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第118話 小人?

 










「ここが、異世界……」


 異世界を渡るゲートを通って二人の前に現れたのは、豊かな森だった。

 あまり座標を固定することはできないらしいが、今回はうまく人目の少ない所に来ることができたらしい。


 見られてしまえば、口封じをする必要が出てくる。

 彼女たちの手に負える相手ならば構わないが、それこそ本物の精霊でなければ太刀打ちできないような相手ならば、この偵察もあっさりと終わりを迎えてしまうこともあった。


「そう言えば、私たちって世界をわたるのは初めてよね」

「はい」


 目の前の豊かな自然に目を奪われていた11号に、10号が声をかける。

 11号は感動していたとかではないのだが、ただ初めて見る光景に多少の驚きを抱いていたのは間違いなかった。


 彼女たちのやってきた世界には、自然はなかった。

 いや、元々はあったのだろう。


 だが、精霊の侵攻とそれによって生じる戦争により、すっかり荒廃してしまっていた。

 そのため、今のこの光景には、どうしても目を引きつけられた。


「……こんなに緑があって、穏やかなのね」


 10号も11号と同じ感想を抱いていた。


「まだこの世界はあたしたちが侵攻していませんから」

「あー、ダメよ。まるで、私たちがダメみたいなことを言ったら。精霊王に聞かれたら、大変よ?」

「……? 別に、そのような意図はありませんが」


 指を立てて注意してくる10号。

 もちろん、11号にそのような意図はない。


 善も悪もない。ただ、精霊王に命令されたことをこなす。それだけだ。

 人工精霊は、そのために生み出されたのだから。


 それでも、10号は注意を止めない。


「だからこそ、言葉には気をつけないと。11号ちゃんが処罰を受けたら……寂しいもの」

「……はい」


 少し顔を落ち込ませる10号を見て、11号は何とも言えない温かいものが胸の奥に宿っているのを感じた。

 これが何かは分からない。


 しかし、嫌ではなかった。

 だからこそ、彼女は大人しく頷くのであった。


「よし。じゃあ、命令通り、色々と偵察をするわよ」

「はい」


 11号の返事を聞いて、ニッコリと笑う10号。

 そんな彼女に引かれて、11号は付いて行くのであった。











 ◆



 この世界では、しっかりと人がいて文明も栄えていた。

 自分たちと同じような見た目のため、街などに紛れ込んでも咎められることもなかった。


 これが、人とは違う知的生命体の文明だったら、また大変な思いをしていたのだが……僥倖である。

 どういった地形で、どういった文明があるのか。


 文明のレベル、文化、人々の気質などを情報として精霊王に送る。

 これらでも、非常に重要な情報だろう。


 侵略する際、とても参考になるはずだ。

 しかし、もっとも精霊王が求めていた情報……この世界を覆う結界を展開しているのが、誰なのか、何なのか。その情報だけは、手に入れることはできなかった。


「なかなか分からないわねぇ……」

「そもそも、結界というものがどういうものなのか、あたしたちは分からないわけですから。誰が展開しているのか、予想もできないですね」


 個人が展開しているのか?

 いや、世界自体を覆い、精霊の侵入を完全に防いでしまうほど強力なものなのだ。


 とすると、個人で展開できるものではないであろうことは推測できる。

 では、組織的に多くの人員が割かれて行われていることだと思うが……。


 うんうんと唸っていた11号を見て、10号がぽつりとつぶやく。


「……まあ、いいんじゃない? この世界を楽しみながら探せば」

「しかし、命令では……」


 楽しみながら? と首を傾げる11号。


「一番重要な情報を送ることはできていないけど、この世界の情報は送っているでしょ?  別にサボっているわけじゃないわ」

「はあ……」


 確かに、サボっているわけではない。

 調べられることは全部調べて、何一つ隠すことなく精霊王へと情報を送っている。


 しかし、楽しむということは、11号には理解できなかった。


「まあ、確かに、ずっと情報を送れなかったら問題だけどね。でも、まだ数ヵ月よ? 精霊王様はせっかちでもないし、大丈夫よ」


 10号は目を輝かせて言う。

 やはり、自分とは違う。11号は改めてそう思う。


 彼女はこの任務の中でも、何か楽しみを見つけてそれに向かって行動しようとしている。

 一方で、自分はただ命令されたことだけをこなそうとしている。


 無機質で、機械的。人工精霊であるのに人間的な10号とは、似ても似つかない。


「さあ、観光しましょう! 私たちにとって、とても良い思い出になるわ!」

「……はい」


 そう言って腕をひいてくる10号。

 楽しげに行動する彼女に、11号はどこか羨ましさを感じるのであった。











 ◆



「本当に手がかりが一切ないわね……」


 ふうっとため息をつく10号。

 彼女たちがこの世界に偵察をしに来てから、1年弱となっていた。


 その間も、得られた情報を逐次精霊王へと送信していたのだが、最も重要な結界の担い手に関しては一切情報を得られることはなかった。

 核心的なものは当然のことながら、その尻尾すら掴むことができなかったのである。


 10号の思惑通り、精霊王から咎められるようなことはなかった。

 だが、このままずっとその情報が得られないとなれば、精霊王だってそれなりの行動を示すことだろう。


 今までは情報を集めながら世界中を旅して楽しんでいた二人であったが、あまりのんきに考えていられるような状況ではなくなってきていた。


「そもそも、そんな結界のようなものが展開されていることすらも知らないようですからね。やはり、市井に紛れているだけではなく、もっと中枢に潜り込む必要があるのでしょうか……」

「そうなると、リスクもあるわね。異世界からの侵攻を防ぐための結界を展開しているくらいだし、世界が複数あって敵もいることは分かっているでしょうし」


 今までは、街の中に潜り込んで情報を集める程度のことしかしていない。

 危険性もないし、人口や文化などはそれでも十分知ることができるからである。


 しかし、それでも結界の情報を得られないのであれば、危険を伴う潜入をする必要が出てくる。

 それこそ、スパイとばれれば処刑だって考えられる。


 10号は難しそうに顔を歪めるが、11号は無機質なまま口を開く。


「しかし、これは命令です。命令のためならば、どれほど危険でもやるべきです」

「……ええ、そうね。その通りだわ」


 忠誠心、とは少し違う。

 11号は、その生き方しか知らないのだ。


 命令を受けて、それをやり遂げる。

 それ以外に、自分の生きる意味は、価値は、ない。


 そんな彼女を、10号はどこか寂しげに見つめるのであった。


「……あら? 11号ちゃん、ここにあったもの、食べた?」


 しかし、ここでふと自分の分のパンがなくなっていることに気づく。

 別に11号が食べていても構わないのだが……。


「いえ? 食べておりませんが……」

「……おかしいわねぇ?」


 そして、もちろん11号がこっそりと食べたということはない。

 自分の分もしっかり用意してもらっていたし、何よりそれほど美味しいものを食べたいという欲もなかった。


 自分でもない。11号でもない。

 では、いったいどうして……?


 と考えていると、小さく囁き合うような声が聞こえてくる。


「これ、美味しいね!」

「人間の食べ物って、すっごく美味しいもんね!」

「しー……」


 10号は11号を見て、口元に指を立てて静かにするよう促す。

 11号もコクリと頷き、こっそりと声のする方へと向かう。


 そして、その場所が小さな茂みの後ろだと当たりをつけた二人は、一気に飛び出した!


「こら!」

「「わぴゃっ!?」」


 二人は、人間の子供がこっそりと盗んだのだとばかり思っていた。

 声音や話し方からしても、そう推測するのは間違いではないだろう。


 実際に、そこにいたのは大の大人ではなかった。

 だからといって、人間の子供……というわけでもなかった。


 二人は、初めて見るその小さな身体に、目を奪われる。

 抱き合って、フルフルと震えているのは……。


「……小人?」




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