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第1話 破壊神様の復活

 










 そこは、戦場だった。

 死屍累々。まさに、その言葉がふさわしい場所だろう。


 戦場と言っても、様々なものがある。

 たとえば、小競り合いのようなものもあれば、国家間が総力を挙げてぶつかりあうような戦場もある。

 そこは、どちらかと言うと、後者であった。


 だが、国と国が激突した場所ではない。

 国と組織がぶつかった場所でもない。


 ――――――そこは、一人の男と全世界の戦力が激突した場所だった。

 話にならない。誰もがそう思うだろう。


 当たり前だ。たった一人の人間が、国を越え、大陸を越え、そして世界と対等に戦えるものか。

 どれほど鍛えていたとしても、どれほど強力な武器を持っていたとしても、一人の人間はそもそも国一つをどうにかすることすらできないだろう。


 そして、仮にその男が世界の敵とみなされ、全世界の戦力と激突したとしても、その結果はあっけない男の死というものだっただろう。

 誰もが思う常識。だが、その常識は……あっさりと覆されることになった。


 破壊され尽くした町並み。倒れ伏す人々。その中には、異形の者もいた。

 それは、まさしく全世界の戦力をかき集めたということを如実に表していた。


 人類と魔族はその垣根を越えて手を取り合い、その男に立ち向かった。

 人類の最大戦力である勇者も、魔族最強の王である魔王も、手を携えて男に挑んだ。


 天上の神々は祝福と天使を遣わすことによって、彼らを支援してその男に神罰を下そうとした。

 地下深くに住んでいる悪魔たちは、世界中の伝承で語られているような大悪魔も派遣してその男を抹殺しようとした。


 たった一人の男を殺すのに、あまりにも過剰戦力。戦闘にもならず、押しつぶされるだけ。

 ならば、何故こんなにも多くの人が、魔族が倒れている?


 何故天使の翼はもがれ、地面に堕とされている?

 何故悪魔はその強大な力を失い、消滅している?


 それは、男が世界中の戦力とまともに激突するだけの力を、たった一人で……個人で保有していたからである。

 一時とはいえ、むしろ優勢に戦争を進めることができるほどの力を持っていたからである。


 命は奪われ、大地は割れ、海は裂け、空は堕ちる。

 そんなあまりにも惨く、酷く、悪辣な戦争は……今、ようやく終わりを迎えようとしていた。


「はぁ、はぁ……信じれねえ! あれだけいた人が、魔族が、悪魔が、神が! こいつにほとんど壊されちまった……!!」


 ガクガクと膝を震わせながらおののくのは、この戦争の勝者。

 彼だけではない。数人の人影が、立っていた。


 そして、彼らの目線の先には、満身創痍といった様子の男が倒れていた。

 そう、世界を相手にして戦った、たった一人の男である。


 彼は敗者。立っているのは勝者。

 だと言うのに、その表情はまるで逆だった。


 立っている方が追い詰められた敗者のような表情を浮かべており、倒れている男の方が満足した勝者の笑みを浮かべているのだから。


「……さあ、早く封印を施そう。予定通り、着々と」

「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ! こいつを封印!? いつか復活したらどうする!? またこんな世界戦争を繰り返すのか!? しかも、今度はどっちが勝つかわからねえんだぞ! 俺たちが全部の力を注いで、この様だ! 勝ったのはどっちだよ!!」


 一人の男の荘厳な声が響くと、即座に反応する金切り声。

 彼は勝者であるにもかかわらず、その声音には恐怖が多分に含まれていた。


 目は倒れ伏す男にずっと注がれている。急に起き上がって逆襲してくることを、異様なまでに恐れているのだ。

 それほど、彼との戦争がおぞましく悲惨なものだった。


「ならば、どうするというのだ?」

「殺すしかねえだろうが! それが、のちの時代まで火種を残さなくて済む!」

「そ、それはいけませんわ! ちゃんとお話合いをしたではありませんの! 彼は封印をして、反省を促すと……」


 金切り声を上げ続ける男に異を唱えたのは、一人の女だった。

 豊かな金髪を臀部に届くほどまでに伸ばし、豊満な肢体を持ち女性らしさに溢れていた。


 キッと吊り上った目は、彼女の意思の強さを表しているようだった。


「反省だと!? こいつがそんなことするやつだと本気で思ってんのか!?」

「誰しも反省して成長することはできますわ! たとえ、わたくしたち神だとしても、不変のものは存在しませんわ!」


 敵意すら見え隠れする金切り声を発する男にも、彼女は一切引かずに立ち向かう。

 お互い、引く素振りを一切見せないものだから、仲間同士とは思えないほど険悪な空気になる。


「よせ。仲間割れをしてどうする? どのみち、我らではこの男を殺すことはできん。我らにできることは、ただ一つ。この男に強固な封印をかけ、半永久的に世界の外へと放逐することだ」

「ちっ……!」


 仲裁の言葉を聞いて、金切り声をあげる男は舌打ちをする。

 たった一人の男の処遇のために、彼ら神ですらこうして激しく意見をぶつけ合っていた。


「……つまらん話は終わったか? 雑魚共」


 そんな彼らにつまらなそうに声をかけたのは、倒れていた男である。

 全身血だらけで満身創痍だが、ゆっくりと身体を起こして座り込んでいた。


「テメエ! まだ俺たちを挑発するのか!? 今のテメエなんて、死ななくてもボコボコにいたぶってやることはできるんだぞ!?」

「やめてくださいまし! そんなことは……!!」


 彼ら神も少なからず負傷しているが、座りこんでいる男よりはマシである。

 それもそうだ。そもそも、彼は一人で、神側は全世界の戦力だったのだから。


 そもそも、こうして生きているだけでも不思議である。

 詰め寄ろうとする男を女が止めるが……。


「――――――やってみろ」

「ッ!?」


 その一言に、凍りつく。

 男も、それを止めようとしていた女も、身体を硬直させて動くことができない。


 その男は、誰よりもダメージを負っていて今にも死に絶えそうになっているというのに、この場をたった一言で支配してみせた。


「この我をボコボコに? 貴様風情が? ふははっ、笑わせるわ。貴様一人程度、この我に傷一つ付けることすらできんわ。口だけ達者な雑魚め。この状況でも、貴様だけなら消滅させることなど容易い」

「ひっ、ぐ……っ!!」


 全身に打ち付けられる殺気に、男は意識を飛ばしそうになる。

 それでも、その意識をつなぎとめていたのは、神としてのプライドだろうか。


「どうして……どうしてですの? わたくしたちは、人や魔族を導き、慈しむべきなのに……」


 悲しげな表情を浮かべながら問いかけてくる女に、男は鼻で笑った。


「ふん。そんなことを考えている神は、貴様くらいなものだぞ、女神。貴様の隣に立っている神々も、人間のことなんてカスとも思っていない自己中ばかりだ」

「そんなことは……」


 ない、と言い切ることはできなかった。

 むしろ、この女神こそが神の中では異質なのだ。


 自分のことを考えず、欲望を満たすことすらしない。

 その強大な力は、全て世界に住む人類と魔族のために使おうとする。


「それにな、それは貴様が豊穣と慈愛の神だから言うことができるのだ。我は何の神だ?」

「…………」


 女神は答えることができない。

 男は、ニヤリと口を歪めて笑った。


「我は破壊神。世界に暗黒と混沌を齎す神だ! 人を導く? 魔族を慈しむ? バカバカしい! 我はそれらに恐怖と破壊を与えるのだ!!」


 ゴウッと吹き荒れたのは、魔力でも何でもない。

 ただ、気圧された。その意思の強さに、自分はこうあれかしと義務付ける、この破壊神の異質さに。


「……それでも! わたくしはあなたのことを信じますわ! 封印が解かれたとき、あなたは優しい神様になっていると……!」

「……馬鹿な女神だ」


 これだけの戦争をして、命や世界を破壊しつくした男に向かって、なおも女神はそう言ってのけたのだ。

 もはや、破壊神としては呆れるしかない。


「さて、封印を施そう。我ら四大神の全ての力を注ぎ込み、世界を破壊しつくした神を抑え込む。我らが存在し続ける限り、この封印は解かれない。お前が再び世界に立つのは、数千、数万の時が経てからだろう。何か言い残すことはないか?」

「言い残すことだと? そんなもの、あるわけがないだろう」


 あまりにも気が遠くなってしまうほどの年月。

 その間封印されるというのは、恐ろしいことに決まっている。


 だが、破壊神は笑ってみせた。


「我は必ずよみがえる。そして、再びこの世界を征服し、暗黒と混沌を齎す。覚悟しろ、備えておけ。この破壊神が復活することに、未来永劫怯えながらな」


 その言葉は、呪詛のように聞いた者の心に食い込んだ。

 彼を囲んでいる四柱の神はもちろん、倒れながらも意識を保っていた勇者と魔王……そして、妖精。


「……封印するぞ」


 こうして、世界を破壊尽くした破壊神は封印された。

 世界中の戦力の9割以上を壊滅させ、世界を人の生活できる環境ではなくならせ、その悪神は千年の眠りにつくことになったのであった。










 ◆



「ふははははははははははっ!! 我、復活!!」


 そして、その破壊神は復活した。

 千年の時を越え、再びこの世界を破壊しつくさんと、征服せんと。


 手始めに、近くにそれなりの生命力が密集している村を見つける。

 まずは、そこからだ。小さなところで破壊神らしくないかもしれないが、その小さな一歩は大きな進歩になるのである。


 破壊神はその村の上空に現れ、高らかに叫んだ!


「我は破壊神! さあ、恐れよ! おののけ! 跪け!! 再び、この世界を我が征服しよう!!」


 そう叫んで恐怖に震える弱き存在を見ようと意気揚々と見下ろせば……。


「おらぁ! テメエら皆殺しだ!!」

「精霊様に逆らって、生きていけると思うなよ!!」

「ひいいいいいいいいい!!」

「助けてえええええ!!」

「ぎゃっ!?」


 破壊神のことに一切気づかず、武装した男たちが村人であろう無防備な人々に襲い掛かっていた。

 ポツンと空中で取り残される破壊神。


「えぇ……なにこれぇ……?」


 破壊神様、盛大に困惑される。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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