そして現在
そして現在、
「覚えてろよ、錫杖女ぁ〜っ!」
近衛軍の下士官として現場に出るようになったジュニアは、敵対する組織と闘う日々を送っていた。
「あら、今日も負けたのですか?」
お城に帰ってきたジュニアを、そう言ってプリシラが迎えた。そのプリシラはメイドの服ではなく、上物のドレスを着ている。
「完敗ではない。戦術では負けたが、戦略的にはこちらの圧勝だ」
そう言うジュニアから、プリシラが上着を受け取った。それを腕にかけ、
「その割には顔が不機嫌ですよ」
とジュニアについていく。
「仕方なかろう。こうも同じ相手に負けてばかりいては機嫌も悪くなるわ」
そんな文句を言うジュニアが、リビングに置かれたソファにどっかと座った。
「お父さん、お帰りぃ」
そこに女の子が駆けよって、膝の上に飛び乗ってきた。続いて、
「何だよ。また負けてきたのかよ」
窓ぎわに置かれたソファにいる男の子が、そんな憎まれ口をたたいてくる。その男の子は向かい側に座る女の子とカードゲームをしていた。
「リリエラ、ただいま。サードは……ん?」
そう言いかけたジュニアの頭を、背後から誰かがなでてきた。
「このなで方……。シンシアか?」
「やっほー、ジュニアさま。遊びに来てたよー」
シンシアが明るい口調であいさつしてきた。このシンシアもメイド服ではなく、赤い上物のドレス姿だ。
「ジュニアさま。まだ小隊長になってないの? プリシラが可哀想じゃないの。あの子だって、いつまでもサードなんて呼ばれるのは可哀想でしょ」
「頭をなでながら言うな〜!」
またなでてくるシンシアに、ジュニアが文句を言った。
「早くあの子をサードからジュニアにして、プリシラも王妃さまにしてあげなくちゃ」
「それができれば苦労はせんわ」
そんな話を窓ぎわで聞いていた女の子が、
「サードくんのパパ、国王さまになるの?」
と聞いてきた。この子はシンシアの娘だ。
「知らねーよ。あ、そのカード、もらうよ」
そんなことを言って、サードが女の子とカードゲームを続けた。
「プリシラも、せっかくジュニアさまと結婚したんだから、王妃さまになりたいでしょ」
しつこくジュニアの頭をなでながら、シンシアがそんなことを言ってきた。
それを見たリリエラは父の膝に座って、頭をなでてもらおうとしている。
「今でも十分玉の輿で幸せだもの、そこまで高望みしたくないわ」
とはプリシラの答えだ。
「今の王位継承権のない気ままな暮らしも捨てがたく思うのよねぇ。一代飛んでも、サードが王位継承権を取ってくれれば王家は安泰だし……」
「その時はダメなパパとして歴史に名前を刻むわよ」
「ひでー言い方だなぁ、おい」
二人の会話に、ジュニアが不機嫌な声でツッコミを入れる。
「まあまあ、ジュニアさま。ご自分のペースでガンバればいいんですよ。結果なんて、すべて時の運ですって……」
「うむ。プリシラがそう言うなら……」
なだめられたジュニアが、そう言って落ち着きを取り戻す。
そのやり取りを見ていたシンシアは、
「プリシラ、いまだジュニアさま呼ばわりで甘やかしてるのよねぇ。天然のダメ男製造機になってるって、気づいてないのかな?」
と零した。
そして目を向けたジュニアの膝の上では、頭をなでられるリリエラが上機嫌に鼻歌を歌っていた。