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セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい  作者: 久櫛縁
第三章 フローティア・デイズ
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第三十七話 戦友、彼方より来たる

 今日も今日とて、僕たちは冒険に精を出してきた。

 フェリスとの連携も大分サマになってきたので、今はフローティアの森の最難関、グリフォンの群生地である山を攻略してきた。


 昨日から泊りがけでの冒険だったので、程よい疲労感が全身を包んでいる。


「いやー、しかし、がっぽがっぽでしたねえ。これは精算が楽しみです」

「そうだなあ」


 シリルが笑顔で言う。

 うん、フェリスを加えた我らパーティは、もうコソコソする必要もない。とにかくティオが見つけたグリフォンの多い場所に突貫し、当たるを幸い薙ぎ倒す。

 あんまり褒められた狩り方ではないが、なにせこれが一番効率が良いのである。


 それに、こういう臨機応変な対応が必要な戦い方も、経験しておいて損はない。最前線は、中級から上級の魔物がもう節操なく沸いて出てくる。地形によりある程度の傾向はあるが、その地形に合った魔物ならだいたい出てくる。


 そういう戦場のため、慣れた魔物を慣れた戦術で……なんてことを繰り返して実績を積んできたパーティは、最前線では中々活躍できない。


 ……最前線なんて行かず、ここでこうやってグリフォンぶっ殺しながら生活するというのであればそんなものは必要ないのだが。

 シリルの言う通り、中級中位の魔物とは言え、こなしている数からして大分稼ぎは良い。後はこれを延々と繰り返すのを僕としては推奨したいのだが……駄目だろうなあ。


 やーれやれ。


「夕焼けが綺麗だな」

「そうだなあ。俺も、ここからの眺めは好きだぜ」


 フェリスが言い、ジェンドも頷いている。


 フローティアの森は街からみて東にあるから、帰りが夕方になると、丁度夕焼けに向かって歩くことになる。

 確かに、今日の夕焼けは見事だった。


 街道を歩く五人の冒険者の影が長く伸び、どこか牧歌的な雰囲気だ。


 あー、落ち着く……やっぱ最前線とかどうでもいいじゃん。


 などと考えていると、地平線の向こうからやって来る小さな影が見えた。


 ――すう、と頭が冷える。


「……ティオ」

「はい。誰か来ます。すごい速さで、走ってます」


 尋常じゃない速度だ。ついさっきまで地平線のところにいたのに、もうそこから僕たちのところまで、三分の一の距離は詰めている。


 こんな速度で、この平和なフローティアの街道を走る理由……穏やかな状況は想像できない。

 っていうか、そもそもあんな速度で走り回ることができる人間がそうそう……というか、滅多にいるわけ、


 と、僕の頭に該当者の顔が一つ思い浮かぶのと、向こうからやって来る相手の顔が一致するのが同時だった。


「……あれ、アゲハ姉?」

「全員警戒しろ!」


 あの馬鹿アゲハ! なんっでリーガレオにいるはずのテメェがこんなトコにいるんだよ!


『ィィィィヤッホォオーーー!』


 もう百メートルくらいの所まで来ていたアゲハが懐から何かを取り出し、前方の地面に叩きつける。

 即座に舞い上がる煙。一瞬、アゲハの姿が煙に隠れ、


「――――ッ、!」


 すぐさま、僕は背後を振り向いた。

 つい一瞬前まで五十メートルは先にいたアゲハが、丁度空から着地するところだった。


 ……煙玉を叩きつけ、視界が隠れたところで大ジャンプ。魔導で空中に足場を作って蹴り、相手の背後へ数秒で強襲するという変態技だ。

 その名も、


「アゲハ・ネックスラッシュ!」

「甘ぇよ!」


 僕の首を狙って放たれたアゲハの手刀を防ぐ。

 この技は、基本奇襲用だ。手の内がバレている相手には通用しな……手の内がバレていて、反応できる相手には通用しない。……何気に、僕の知っている頃より射程が伸びているが。


「ハハッ! 良く防いだなヘンリー!」

「言いながら突っかかってくんな!」


 更に次々繰り出される手刀と蹴りを僕は防ぎ続ける。

 速度はアゲハの圧勝だが、膂力と体格ではこっちが上。首と目、あと金的だけは警戒して、要所要所で僕も掌底で反撃する。


「ふん!」


 瞬間、アゲハの身体が翻った。


 遠心力を生かした回し蹴りが、首に襲いかかる。

 ――どんだけ首に叩き込みたいんだよ!


 ええい、これを防げば、デカイ隙ができる。耐えれば僕の勝ち、見事防御を崩せばアゲハの勝ち。チッ、負けるか――!


「『ウインドボム』!」


 と、その瞬間、全く思いもよらぬ方向からの突風が巻き起こり、僕とアゲハは吹っ飛ばされた。

 ごろごろと転がり、土まみれになる。


 殺意が全然なかったから反応できなかった……


「いきなり喧嘩して、何事ですか! シリルさんの目の黒いうちは、そんなことさせませんよ!」


 ぷりぷり怒っているシリル。

 ……うん、悪い。リーガレオのノリ、持ち出しすぎた。
















「はい、まず自己紹介、お願いします」

「ああ。アゲハ・サギリ。二十歳だ! そこのティオの従姉で、そっちのヘンリーの元パーティ仲間。リーガレオって街で冒険者やってる。シクヨロ!」


 相変わらずの快活な笑顔で、アゲハが自己紹介をする。

 一つに束ねている髪の毛がしっぽみたいに揺れて、ゴキゲン気分を現している。すげー機嫌いいな、こいつ。


「はい、ありがとうございます。私はシリルといって、今ヘンリーさんとティオちゃんと一緒に冒険者やっています」

「おう! シリルだな。覚えた覚えた!」

「で、質問ですが、なんで急に喧嘩始めたんですか。ヘンリーさんもです!」


 と、僕も怒鳴られる。


 ……いきなり喧嘩始めた罪で、僕とアゲハは仲良く地べたに座らされていた。


「挨拶だよ挨拶」

「あんな挨拶がありますか!」

「いや、あの。シリル。アゲハの言ってることは本当。リーガレオの冒険者の間だと、久し振りに会った戦友には拳で挨拶するの、普通」


 改めて思うが、クッソバイオレンスな街だ。まあ、大抵は一発二発で、アゲハみたいにガチで裏技使ってまで奇襲してくるやつは珍しいが。……珍しいだけで、アゲハ一人というわけではない。


「ほ、本当ですか……?」

「嘘は言ってない。戦士系の冒険者しかやらんけど」

「怪我しないように配慮しつつ、全力でやるのが嗜みだゾ☆」


 アゲハがウィンクしながら言う。嫌な嗜みもあったもんである。……なんの違和感もなく反撃した僕が言うのも何だが。


「……っはあ~~~、どうぞ、立ってください。すみません、てっきり勘違いして、魔法なんか使って」

「こっちこそ悪い」


 謝る。というか、こんな蛮族の習慣を即座に理解できる方がおかしいのである。僕よ、文化人になるのだ。


「いや~、しかし、ヘンリーとティオがパーティ組んだっつーから見物に来たら、また面白いのが仲間にいるなあ」

「貴女ほど面白くはないつもりですが……」

「言うなー、はっはっは」


 アゲハが能天気に笑いながら、どうしたものかと手持ち無沙汰にしてたティオに近付く。


「よっ、ティオ。でかくなったな。今、十四だっけ?」

「……アゲハ姉が『アタシ、冒険者になる!』って言って出ていって、もう五年ですよ。そりゃ大きくもなります」

「そんなに経つかー」


 ぽむぽむ、とアゲハがティオの頭を叩き、ティオの方はそれを満更でもなさそうに受ける。


「五年……そんな気はしてたけど、お前最初っから最前線に来てたんだな。冒険者のキャリアをリーガレオから始めるとか、無謀か」

「十二歳からリーガレオで冒険者やってた男がなんだって?」


 ぐぬぬ。


 僕が言い返せずに唸っていると、ジェンドとフェリスが一歩前に出た。


「えーと、はじめまして。俺はジェンド。で、こっちが……」

「フェリスだ」

「おう、エッゼのオッサンから聞いてる。アタシはアゲハ。まー、よろしくな」


 と、アゲハはにこやかに挨拶する。

 ……物騒ではあるんだが、人好きはするやつなんだよな。矛盾している気がするが。


「それが、英雄冒険者のタグか……」

「ん? ああ、ジェンドだったか。興味あるのか?」

「まあ、俺も将来的には、そいつをもらえるくらい活躍したいからな」


 アゲハが首から下げている冒険者のタグは、僕らのとは違い、全体的に金色っぽい色をしている。

 希少金属オリハルコンを用いた、この世でたった八個しかないタグだ。エッゼさんは騎士が本職で、普段は身に付けていないから、ジェンドたちが見るのは初めてとなる。


「へっ、その意気だ。デカイ夢を見るやつは嫌いじゃない。フェリス、お前さん、きっちり支えてやんなよ!」

「え? あ、ああ、もちろんだ」


 ジェンドとの関係を見破られた様子に、フェリスは少し動揺する。

 ……うん、こいつ、言動はテキトーだけど、人を見る目はあるんだ。観察眼に優れていると言うか。叢雲流は元はリシュウの隠密の流派らしいし。


「……で、アゲハ。なにしに来たんだよ」

「いや、さっき言ったろ。お前とティオがパーティ組んだって聞いたから、そりゃおもしれぇと思って見に来た」

「そんだけのために、わざわざよく足伸ばしたな。旅費もかかっただろうに」


 リーガレオからここまで来ようと思ったら、南の四方都市サウスガイアから王都セントアリオへ、セントアリオからノーザンティアへと、二回転移門を使うのが普通だ。結構な金額である。


「いや、だから全部走ってきた」

「走……え?」

「金もったいないから、リーガレオからここまで走ってきた。四日くらいかな?」


 馬鹿かな?


「は、走ってって……ここからリーガレオまで、どれだけの距離があると」

「さあ?」


 引きつっているシリルの言葉に、アゲハは首をかしげる。


 ……並の人間の足じゃ一月かけても届かないとだけ言っておこう。僕もやろうと思えば六日くらいでいけるかも知れないが、やりたいとは思わない。


「っと、もう日が暮れるし、早く帰らないか? フローティアンエール、呑めるの楽しみにしてたんだよ」

「……勝手に呑んどけよ」

「折角戦友に従妹と久方ぶりの再会なんだ、一緒に呑みたいじゃないか」


 アゲハは、僕とティオの肩に手を回してくる。……っはあ。


「それで、わざわざ冒険帰りに迎えに来たのか」

「ああ。先にティオんちに寄って、今日夕方帰る予定って言われたから、ついでに」


 なんのついでだ。そのままティオの家で待っていたらよかったのに。つーか、ついでで正面から奇襲かけてきたのか馬鹿野郎。


「わーったわーった。僕が泊まってる宿、飯も酒も美味いから、いっちょ呑むか」

「おー、いーねいーね。お前らも来るよなー?」


 と、アゲハがシリル達も誘う。


 ……そうしてその夜。


 とある英雄を迎える宴が、熊の酒樽亭で開かれるのだった。

リーガレオの同年代の仲間と接する時は、ヘンリーも結構馬鹿やります

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― 新着の感想 ―
[良い点] 馬鹿かな?(褒め言葉 [一言] この前は射程20メートルって言ってたじゃないですかやだー!進化してるー!
[良い点] アゲハさん。もう、、何と言うかアゲハさん。
[一言] アゲハ結構めちゃくちゃだー でもいい人そう、ティオも懐いてるっぽいし
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