかった。


 自分の意思に反するようなことを言われても、ヴィクトリアは穏やかに微笑んだ。


「ええ、もちろん。あなたに彼のことを許せ、なんてことを言うつもりは毛頭ありませんわ。わたくしだって、彼のことを認められないから、受け入れられないから、あの戦争で彼と戦って、封印したんですもの」


 スッと破壊神が封印されている場所を見やるヴィクトリア。


「だから、彼のことを封印した後の世界のことも……ちゃんと教えてあげないといけませんわ。彼には反省するまで、ここで過ごしてもらう。その間に、わたくしたちはこの世界をより素晴らしいものへと変えていきましょう。彼が復活した時、破壊する気がなくなってしまうほど、素晴らしい世界に」


 その声には、強い決意が秘められていた。


「覚悟してくださいまし。わたくしだけだと、そんなたいそれたことはできないかもしれません。でも、この世界に生きるのは、わたくしだけではない。人や魔族……この世界に生きる者全てと協力し、作り上げてみせますわ!」

「ヴィクトリア様……」


 彼女は……自分の敬愛する女神は、世界をめちゃくちゃにした破壊神すら抱きしめたいと、抱擁したいと考えている。

 敵対するどころか、見捨てることすらせず。


 彼のことを抱きしめ、共に歩いていきたいと……。

 それは、レナではわからない、理解できない二人だけのつながりのようなものが感じ取れた。


 いや、破壊神の方はいないため、一方的な気持ちなのかもしれない。

 しかし、神と神。二人だけにしかわからない何かが、確かにここにはあったのだった。


 これ以上、破壊神を貶めるようなことは口にしない。

 キッと強く決意を込めた表情を浮かべ、ヴィクトリアは口を開く。


 振り返った彼女の顔は、まさに戦士のものだった。


「そのためにも、あの無粋な侵略者たちには帰っていただかなくてはなりませんね」

「あ、そうでした! アールグレーン様が到着されました」

「そうでしたか。では、行きましょうか」


 本来の目的を思いだし、レナは報告をする。

 それを聞いたヴィクトリアは、封印場所に背を向けて歩き出す。


「……また、来ますわ」


 チラリと肩越しに振り返り、そう呟いたヴィクトリア。

 今度こそ振り返ることなく、彼女は歩いて行ったのであった。


 これが、彼女がバイラヴァの封印場所に現れた、最後の日になった。











 ◆



「お待たせして申し訳ありませんわ、アールグレーンさん」

「いや、大したことねえよ」


 簡易なテントの中に、ヴィクトリアとアールグレーンの姿があった。

 軽く頭を下げて謝意を伝えてくる彼女に、軽く手を振って応える。


 ヴィクトリアは彼以外に他の四大神が現れていないことに、少しの落胆の色を示す。


「それにしても……やはり、他の方は来ていただけませんでしたのね」

「あいつらはもうこの近くにいないってことだろうな。あいつらもお前ほどのお人よしじゃねえから、自分の信徒が害されねえ限り、出張ってくることはねえだろ」


 信徒の数と信仰の強さは、神の力になる。

 だからこそ、四大神を含めた神々は、自身の信徒を保護し祝福を与えるのである。


 例外として、それをやりたがらなかったのは、かの破壊神くらいである。

 信徒の狂信さに引いていたという噂もあるが、今となっては確認の術はない。


 そして、現在精霊が侵攻しているのは、ヴィクトリアとアールグレーンの信徒がいる大陸であった。

 他の二柱の勢力は別の大陸にあるため、わざわざ他の神と信徒を守るために出張ってくる者はいなかった。


 破壊神との戦争時は、間違いなく大陸どころか全世界を巻き込んだものだったから、協力し合っただけである。

 本来であれば、お互い勢力を食い合うような間柄なので、決して良い仲間関係のようなものはなかった。


 むしろ、自身の信徒でなくても救おうとするヴィクトリアが異質なのである。


「残念ですわ。皆さんでこの世界と人々を守りたかったのに……。その点、アールグレーンさんには感謝しますわ」

「へっ。俺だってこの近くにいてお前から直接言われなきゃあ、こんなとこに人間や魔族なんかを守るために来なかったさ」


 そう言って鼻で笑うアールグレーンであったが……。


「それでも、ですわ。あなたは結局こうして来てくださった。それが嬉しいのですわ」

「……そういうのはいいからよ。さっさと行こうぜ」


 ニッコリと笑うヴィクトリアが眩しいように目を背けるアールグレーン。

 彼はさっさと立ち上がり、テントの外に向かっていく。


「はい! 不躾な侵略者たちにお帰りいただき、この世界を素晴らしいものへと変えましょう!!」

「……ああ、そうだな」


 背中を見せられているヴィクトリアは、アールグレーンの悪意に満ち満ちた笑顔を見ることはできないのであった。




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