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第14話 ほほう?

 










 夜が明けた。

 ぐーっと背伸びをして朝の空気を吸い込む。


 千年ぶりの朝だ。何とも清々しい。

 よし、早速そのカルトが流行っているという街に行ってみるか。


 そんな我の元に急いで駆け寄ってくるのは、カリーナである。

 貴様は兄の面倒でも見ていたらいいのではないか?


「あ、あの! もう少し待っていただけるなら、馬をお渡しできるのですが!」


 はーはーと息を切らしながら、そう提案してくれる。

 とはいえ、馬は……。


「む? いや、必要ない」


 我の方が馬より速いし。

 食べさせてくれるというのであれば、それはまあ……。


 食事が必須というわけではないが、娯楽としてはとても好きである。

 まあ、ここつい昨日まで搾取されまくりだったから、馬が残っているといってもかなり痩せ衰えていてあまり美味しくなさそうだなぁ……。


「え? でも、歩いて行くと何時間かかるか……」

「跳んでいくから大丈夫だ。ではな」

「あっ、救世主様……!」


 もう二度と関わることはあるまいと、さっさと背を向けて街に向かおうとしたが、聞き捨てならない言葉にもう一度振り返る。

 キョトンと首を傾げるカリーナ。キョトンではない。


「……それ止めろって言っただろ。あと、石像もそれ以上作るなよ。フリじゃないからな。本気だぞ。その救世主呼びと石像をどうにかしていなかったら、次来たときマジで破壊するから」


 我はそう言ってキッと睨みつけると、グッと脚に力を溜めて……一気に解放した。

 地面を蹴り砕き、我の身体は物凄い速度で空を滑空するのであった。


 この時の我は、のちにこの村から再びあの我を崇める邪教カルトが広まりを見せることになるとは、想像もしていなかったのであった。











 ◆



 地面を蹴り砕き、一気に街まで距離を詰めた。

 流石にいきなりダイナミック侵入すると面倒なことになりそうなので、近くのところで一度降りる。


 街の正門には門番がいるのだが……そこから行くと面倒そうだ。

 中に入るためにお金もとられるだろうし……。


 ということで、我は街の外壁をジャンプで飛び越え、中に侵入するのであった。

 幸い、近くには誰もいないようだった。


 改めて表通りに出て歩いてみるが……。


『うーん……なんか、変な空気ね』


 ヴィルの言う通り、なんというか形容しがたい雰囲気が流れていた。

 いや、なんだろうな。我もあまり口が上手い方ではないから説明ができないのだが……皆仮面をかぶって生活をしているかのような印象を受けた。


 自分を取り繕っているというか、精一杯建前を形作っているようだった。


『あ、お酒ある! ねえ、バイラ! あれ買ってよ!』


 我の中で一気に機嫌をよくするヴィル。

 彼女の言葉に目を向ければ、屋台で酒瓶を並べている親父がいた。


 えー……。我、お金持ってないし。


『うっそ。無一文? こんな貧乏人と一緒になれないわ。離婚しましょう』


 結婚もしてないけど?

 あっ。そう言えば、カリーナから無理やり押し付けられたものがあったような……。


 ごそごそと懐をあされば、硬貨がいくつか入っていた。


『それお金よ、多分! さあ、それを使ってお・さ・け! お・さ・け!』


 この酔っ払いめ……。

 まだ飲んでいないのに、もう出来上がっているのか……。


 しかし、これがお金かあ。我が封印される前のものとは違っているな。

 刻印も……なんだかよくわからん顔になっている。誰だこいつ。


 我の時は、四大神の誰かが多かったが……。

 とりあえず、屋台の方へ向かう。


 ヴィルが癇癪を起こしたら面倒だしな。


「おい。酒を一瓶くれ。これで足りるか?」

「ああ、はい。もちろんです」


 ジャラリと硬貨を渡せば、親父は一本の酒瓶を渡してきた。

 冷やされており、水滴がいくつかついているそれはとても美味しそうだ。


『いやっほおおおおおおおお!!』


 我の中で狂喜乱舞する酔いどれ妖精。

 あとでちゃんと返せよ。


『…………え? マジ?』


 そうだ。こいつに聞いてみるか。

 唖然としているヴィルを置いておき、我は屋台の店主に話しかける。


「我は外から来た。この街では宗教が広まっていると聞いたのだが、それは本当か?」

「ええ、そうですよ。私も信徒です。素晴らしい宗教ですよ」


 ほー。もしかしたら、この街に住んでいる者のほとんどがその宗教の信徒なのかもしれないな。

 何を信仰しようが勝手だが、少し気になったのは……。


「そうか。あまり幸せそうには見えないが……」

「いやいや、そんなことないですよ! 変なことを言うのは止めてください!」


 我の言葉に慌てて首と手を振る店主。

 うーむ……まさか、この街にいる以上は信仰を強制されるのか?


 ……周りにいた何人かがこちらを監視するように見たな。

 一部の熱狂的な信者が町中を監視し、宗教に反するような言動をしないようにしているのか。


 何かそういうことをしでかしたら、街を追い出されるか、はたまた……。

 ほほう。やはり、カルトのようだ。


 こういうのを破壊するのも、なかなか楽しい。


「我も少し興味が出てきたな。その宗教の指導者は知っているか?」

「もちろん、存じております。私たち一般人とは比べものにならないほどの強大な力を持っていられて……。だからこそ、この街は精霊の尖兵に手出しをされることなく、安全が保たれているわけですよ」


 なるほど。宗教を信仰することによって、自分の安全を守ってもらっているのか。

 それくらい、この地域では尖兵が幅を利かせているらしい。


 カリーナたちの村でそれは明らかだったが……。

 しかし、この世界の支配者たる精霊の尖兵に抵抗することができるほどの力を、教祖……この街の支配者は持っているということか。


 ふははっ、ますます興味がわいてきたぞ。

 力ある者との闘争はとても心躍るからな。


『お酒ちょーだい。ねえねえ、お酒』

「そうか。なおさら興味がわいてきたな。どこにいるのかは分かるか?」

「ええ。いつもあの塔から私たちのことを見守ってくださっていると聞きます」


 店主の指さした方向を見る。

 はー。いかにも権力者がいそうな高い塔だ。他の建物とは一線を画している。


 ……王城や魔王城などもそうだったが、何で皆一番高いところに住みたがるのだろうな。

 我からしたらちょうどいい(まと)にしか見えん。


 あそこに魔力弾を撃ったら面白いだろうか?


『ねえねえ、お酒。ちょーだいお酒。飲ませてお酒』

「それに、時折街にも出てきますよ。あ、ほら……」


 やはり、少し沈んだ表情で目を向ける店主。

 ……なにやら、人が大勢集まっている。


 人ごみのせいでいまいち何が起きているのかわからないな。

 よし、少し近づいてみるか。


『おーさーけー』


 さっきからうるせえ!!

 てか、飲みたいんだったら出て来い! どうやって我の中にいるお前に酒瓶を渡すんだ!


『できるわよ。ほら』


 シュバッと我の手から消える酒。

 なん、だと……?


『ごくごく……ぷひー! うまっ』


 え? 本当に我の中でお酒飲んでるの? どうやって?

 何をどうやって我の中でお酒を飲めるのか、めっちゃ気になるんだけど。


「さあ! これよりはじまりますは珍しい使徒の処刑であります!!」


 何やら司会を務めている男の大きな声に応えるように、周りの人間どもが歓声を上げる。

 公開処刑? まあ、それはいいとしてうるさっ。破壊するぞ。


 それよりも、使徒と言っていたな。

 目を向ければ……ステージのように一段高い場所には、ボロボロの女がうずくまっていた。


 顔を拝むことはできないが……折れたり散ったりしている白い翼が印象的だった。

 本来は綺麗な純白だっただろうに、汚れきってしまっている。


 ふーむ……? あれ、どこかで見たことがあるような……。


「そして、それを見届けてくださるのは、我らが神、アールグレーン様です!!」


 悩んでいた我だったが、司会が口にした名前を聞いてバッと顔を上げる。

 すると、特等席のように絢爛な椅子に座った男が、偉そうにふんぞり返っていた。


 アールグレーン、か……。


「……ほほう?」


 知っている顔があるではないか。

 我の笑顔は、それはそれは凶悪なものだった。




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