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セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい  作者: 久櫛縁
第三章 フローティア・デイズ
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第四十話 救済の聖女のお話

「いやー、まいったまいった。まさか魔物倒しすぎて怒られるなんて思いもしなかった」


 アゲハと一緒にグリフォンをとりあえず千匹程狩った翌日。

 他の熟練冒険者の一人が、フローティアの山からグリフォンが消えた、異常事態だ! と報告に戻ってきたらしく。


 ……丁度、今日精算しに来た僕らは、教会の関係者の人にしこたま怒られた。


「ああ、そりゃ僕も失念してたよ……そっか、こっちじゃ倒しすぎると、他の人の食い扶持奪っちゃうことになるんだよなあ……」

「だから、俺はやりすぎだって言っただろ」

「悪い悪い。向こうじゃ、気持ちよく首刈ってるだけで怒られることなんてなかったからさあ」


 リーガレオだと、そもそも駆逐しきるのは無理だし、一時的に数減らせても次の日にはまた発生してるからなあ。浄化してもしてもキリがねえんだ、あの辺。

 前はそうでもなかったのだが、魔王が現れてからこっち、瘴気の密度がヤベェことになっている。街中に瘴気を発生させないだけで精一杯なのだ。


「つくづく、物騒なところなんですねえ」

「そうだぞ、シリル。だから、リーガレオ行きなんてやめるんなら今のうちだ」

「ぴゅーぴゅー」


 下手糞な口笛で誤魔化しやがった。


「なんだ、シリルはリーガレオ来るつもりあんのか? なら、アタシと組もう。アゲハ・シリル・アゲハ作戦で一儲けだ」

「……その作戦名はともかく、もしそちらに行ったときはよろしくお願いします」


 あー、シリルとの連携も、結構上手くハマったからなあ。こいつ、普段は使えない大規模魔法をここぞとばかりにブッパしまくりやがったのだ。

 最後に放った『ライトニングジャッジメント』とかいう名前の雷の魔法は、アゲハも完全には避けきれなく、手がビリっとしたらしい。


「アゲハ姉、私も行くつもりです」

「俺も」

「私もだ」

「おーおー、なんだったらお前らまとめて面倒見てやってもいいぞ。アタシも、クランとか立ててみたいしな」


 シリルに続く三人に、アゲハがほざくが、


「冒険者クランの設立条件はメンバー二十人以上だぞ。お前、そこまで人望あったっけ」


 仲が良いやつはたくさんいるが、こいつと仲間になりたいってやつは何人いるかなあ。


「ユーを引っ張り込めば、馬鹿な男がほいほい入ってくるだろ」

「うちのパーティを、馬鹿な男の巣窟に入れるんじゃない。大体、その馬鹿な男さんは何日生きていられるんだ」


 ユーに夜這いでもかけた日には、次の日に頭蓋骨陥没してっぞ。

 ……いや、あいつのことだ、頭蓋骨を陥没させはしても、殺しはしないか。


「ユー? って、誰です」

「ユースティティア。聞いたことない?」

「ああ、あの!」


 シリルが手を叩く。

 まあ、あいつの逸話は有名だし、知ってはいるだろう。


 三年前の魔軍の大攻勢。屈強な騎士や冒険者が次々と倒れる中、それを片っ端から癒やして戦線を維持してのけた、地母神ニンゲルの神官にして英雄冒険者。

 僕が知っている中で、一番の癒し手。フェリスも凄腕の治癒士だが、流石に現時点ではあいつには敵わないだろう。


「救済の聖女様、か。私達ニンゲルの教徒にとっては、まさしく英雄だな」

「……そうだね」


 ユーに憧れている様子のフェリスに、僕は曖昧に同意した。


 あいつの治癒魔導が戦線を維持したのは確かなのだが、治癒魔導以外にもモーニングスターぶん回したり相手を腐敗させる失敗治癒魔導使ったりして物理的にも戦線を維持していたことはあまり知られていない。

 つーかあいつ、仲間を治すより敵を倒すときの方が楽しそうだった。あの時、あいつの護衛役として同行していた僕が言うのだから間違いない。


 救済の聖女という二つ名を初めて聞いた時、僕は失笑しかできなかった。


「アゲハ姉、なんで救済の聖女って人がいたら、たくさん仲間が入るんですか?」

「ティオはまだ男の事はわっかんねーと思うけど、あいつ、美人だからさあ。入れ食いよ」


 ……そうだね。遺憾なことに。


「正体知らない新人くらいだけどな、騙されんの」


 あれの本性を知ってなお近付くような勇者はいない。


「いや? もしかしてワンチャンあるんじゃないかって、狙ってる奴、今は結構いるぞ」

「? そうなのか。なんで今更……あいつもそろそろ落ち着きってやつを身に着けたのか?」


 普段の擬態ではない、ちゃんとした落ち着きを。


「いやいや、そりゃヘンリー。お前がいなくなったからじゃん」

「……あー、一応僕が防波堤ってことになってたのか。そういや、若い男冒険者であいつと仲良いの、僕と引退した昔の仲間くらいだっけ」


 騎士団の奴とかとは割と仲良くしてたが。


「ヘンリー、お前英雄の知り合い多すぎないか」

「前線で十年もやってりゃ、そりゃ仲良くなるやつもいるよ」


 ジェンドの言葉に、嘆息して答える。


「シャルたんとも知り合いだそうだぞ」

「へえ、そうなのか。……ん? フェリス、今なんて?」


 まあまあコネはある方だと自分でも思うが、エッゼさんとアゲハなんかは顔広いから、少しリーガレオで戦ってればすぐ知り合い程度にはなれる。

 大体、僕も八英雄のうち三人くらいは、挨拶したことあるなー、って程度の距離感だし。


「あ、そうだ。忘れるとこだった。ヘンリー、そのユーから伝言。『そのうち遊びに行きますから』だってさ」

「……あいつ、前線から離れられんの?」

「無理じゃね?」


 だよね。


 最前線の冒険者の死亡率が、実は普通の土地より若干悪い程度、で収まっているのは、割とユーの功績が大きい。

 とりあえず、息をして街に帰れれば、治してもらえるからな。


 ユーは普通の冒険者をもっとやりたいそうだが、その関係で街待機を教会から命じられる事が多かった。

 ……まあ、あいつの性格からして、それをほっぽりだして遊びに来ることは出来ないだろう。


「ま、僕もあいつには世話になったし。頑張れよ、とでも伝えてやってくれ。帰りに土産も渡すから」

「はいよ。あいつも喜ぶだろ」


 うーん、あいつも例に漏れず甘い物好きだし、日持ちする菓子でも贈ってやるか。前、ラナちゃんが大学に持参したフローティアクッキーなんか良さそうだ。


「なんか、ヘンリーさん、本当に親しそうですね。そのユーさんって人と」

「付き合い長いんだよ。一緒のパーティだった時期が一番長い相手だし」


 分かれることもあったが、通算五、六年くらいは一緒だったか?


「あれ? ヘンリーの元カノなんじゃなかったっけ?」

「あんなん、子供のままごとに付き合ってやっただけだっつーの」


 アゲハの言葉に、僕は反論する。


 僕も十二から冒険者やってたが、二つ下でアゲハと同い年のユーも、実は十二歳からリーガレオに来ていた。

 で、やつの取った宿がたまたま僕と同じで、隣同士で。


 ……最前線では貴重な近い世代の人間ということで、仲良くなったのだ。

 まあ、偶然というか、年の近しい相手がいた方が良かろうと、ユーの存在に気付いたエッゼさんが僕のいる宿に押し込んだんだが。


 で、当時十二歳の女の子。僕も十四でまだ成人していなかったとは言え、二年の経験でなんとかかんとか周りの冒険者や兵士の足手まといにならない程度には動けるようになっていた。

 そんな状況で、ユーが僕を頼りにするのは、そう不自然な話でもないだろう。


 それで、あいつが冒険者になって割とすぐ、少しそういう関係だった時期がある。僕も自分が強くなるのに忙しかったが、流石に年下の子供が不安そうにしているのを放置するほど、元騎士としての矜持を忘れていたわけではない。


 まあ、ユーが子供だったし、せいぜい滅多にない休日に一緒に散歩をする程度。ナニどころか、キスもしないうちに別れた……というか、自然解消したが。


「!? まさかヘンリーさんにそんな相手が!」

「おい、ヘンリー。お前、リーガレオじゃ女に縁がなかったとか言ってなかったか」

「あのな……ガキンチョの頃、頼りになる奴がいなさそうだったから、半年くらい付き合ってやってただけだよ。こんなんでぎゃいぎゃい言われたくないぞ」


 まあ、ユーも美人に育ったし、あのまま続いていりゃ……って、惜しいことをしたと思わないでも……思わ……思……思わないな、うん。


「そうだったのか。そいつはアタシも知らなかった。そっかー、あのユーにそんな時期が」

「僕も、なにがどうなってああ育ったのか、よくわからん」


 大人しい子だったのになあ。

 治癒魔導の天才児として、傷付いている人を救わねば、と単身リーガレオにやってきた無謀なところは、今と大して変わらないが。


「よし、帰ったらこの件でユーをからかってやろう」

「……好きにすればいいけど、頑張って逃げろよ」


 多分、モーニングスター片手に滅茶苦茶追いかけてくるぞ。


「大丈夫、ユーじゃアタシにゃ追いつけないさ」

「そうか」


 ネチネチしつっこいぞ、ユーは。仕返しを決意したら、何ヶ月も覚えていて隙を突いてくる。


「……ヘンリーさん」

「ん? どうした、ティオ」


 じー、とこちらを見てくるティオ。なんだなんだ?


「ちなみに、アゲハ姉とそういう関係だったことは……?」

「あるわけねえだろ!」


 いや、流石に勘弁してください! 魔物が跋扈する戦場……しかも平地に三日も潜伏して、指揮官の首を狙う女傑の相手とか、ホント無理だから!


「しっつれいなやつー」


 面白くなさそうにアゲハが口を尖らせる。

 その鬱憤を晴らすように、アゲハは手を上げ店員を呼び、極厚ステーキとポテト、そしてワインのボトルを注文した。


「なんか話が逸れたけど、ともあれグリフォンの件で大儲けはしたんだ。今日もぱーっとやろう」

「一昨日にお前が来た時、どんちゃん騒ぎしたばっかだろ……」


 あ、アゲハのやつ聞いてねえ。早速運ばれてきたワイン瓶を手刀で切って開栓してやがる。……開栓?


「まあいいじゃないか。ほれ注いでやるから」

「……はいよ」


 ワイングラスを掲げ、アゲハの酌を受ける。

 メンバー全員にワインを注いで、アゲハはグラスを掲げた。


「じゃ、乾杯!」


 ……なお、またしてもアゲハの奴は酔い潰れ、近くの宿に放り込むことになったのだった。

八英雄、ヘンリーとの友好度一位の救済の聖女さん。


今回は、設定を吐き出したかっただけな感。

実際の登場はずっと先になりそう……

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― 新着の感想 ―
[一言] ほほう、自然消滅した(と本人は供述する)元カノにして重めの美人聖女。 修羅場の香りがぷんぷんするねえ!
[気になる点] 12歳で最前線。 小学生じゃん。 ファンタジーとはいえ、盛り過ぎかなぁといった印象。
[気になる点] もしかしたら、ユーさんがユーさんなとこが見られるのか。
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