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第四十三話 次へ

「ォォオオラァッ!」


 ジェンドが、得意の大剣をフルスウィングする。

 炎を纏った刃の一閃がグリフォンの一匹を捉え、傷口から炎上させた。


 ジェンドの攻撃範囲には三匹いたが、残り二匹はかろうじて躱して上空へ逃れている。


「甘い……です!」


 そこへ、背後にいるティオが矢を射かけた。

 彼女の持つ神器、ソウルシューターは弦を引くだけで矢が装填される。連射能力では、もう普通の弓使いでは到底敵わない。


 一匹は、胴体に矢が三本直撃して死亡。残り一匹も、片翼を二本の矢で貫かれて墜落した。

 僕は丁度いい位置にいたので、墜落した一匹にトドメを刺す。


「後ろは平気か!?」

「こっちは大丈夫!」


 数匹のグリフォンがシリル達後衛に向かっていたが、フェリスの力強い返事にそちらは任せることにした。


 ちらりと後ろを窺ってみると、グリフォン二匹の攻撃をフェリスは危なげなく盾で受け止め、手に持つ剣で的確に反撃。側にいるティオもマチェット片手に手伝って、苦もなく倒していた。


 そうして、フェリスとティオに守られ、朗々と歌い上げていたシリルの魔法が完成する。


「『ソードトルネード』!」


 渦巻く風が上空に巻き起こる。

 空から僕らを狙っていたグリフォンが都合十数匹、その風に巻き込まれ、風の刃でズタズタに引き裂かれた。


 ……相変わらず、やべー威力と範囲だ。


 ボトボトと、グリフォンが次々と落ちてくる。ジェンドと二人、息がある数匹を仕留め、一つ息をつく。


 見える範囲にいたグリフォンは、これで全部倒した。

 しばらく警戒しても、追加は来ない。


 ……今のは、僕あんまやることなかったな。


「お疲れ! ドロップ集めて、少し休憩にしよう」


 声を掛けると、グリフォンが残した爪やら羽やらを集めて、全員が集まった。


 ティオの鞄にドロップ品を詰め、グリフォンの群生地である山から下山する。


「ふぅ……ちょっと疲れましたね」

「ああ。朝一でここまで来て、殆ど休憩もせずに狩りだからなあ。まあ、俺は平気だけど、シリルはよく持つな」

「ふふん、ジェンド? 私を昔の私だとは思わないでください。日々の訓練の成果というやつですよ」


 シリルが胸を張ってジェンドに自慢する。

 まあ、多少得意がるのも無理はない。体力は驚くほどに付いたし、単なる移動であれば瞬発のブーツで僕たちに付いてこれるようになった。その成長には、僕も結構驚いている。


「ティオ、君は大丈夫かい? いくら強くてもまだ子供なんだし」

「お気遣いありがとうございます、フェリスさん。でも、私なら平気です」


 まあ、ティオはまだ身体が出来上がっていないから、純粋な体力だとシリルに続いて下から二番目だ。だけど、森や山歩きは叢雲流の訓練で随分経験を積んでいるらしい。しかも、十歳くらいの頃から猪とか狩ってたそうだから、実は僕の次に実戦経験豊富。そのおかげで、疲れた様子は見せていない。


 山を下り、森の少し開けた所に陣取って休憩する。


 焚き火を熾して湯を沸かし、疲労が取れると評判のハーブティを淹れた。僕が個人的に買ったものだが、みんなに振る舞う。


「はあ~、美味い。ちょっと癖あるけど、僕このお茶好きなんだよ」

「私は苦すぎてちょっと……ティオちゃん、お砂糖くれる?」

「はい、ちょっと待ってください」


 シリルが頼むと、ティオは鞄をごそごそして、砂糖の入った瓶を取り出した。


 神器であるティオの鞄には、パーティの共有財産で買った諸々をとりあえず詰めている。ロープやポーション、布に、食器に鍋釜。んで、調味料なんかも腐ったりしないやつは買っている。

 ……解散したりすることになったら精算が大変だが、まあその時はいっそ僕が全部買い取っても良い。


「私もいただけるかな」

「はい」

「ジェンド、君は?」

「あー、俺は良いや。俺も別に嫌いな味じゃない」


 お、ジェンドは飲めるのか。このハーブティ、そのまま美味しく飲める奴は少ないんだけどな。どっちかっつーと、薬湯として飲まれるもんだし。


「しかし、街中の日中は最近かなり暑いけれども、森の方はだいぶ涼しいね」


 フェリスがふと話題を出した。


 ああ、言われてみれば、確かに。夏の暑さに熱い茶は、流石にきついかと思っていたが、普通に飲めているし。


「なんだったら、うちに涼みに来いよ。部屋冷やす魔導具があるぞ」

「……冷房ですか。あれ高いのに。ジェンドの家は相変わらずお金持ちですねえ」


 シリルがツッコむ。まあ、確かに一般家庭がお気軽に……という魔導具ではない。高級宿ならともかく、熊の酒樽亭のような普通のお宿だと設置していない。


「領主館に住んでるお前が言うか」

「リビングとか、ご領主様のお部屋にはありますけど、私の部屋にはありませんよ」

「……叢雲流は、そういう生活用の魔導も揃っているので。うちは自前で冷やしてます」

「えっ、羨ましい」


 そういや一緒のパーティ組んでた頃、アゲハのやつも使ってたな。

 そして、そんな便利なものは持っていない僕は、普通に寝ているのだが、


「僕も、最近夜はちょっと寝苦しいって思うことが増えてきたなあ」

「ですよねー。朝起きたら汗びっちょりで。私も、冷房買おうかなあ」


 シリルがボヤく。


「ああ、確かに。高いっつっても、最近の俺らの稼ぎからすれば、無理しなくても買えるな」

「でも、新しいローブ用の目標額から遠のいちゃうんですよね」

「大変だな、シリルは」

「……これだから、新しい防具を宝物庫で当てた人は。一生アンコモン以上が出なくなる呪いをかけてあげます」

「やめろ! お前のその呪い、なんか本当に効く気がするから! ブレイズブレイド当ててからしばらくコモンばっかだったんだぞ!」


 ジェンドはジェンドで、新しい鎧を買うために貯金していたのだが、ついこの間『ウインドメイル』というアンコモンの防具をゲットした。

 名前の通り、風を吹き出す鎧。結構な強風で、多少の火とかなら吹き飛ばせる。まあそれはオマケ程度で、単純な防具として見て、かなりの出来のものだった。


 ……神器って、能力を別にした単純な質も、滅茶苦茶当たり外れが大きいのである。当たり能力の武具が低品質ってのは聞いたことないが、能力がショボくても単純な道具としてすごく優れている、ってことは稀にある。


「はは……すまないな、シリル」

「ああ、いえ。フェリスさんは別に。鎧はどっちにしろ必要だったじゃないですか」


 剣と盾しか持っていなかったフェリスも、『誓いの鎧』とやらを当てていた。

 スタミナの向上という、地味ながらも有用な能力で、そもそも鎧の類を持っていなかったフェリスにとっては鎧と言うだけで大当りである。


「私はこの間マチェットと革鎧を新調したので、次はいい魔導具が欲しいです」

「……ティオちゃんはティオちゃんで、最近はいい神器は出なかったけど、換金しやすい道具がザクザクでしたね」


 消耗品とか、貴金属とかね。武具と違って、そういうのは引いた人以外使えないってわけじゃないし、本人が死んだ後天に還るわけでもないので、普通に売れる。


「運が悪いのは、私とヘンリーさんだけですか」

「ま、まあ待て、シリル。確かに僕は、ここ最近いいのを引けてない。でも、こういう運は総合的に見ないと。ほら、如意天槍はレジェンドってほどじゃないけど、かなりの当たりなんだぞ」

「あーあー、私もいい神器欲しいなあ」


 無視かよ。


 ……いや、うん。僕も自分の運は普通かやや良い方だと思ってたけど、ティオとか見てると羨ましくなるのはわかる。


 天の宝物庫から下賜される武具のことは、冒険者の間では鉄板の話題である。その後も大いに盛り上がった。


「ああ、そろそろ休憩はいいか。グリフォン、今日中にもう五十程狩るぞ」

「アゲハさんと一緒の時は、一回でしたねー」


 いや、あれはアゲハの魔物の集め方が上手すぎるだけ。


 しかし、さて。

 さっきの神器の話をしていて気付いたが、もうすぐみんなの装備、次の段階のものが整ってしまう。


 次のことをそろそろ考えておかないとな。一応、リーダーとして。
















 グランディス教会の資料室。

 フローティア周辺の地図と魔物の分布が載った資料をめくりながら、僕はグリフォンの次の相手を見繕っていた。


 この辺りで一番のメジャーな狩りどころはフローティアの森で間違いない。浅いところは駆け出しから一歩踏み出した程度の冒険者が挑むに最適。多少足を踏み入れれば、中堅どころが安全に狩るにはもってこいの狩場。

 そして中央の山はグリフォンが大量に。……ここ、グリフォン一種しかほぼ出ないので、倒し方を確立した冒険者であれば効率よく稼げる。


 有用な薬草の類も多く、総合すると非常に優秀な狩場である。普通に儲けたいのであれば、一生ここでいい。


 しかし、である。中級中位のグリフォンが最強の魔物となると、上を目指す冒険者にとっては『通過点』にしかなりえない。


 勿論、魔物の等級は絶対ではない。相性や属性、地形、数――等、いろんな要素でいくらでも自分にとっての戦いやすさは変わる。僕とか、中級中位のグリフォンより、下級上位のジャイアントスパイダーのほうが苦手だし。

 だが、教会側の評価の指標としてはこの等級が大きい。


 ……と、なると、英雄目指しているジェンドなんかのため、より上位の魔物を狙うべきなのだが、


「いないなあ」


 一通り資料に目を通して、ボヤく。


 フローティア近辺に、グリフォンより上級の魔物が生息する普通の狩場はない。これ以上を目指すとなると、拠点を変えるか、あるいは『許可を取る』必要がある。


 ……さぁて、悩ましいぞ、これは。


 うちのパーティは、僕がいなくても十分機能する。

 前衛、ジェンド。前衛兼回復役、フェリス。火力担当シリル。索敵、遊撃を担うティオ。


 狙ったわけではないが、かなりのバランスの良さだ。僕は一通りできるので、前衛寄りのポジションに立ちつつ、必要に応じて役割を変える、って動きをしている。それだけに、いないとパーティコンセプトが壊滅するというわけではない。


 大分鍛えた気がするし、気分良く送り出してやっても良いんだが、


「…………まあ、まだまだ、だな」


 別れることがまだ名残惜しい。それに、強くなっても冒険者歴はまだまだだ。戦闘以外で仕込んでやりたいことはたくさんある。


 と、すると。


「アルトヒルン、かな」


 フローティアの北にある霊峰。

 上方には万年雪が積もり、伝説によれば真竜の寝床があると言われる、フローティアでは例外的に強い魔物の生息する領域。

 ただし、フローティアの水源であることから、立ち入りのためには領主様の許可が必要となる。


 ……ひとまず、そこを次の狩場にできないか、明日のパーティ会議で相談することにしよう。

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[良い点] 先生なヘンリーさん。
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