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第四十四話 手続き

 グランディス教会の酒場。

 僕たちは、冒険の後の反省会の他、二週間に一回、ここで定期ミーティングを開いている。


 今後の狩りの方針、冒険に限らずお互いの悩み相談、装備の購入計画、休みたい日の報告、プライベートの遊びの約束等々。特に休日の調整は欠かせない。ほら、うち女子が三人もいるからして、あの日が……


 ともあれ。堅苦しいものではなく、ざっくばらんとしたものだ。


 そんなミーティングの場で、僕は早速切り出すことにした。


「来月辺りから、アルトヒルンに狩場を移したいと思う」


 ざわ、と少し四人が驚く。


「アルトヒルン、といえば、あの山ですよね」

「そう。ざっと調べてみたが、アルトヒルンは頂上に行けば行くほど瘴気が濃いらしい。中腹からオーガとか中級上位クラスが出てくる。……そろそろ、手頃な感じの相手だ」


 山頂付近ともなると、上級まで出てくる。


「あの山に強い魔物が住み着いている事は知ってたけど、冒険者は行っちゃ駄目なんじゃなかったか? 間引きなら、定期的に領軍がやってるし」


 魔物は、基本的には瘴気のあるところからあまり離れない。特に強い魔物ほど、濃い瘴気の中にいないと段々と弱っていく。

 しかし、増え過ぎると、外に出る魔物も増える。当然、街道に魔物が現れたりしたら危険すぎるので、冒険者の魔物退治は瘴気汚染地域の間引きという意味合いも強い。


 実は、僕たちが魔物がドロップする品を納品したときの報酬には、そういった間引きの報奨も少しだけ含まれていたりする。


「ジェンドの言う通り、基本的には禁止だけど、ちゃんと領主様の許可を取れば入れるぞ」

「そうなのか?」

「神官さんに聞いてみたけど、今フローティアで二パーティ程許可をもらってるらしい」


 少なすぎるが、どうも、フローティアっ子はあの山に入っちゃいけない、と昔からきつく躾けられるそうで。そもそも、あまり近付きたがらないのだそうだ。


「許可もらうには、領主様と面接して認められないといけないけどな。勿論、教会から能力や人格、実績の調査票みたいなのを提出する必要もある」

「ヘンリーさんヘンリーさん。領主様の許可であれば、不肖このシリルさんがお願いして取ってきましょうか」

「阿呆」


 ぺち、と隣に座るシリルにデコピンをかます。


「う~、なんでですか」

「こういうのは筋を通すもんなんだよ。シリルのコネでゴリ押しなんてしようとしてみろ。そういう、不誠実な冒険者って思われるぞ」

「な、なるほど……失礼しました」


 シリルは、ちゃんと説明してやれば納得する。深く考えないで発言したのだろうが、素直に頷いた。


 まあ、こういうのってケースバイケースではあるんだけどな。ちょっと悪どい貴族であれば、とっとと袖の下渡したほうが早かったりするし。

 しかし、ちょろっと調べたところ、フローティア伯爵家現当主、アルベール・フローティア様は公明正大な人物だそうで、んな真似は逆効果だ。


「ヘンリーさんの言う通りです。シリルさん、ちょっとは考えてください」

「うう……ティオちゃんが冷たい。フェリスさーん」

「はあ、よしよし」


 ティオに叱咤されたシリルは、フェリスに泣きつき、なんか頭撫でられてる。

 ……仲良いね、うちの女性陣。


「で、どうだ? 僕としては、グリフォンはそろそろマンネリだし、戦い方が固まるのも良くないから、お前らが上目指すんだったら行くべきだと思うが」

「勿論、行きますよー!」


 おー、とシリルが腕を振り上げ同意を示す。

 他の面子も、異論はないようだった。


「さて、それじゃあ教会に申請して。その後、領主様にアポイントメントを取らないとな」

「そのくらいだったら、私を通してもいいですよね?」

「うん、その方が話は早いかな」


 流石に、このくらいで目くじらを立てられることはなかろう。


「でも、領主様ともなれば忙しいんじゃないかい? いつお時間を取っていただけそうかな、シリル」

「えーと、そうですね。この時期は、秋の花祭りの準備とか、収穫の計画とか、観光客のトラブルとかで忙しそうですけど。そうですねー、多分、二週間以内くらいには?」


 土地持ちの貴族ともなると悠々自適というイメージもあるが、すごく忙しそうですね……


「まあ、教会の手続きをやって、大人しく待つか」


 しかし、首尾よく許可とれるかねえ。ま、なるようになるか。
















「夕方で良ければ、今日時間取ってくださるそうですよ」

「早っ!?」


 アルトヒルン攻略の相談をした翌日。

 朝っぱらからシリルが熊の酒樽亭に来て、そう伝えてきた。


「……どうしてこんなに早いんだ? たまたま予定が空いてたのか?」

「いえ、本当は花祭りの会合があったそうです。でも、伯爵家内の打ち合わせなので、日をズラしてくれたそうですよ」


 毎年秋に実施するという、フローティア花祭り。確かに少し先の行事だが、まさか先に入っていた打ち合わせをキャンセルしてまで面接してくれるとは。

 ありがたいことはありがたいのだが、なにか裏があるのかと勘ぐってしまう。


「シリルがゴリ押しとか……」

「してるわけないじゃないですか。昨日言われたばかりですし」

「だよなあ。なんでだろ」


 シリルは可愛がられているそうだし、それで優先してくれたのかな。あるいは、一言却下する、と伝えるだけだからすぐ終わる見込みだとか。

 ……あるいは、まあ。いくつか思い当たるフシがないでもないが。


 冒険者は魔物退治とクエストだけやってればいい、と思われがちだが、ある程度上になってくると、貴族様との付き合いが発生することもある。

 僕も、リーガレオ視察のためにやって来たとある伯爵家の子息の護衛なんかやったことがあるし。


 そういった経験から、まあいくつか、伯爵様が気にしそうなものに当たりは付く。


「まあ、了解した。わざわざ時間を取ってくださったんだ、勿論、今日伺うよ。伝えといてくれ」

「わっかりましたー」


 びし、とシリルが了解のポーズを取る。


「今日、他のみんなの都合は」

「多分、大丈夫のはずです」

「あー、じゃ、僕はティオに伝えてくる。ジェンドとフェリスは頼んだ」


 ティオんちはちょっと方向違うからな。


「はい! ええと、教会前に十五時頃集合でいいですかね? それから一緒に行くって感じで」

「ああ、それで頼む。……お前は家で待っててもいいぞ?」

「いえいえ、ご案内しますよ」


 領主館なら街の中心だから、案内されなくても別に良いんだけどなあ。あ、でも、門番さんとかへの手続きは省略できるか。


「……はあ、一張羅出さないとな」

「おお、ヘンリーさんのお洒落着ですか。どんなのです?」

「別に大したもんじゃないよ。冒険者なら、フォーマルな場所でも多少ラフな格好で許されるしな」


 それでも、多少はきっちりした衣装だ。滅多に使わないが、今回みたいなことがあった場合のため、一着だけ仕立てている。


 他の連中は……ジェンドは、商家の家の人間だから当然持ってるだろう。フェリスは、なんかこの前ジェンドにいい服プレゼントしてもらったらしいし、オッケー。ティオは子供だし、とやかくは言われないはずだ。


「はい、それじゃあ、十五時に。おめかししたヘンリーさんを楽しみにしています」

「……するなよ。ホント大したことないんだから」


 やれやれ、女は好きだね、こういうの。
















 そうして、約束の時間。

 きっちり時間通りに全員が集まった。


「ヘンリーさん、一張羅って言ってましたけど、なんか普段とあんまり変わらなくないです?」

「布地とかは少し高級なんだぞ」


 いや、冒険のときに着ている服は、魔獣の毛とかエルダートレントの糸とかを撚り合わせた複合素材で作ってるから、お値段的にはあっちのほうがよっぽど高いのだが。


「まあ、失礼のない格好なら大丈夫だろ。俺も昔から何度も会ってるけど、アルベール様は気さくなお方だから」

「そうそう、領主様ですけど、偉ぶったところもありませんし」


 ……ジェンドとシリルの言うことを、額面通りに受け取っても良いものかどうか。

 そりゃ子供の頃から知っている相手には、対応が柔らかくなるだろう。でも、この二人以外はそうではない。


 ここで心配していても、仕方のないことではあるが。


「さっさと向かいましょう。時間に余裕はありますけど、のんびりしてて遅刻したりしたら恥ずかしいです」

「ティオの言うとおりだ。話なら、道すがらすればいいだろう」


 フェリスの言葉に、僕たちは歩き始める。


 とは言っても、迷うことはない。町の中央にある尖塔を目指せば良いのだから。


「……しかし、なんで役所があんな塔なんだ?」


 遠目からも目立つフローティアの白亜の尖塔はお役所である。フローティア執政塔と言って、割と有名だ。綺麗は綺麗なのだが、上下の移動とかメンテナンスとか大変そうである。

 ちなみに、日中であれば中の観覧は可能。てっぺんから見える景色は絶景だそうだ。行ったことないけど。


「なんでも、二代前のご領主様が、趣味にあかせて設計したとか」

「……趣味なんだ」


 三代前の領主様が、うちの故郷の昔の王様と冒険者やっていたという話といい、フローティア伯爵家って意外と変わり者が多いのかも知れない。


 ともあれ、その執政塔に向かって歩いていく。

 中央付近はお店とかも多く、フローティアでも最も栄えている区域だ。人通りも多く、やや進むのに難儀する。


 そうして、やがて執政塔のすぐ側に到着。

 その隣に建つのが、ご領主様のお住まいである、領主館。


 四階建ての立派なお屋敷。庭も丁寧に手入れされている。


 そして当然、不埒者を通さないよう、正門前には完全武装の兵士が二人、直立不動で立っていた。

 本来であれば僕たちみたいな冒険者は厳しく誰何され、身分証を示し用件を伝え、然るべき手続きをしなければ立ち入ることは出来ない。出来ない、のだが、


「ただいま帰りました! ベアルさん、ジオさん、お疲れさまです!」

「ああ、おかえり。シリル、そっちの人たちが仲間か? ジェンドは知ってるけど」

「はい、私の冒険者仲間です。ヘンリーさん、フェリスさん、ティオちゃんです」


 なんとまあフランクな感じでシリルが門番さんに挨拶する。……まあ、普段から出入りしてんだもんな。


「了解だ。お話も聞いている。通っていいよ」

「はい! お仕事頑張ってください」

「はは、ありがとう」


 と、するっと通された。


 ……うん、ありがたいんだけど、緊張感薄れるな。


「ご領主様から、一階の応接室で待つよう伝えられていますので。ささ、早く行きましょう」

「わかったわかった」


 さーて、面接、という話だが、どんな話し合いになるのかね。

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