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セミリタイアした冒険者はのんびり暮らしたい  作者: 久櫛縁
第三章 フローティア・デイズ
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第三十三話 ガラの悪い冒険者のお話

 それは、グランディス教会の酒場で稼いだ金の精算をしていたときの話である。


「これで、等分、っと。ジェンド」

「ああ」


 フェリスが加入し、金については三割をパーティの共有資産、残りを等分という風に変わっていた。

 四人だった頃より、全体として稼ぐ金は増えたが、手元に来るお金は微減といったところ。


 だが、怪我をしても、ある程度であればその場で治してもらえるという安心感には替えられない。実際、誰も文句は言っていなかった。


「フェリス、シリル」

「ありがとう」

「わーい」

「んで、ティオも」


 金を全員に分配する。共有財産は、家がデカくて金庫もあるジェンドが管理だ。


「どうも」


 ティオが礼を言い、財布に報酬を収める。


 と、その辺りで、わざわざ僕らの耳に届くよう、少し離れた席で管を巻いている冒険者が声を上げた。


「おー、おー。あんな餓鬼に、律儀に金を分けてやって、まあ!」

「へっ、勇士サマは平等主義だこと! んな餓鬼にやる金があるんなら、俺らに一杯奢ってくれや!」

「案外、ああいう子供が趣味なんじゃねぇか? もう二人の女のうち、一人も子供みたいだしよォ!」


 下品な揶揄を、僕は黙殺する。あの程度の煽り、リーガレオの糞を煮込んだみたいなチンピラ共に比べれば全然マシだ。この程度で反応していては、向こうでは憤死する。


 フローティアは、あっちよりお行儀のいい冒険者が多いが、こういう奴もいないわけではない。


 こんなのは、自分で自分の首を絞める行為である。仲間内の軽い冗談や、ちょっとしたからかい程度ならともかく、グランディス教会のお膝元でこんなことを言っていては、教会からの信用度は勿論低下する。そうすると割の良いクエストが受けられなくなるという寸法だ。


「あいつら……」

「ジェンド、無視しろ。あんなくだらない連中、ほっときゃいい」


 そして、さり気なくジェンドより激昂しているシリルの肩を抑える。


「……ティオちゃん馬鹿にされて、私が大人しく引き下がるとでも? あと、誰が子供っぽいんですかね……!?」

「ええい、落ち着け。いくらなんでも、教会の中で魔法ぶっぱなすわけにゃいかないだろ」

「私の隣に、用心棒の先生が」

「どぉ~れ、ってリシュウの小説じゃねえんだから……」


 かっかしているシリルを宥める。


「ティオ、君も気にするなよ。冒険での君の貢献は明らかなんだし」

「……気になんてしませんよ。私も、自分の仕事はちゃんとやっているつもりですから」


 俯いていたティオをフェリスが慰める。慰める、というか、事実を言う。

 ……いや勿論鞄の存在も大きいが、偵察役というのは絶対に軽んじられるものではない。確かに、見た目からはこんな子供が本職の斥候顔負けの仕事をするとは想像出来ないだろうが……連中は、命がけの冒険に、役立たずを連れて行くとでも思っているのだろうか。


「はっ、なんも言い返してこねえぜ! 根性のない奴らだ」

「勇士ってのも、フカシなんじゃねえか? こんな街に来るような勇士がいるわけねえ!」

「ちげえねえ。ちょいと脅かしてやるか?」

「いいねえ!」


 ……あ、あいつら。

 口だけで済ませるなら、僕はもう慈愛の女神のごとく受け流して、うちの仲間も止めてやるつもりだったのに、席を立ちやがった。


 ジェンドとフェリスが少し腰を浮かし、シリルはすす、と椅子を移動させ、僕の背中に隠れる。

 んで、ティオは……うっわ。


「……僕が対応するから、お前らちょっと黙ってろ」


 あー、もう、やりたくない。やりたくない……が、ここで大人しく引き下がったら、威圧すればなんとでもなる奴ら、と認識され、後々もっと面倒になる。

 というか、多分僕が引き下がっても、みんなは引き下がらない。


 僕は立ち上がり、大股でこちらにやって来る三人組の男を迎えた。


「よォ、勇士さん、景気良さそうだなあ?」

「そっちの餓鬼にも、結構な金額渡してたみたいだけど、俺らに少し恵んじゃくれねえか?」

「なんだったら、そっちの役立たずの子供の代わりに、冒険手伝ってやっても良いんだぜ。どうよ」


 うだつの上がらない中年冒険者。名前は確かロッゾ、ドルドー、アクシム。厄介な後ろ盾とかはなし。素行が悪く、嫌われ者ではあるが、一応明らかな犯罪はしたことがない。

 今日のこれも、教会に訴えれば注意くらいはいくだろうが、逮捕とはいかない。


 ……と、つらつらと連中のプロフィールを思い浮かべる。


 同じ冒険者だ。もしかしたら臨時で組むこともあるかもしれない。そういったとき、地雷を踏まないよう、最低限の情報収集はしている。勿論、こういうことも見据えてだ。


 もし、こいつらがなんかのチームのメンバーだったりしたら、そっちも対応しないといけないから面倒くさかったが。とりあえず、この三人だけ対処すればいいのだから楽だった。


「お断りだ。さっさと帰って糞して寝ろ」

「はあ!? こっちが親切に言ってやってるのによ。なんだ、その態度」

「チンピラにはこれでも上等だよ。やんのか?」


 周囲が仲裁するべきかどうか悩んでいるようだ。ここはなあなあで済ませたらまた絡まれるので、さっさと済ませよう。


「はあ? 口だけの勇士が、俺ら相手に喧嘩売ってんの?」

「売ってるから買えよ。勿論、うちのパーティの面子に手伝いなんてさせねえから」

「……俺ら三人相手に、一人でか? てめぇ、調子コイてんじゃ……」


 魔力を練り上げ、身体強化を発揮する。やや過剰気味に、鈍いやつでもわかるように。


「で、やるのか、やらないのか、どっちだよ」

「……ちっ、覚えてろ」


 と、立ち去ろうとするロッゾの肩を掴む。確か、こいつが三人のリーダー格だ。


「な、なんだよ」

「覚えていたくないんで、忘れても良いよう、ちょっと付き合えよ」


 ……こうやって捨て台詞を吐いた後、寝込みなり風呂なりトイレなりで闇討ちしてくるような想像を絶する馬鹿もいるのである。どうしても臆病になってしまう。

 一応、最低限、自分たちが捕まらないように立ち回る程度の倫理観はある連中なのだが、釘は刺しておかないと。


「あ、少しかかるから、お前らは先帰ってていいぞー」


 シリル達に言って、僕はロッゾを引き摺る。


「やめっ……てめぇ、離せよ!」

「なに、お前らの席に連れてってやるだけだ。仕方ないから、一杯くらい奢ってやる。だから、話をしようぜ?」


 酒を酌み交わせば、僕らのことを『理解』してもらえるはずだ。話が決裂したら、拳骨で語ることになるが、多分大丈夫だろう。下手につついたらやべえ奴ら、と認識してもらえればなにより。


 なんて平和的な解決手段なんだ。ロッゾたちは僕に感謝するべきだろう。


 ……なんせティオのやつ、腰のマチェットに手ぇかけてたからな。あの辺の対応、アゲハそっくり。叢雲流の教育ってどうなってんの。
















 矢尻を抜いた矢が飛来してくるが、僕はそれを避ける。二射目を手持ちの棒で叩き落とし、三射目はこちらを惑わせるためのものなので無視。

 その頃には、ティオが間合いに入ってきていた。


 僕は、槍に見立てた木の棒を突き出す。それをティオは躱すが、僕は無理矢理棒で横薙ぎする。勢いもついてない無茶な槍の運用だが、身体の軽いティオはそれで吹き飛ぶ。


 ある程度、自分からも転がりながら、ティオは僕から距離を離し、飛び起きて弓を構え……る前に、僕が槍を突きつけ、試合終了。


「……ありがとう、ござい……ました」

「ああ。ありがとうございました」


 互いに礼。だが、ティオの方は疲労困憊といった様子で、そのまま座り込む。流石に体力的に厳しいか。最後のは、ちょっと動きが悪かったしな。


 ……ここはグランディス教会の訓練場。

 昨日の今日で、僕はティオに訓練に誘われていた。


 結果、十五戦十五勝。いくらティオが才能豊かとは言え、流石にまだまだ負けられはしない。……二、三度、ヒヤッとする場面はあったが。


「ほら、水持ってきてやったぞ」

「ああ、ありがとうございます……」


 だだっ広い広場に、木人などのターゲットが置いてあるだけの、簡単な作りだが、訓練場なので給水所は用意されている。

 木製の簡素なコップいっぱいの水を、ティオはごくごくと飲む。


「ふう……すみません、ヘンリーさん。付き合わせてしまって」

「いやー、いいよ。僕も素早い相手との模擬戦はタメになるし」


 ジェンドはどっちかっつーと速さより力だから、勝手の違う相手と対戦できて助かる。なお、フェリスは二人の中間である。


「しかし、やっぱアゲハとは違うな。同じ流派なのに」

「アゲハ姉は……その、自分の使いやすいように、勝手に型を変えているので」


 だろうね。

 あいつの、あの執拗に首ばっかり狙う技が、まさかデフォルトではないだろう。


 よくよく観察すると、似ているところもあるにはあるのだが、もはや別物と言っても良いくらいに違う。


「しかし、どうしたよ。急に模擬戦の相手だなんて」

「……昨日、ちょっと揉めたじゃないですか。子供扱いは、されたくないので」


 ちら、とティオは教会の建物の方を見る。

 酒場のある側の窓から訓練場の様子は見れるようになっており、何人かの冒険者が、酒の肴に僕たちの模擬戦を見ていた。


「舐められっぱなしは、趣味じゃないです」

「……ああ」


 十五戦。

 僕が勝ったとはいえ、ティオの素早い動きや弓の正確さ、真正面からなのに奇襲じみた変則的な剣術は、大いに目を引いただろう。


 昼間でも、それなりの人数が酒場にいる。彼らが話の種にし、それが広まり、


「……ま、お前の戦いっぷりを見て、侮るやつはそうそう出ないだろうな」

「はい」


 黒竜騎士団の騎士相手に、一勝を拾った程の腕前だ。冒険者は戦いを生業とするだけに、実力はシビアに見る。こうして公になって、それでもティオを子供扱いすることはないはずだ。


「勿論、奥義は見せてはいませんが」


 奥義……


「……アゲハ・ネックスラッシュじゃないよな」

「アゲハ姉と一緒にしないでください」


 良かった。二十メートル以上離れた場所から、一瞬で背後に回って首を飛ばす技を伝授された従妹はいなかった。



 そうしてしばらく休憩をして。

 僕とティオは、連れ立って帰った。

主人公、ちょっとイキるの巻。


アニメ化した人気作の一部で、なんとか太郎とか揶揄されている人もいますが、それだけ人気があるから話題になるんでしょうね。私の主人公もセミリ太郎とか呼ばれたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奥義「ティオ・タマキンクラッシュ」 うん
[一言] セミリ太郎なら良い方で、セミ太郎とか呼ばれるんじゃ無いかなあ
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