表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/149

第110話 邪魔をしてやろう

 










「ごぷっ……」


 我の目の前で呆然と目を見開く精霊。

 こみあげてきたものを抑えることができず、口から真っ赤な血を吐き出す。


 白い肌を汚して垂れていく真紅の液体は、とても美しく映えていた。

 接近していたこともあり、我の身体にピッと彼女の血がかかる。


 ……いや、それだけではないな。


「……我もか」


 我の腹も貫かれていた。

 精霊ヴェロニカの腹部を貫いたそれは、我の身体にも届いていたのであった。


 なるほど。こうすれば、攻撃が見えずに避けづらいからな。

 まさか、敵の腹から剣が飛び出してくるとは考えない。


「ぐっ、げほっ……。神様と一緒だとぉ……痛くても嬉しいわぁ……」

「馬鹿なことを言うな」


 我よりも明らかに重傷の様子のヴェロニカ。

 血を吐き出し、顔色を真っ白にしながらも戯言を言えるのは流石と言うべきだろうか。


 抱き着いてくる……というよりも、もたれかかってくる。

 我との戦闘のダメージもあり、そのうえ腹を貫かれている。


 もはや、立っていることもままならないのだろう。

 突き飛ばしてやってもいいのだが、我も腹を刺されているため動きづらい。


「のんきな会話をするな。お前ら、腹を刺されているんだぞ?」


 呆れたようにため息を吐くのは、剣を持つ男だ。

 奴の背後には、黒い扉のようなものがあった。


 時空をわたってきたのだろうか?

 それまでは一切気配すらなかったため、おそらくそうなのだろうが……。


 また精霊か。全部駆逐したと思えば、また現れやがって……。

 本当、ゴキブリみたいな連中だ。


「エド、ガー……? どうして……」

「どうして? どうしてここに? どうして攻撃を? ……まあ、どっちの意味もだろうな」


 振り向き、問いかけるヴェロニカ。

 それを受けても、平然としている新しい精霊――――エドガー。


「どうしてここに、というのは簡単だ。ベニーとレオン。奴らが殺される前に、私たちの世界に援軍を依頼したのだ。それに対して、精霊王がお応えになられただけのこと。そして、その先遣隊として派遣されたのが、私だ」


 ベニー……レオン……?

 …………?


『ちょっと前に戦った精霊じゃない?』


 ……そんな名前だったか?

 まあ、もう破壊した精霊のことなどどうでもいい。


 しかし、精霊王か。奴らの親玉か?

 そいつがこの世界に精霊を送り続けているのだとすれば……面倒だな。さっさと破壊してやろう。


「で、どうしてお前を攻撃したということだが……」

「んっ、ごほっ……!」


 グリグリと痛めつけるように剣をひねる。

 腹の中を掻き混ぜられ、ヴェロニカは血の塊を吐き出す。


 おい。それ、我の腹も掻き混ぜているんだぞ。止めろ。


「精霊王の命令だ」

「精霊、王が……?」


 目を丸くするヴェロニカ。

 意外なことなのか?


「もう用済みとのことだ。先に入った精霊全てがな。お前ら、どうにも自分勝手すぎるんだよ。寛容な精霊王でも、受け入れられないほどにな」

「ぁぐ……っ」


 凄惨な笑みを浮かべるエドガー。

 随分と冷たい主のことだ。


 ……まあ、確かに好き勝手していたのはそうだろうがな。

 魔素を異世界に送るということが任務であるはずなのに、それをしていたのがヴェニアミンくらいなのだろう?


 部下、手駒にいたら、なかなか鬱陶しいことだろう。


「今まで好き勝手やってきたんだ。お前らももういいだろう? ここで死ね、ヴェロニカ」


 ボコボコと剣が脈動する。

 それは、貫かれている身体の中で膨れ上がるということで……。


 大量の血を口から吐くヴェロニカ。

 もはや、命を落とすのも間もなくのことだろう。


 ……いや、まあそれはいいのだ。

 究極的には、精霊が仲間割れしているということである。

 精霊と敵対し、全てを破壊するという目的を持っている我からすれば、むしろありがたい展開である。


 だが……ちょっと待て。


「――――――仲間割れは結構だが」


 我の身体にもたれかかっているヴェロニカが邪魔である。

 こいつの血がどんどんと染み込んでくるし、堪ったものではない。


 だから、ヴェロニカの身体を抱き寄せ、彼女の肩の上から手を伸ばし……。


「我を串刺しにしながらすることではないなあ、おい」

「おっとぉ……!!」


 魔力弾を放てば、すぐさま回避するエドガー。

 当たらなかった弾は近くの木々に着弾し、それらを轟音と共に吹き飛ばす。


 やはり、こんなバレバレのわかりやすい攻撃は、当たらないらしい。

 だが、剣と一緒に後退したため、我とヴェロニカの腹から悍ましい鉄が引き抜かれた。


 ぐったりともたれかかってくる彼女を突き放すわけにもいかず、眉を顰めながらも受け止めてやる。


「……精霊を皆殺しにしたっていうのは本当らしいな。いやはや、最初に聞いていなかったら、今のはまずかった。どうにも、精霊というのは慢心しやすいらしい」

「貴様らの事情は知らんし、興味もないがな。我を攻撃したことは許さん」


 冷や汗を垂らすエドガーに告げる。

 そうだ。これは、我に対して不敬にも攻撃を仕掛け、腹を貫いた罰である。


「せっかく貴様らを根絶やしにしたのだ。これ以上増えられても困るんだよ、ゴミ虫め」

「精霊に対して、よくそんなことを言えたものだ。後悔するぞ?」

「それは、これからの殺し合い次第だな」


 後悔させられるものならば、させてみるがいい。

 そう言外に告げたことを理解しつつ、エドガーはニヤリと笑う。


 まるで、すでに詰んでいる相手を見るかのような余裕があった。


「なら、お前は後悔する。もう、終わっているのだからな」

「うっ……」


 その言葉に応えたのは、我ではなくヴェロニカだ。

 ビシャリと吐血する。


 ……我の身体が汚れるから止めてほしいのだが。

 しかし、様子が少しおかしかった。


 口からだけではなく、目や鼻、耳といった穴という穴から血を流していたのである。

 ……致命傷じゃないか。


 じゃなく、腹を貫かれただけでこれほどの流血をするのは少々おかしい。

 とすると、思い至るのは一つだった。


「……ほう。毒か」


 我もまた、同じく凄惨な流血をしている。

 身体の中をぐちゃぐちゃに毒に侵されていく感覚は、筆舌に尽くしがたい。


 かなり強力な毒なのだろう。

 うむ、痛い。許さん。


「……まだ平然と話せているのは驚くな。どんな身体の作りをしているんだ?」


 啞然として我を見てくるエドガーなる精霊だが、我が不死の神でなければマジで死んでいても不思議じゃないからな?


「とはいえ、ヴェロニカの方はそんな余裕がないようだがな」

「はっ、はっ……」


 事実、エドガーの言う通り、神ではないヴェロニカは死にかけているし。


「神、様ぁ……。神様の腕の中で死ねるってぇ、ロマンチックねぇ……」


 ……この期に及んでこんなバカなことを言えるのは、流石としか言いようがない。

 おい、血に濡れた手で我の頬を撫でるな。


 もうお前の血でベトベトなんだぞ、我。


「ふん。我からすれば、この精霊が死のうが生きようが知ったことではない。死ぬのであれば、別に止めはせん。……だが」


 何やら危ない雰囲気があったので、ヴェロニカを始末してくれるのであればありがたい話だ。

 とはいえ、だ。


「我の腹を貫いた貴様の思い通りにさせるのは、つまらん」

「て、敵である精霊を回復させるだと!? ど、どういう……!」


 エドガーの思い通りに事を進めるのは、それはつまらん。

 我の中からヴィルが飛び出し、ヴェロニカに触れると、温かい光が彼女を包む。


 深い傷口がみるみるうちに癒されていく。

 猛毒が中に入っている為、完全に回復するのはまだ時間がかかりそうだが……ヴィルの力ならば、ヴェロニカが命を落とすことはないだろう。


 我の行動にも驚いていたが、それ以上にヴィルを見てエドガーは激しく狼狽する。


「そ、それに、お前は……よ、妖精!? 一匹たりとも生かさず皆殺しにしたはず……!」

「勝手に殺さないでよ。失礼な精霊ね」


 頬を膨らませて怒りを表すヴィル。

 まあ、こいつ以外全滅しているらしいし、驚くのも当然かもしれないが。


「ああ、これはダメだ。精霊王に報告しなければ……。そして……」


 ブツブツと呟くエドガー。

 彼の表情からは、余裕の色が消えていた。


 次に浮かんだのは、必ず成し遂げなければならないという使命を負った男の顔だった。


「この妖精を、確実に殺さなければ……! またこの世界を守られたら、私たちの世界が滅ぶ!!」

「それはそれで面白いではないか。邪魔をしてやろう」


 強烈な殺意を向けてくるエドガーに、我は笑みを浮かべて相対するのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


本作の書籍第1巻、4月25日に発売されます!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)
期間限定無料公開中です!
書影はこちら
挿絵(By みてみん)
挿絵(By みてみん)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ