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第二百九十二話 総力戦の前段階

 魔将が、三人もやってくる。


 はっきり言って、絶望的な情報だ。

 エッゼさんやセシルさん、リオルさんのような一騎当千の強者でも、連中が生み出し率いる魔物をすべて防ぐことは物理的にできない。


 魔国領域奥深くにあるリースヴィントの生命線は、五十基ある転移門。

 ……魔物にこれらが破壊されれば、こっちに来たみんなは孤立し、ほぼ全滅となってしまうだろう。ここからリーガレオに転移門抜きで帰還するには、よほどの実力と運が必要だ。


 今こちらに来ているのは実力者ばかり。そのくらいはすぐに想像がついたのか、セシルさんの通信をリオルさんが全体に伝えた時は流石に動揺が走っていたが……今はむしろ士気が上がっている。


 転移の光が漏れるたび、そちらにかすかにみんなが意識を向けているのが、城のベランダからだとよくわかった。


「よい、しょっと!」


 僕も気にはなるが、一先ず今は役目に集中。

 やや押され気味の南西方向へ槍を投げ……その次の、転移門が開く瞬間だった。


「ィィィヤッホォォォーーー! みんなー、元気ー!?」


 そんな、リースヴィント全部に届くほどの大きな声とともに、転移の光の中から現れたのは、


「ちょーっとピンチだって聞いて、急いでやって来たロッテさんだ! さぁさ、流石に今回はアイドルは休業! 私の歌を聞いて、みんな頑張れーー!!」


 ……今回の作戦のために戦力が低下するリーガレオに応援に来ていた、歌って踊れるアイドル英雄、シャルロッテ・ファインさんである。


 おおお――! と、手すきの人間たちが声を上げる。


 これが、みんなの士気が上がった理由。

 魔将のことを伝えた後、リオルさんは即座にロッテさんがこちらに来れるよう手配する、と明言したのだ。


 人気も勿論だが……ロッテさんの魔法、『虹色の戦歌』があれば、ここに集まった連中の戦力が跳ね上がる。

 一騎当千が数人では防げなくとも、一騎当百が百人以上もいれば、防衛にも希望の芽が見える。ついでにエッゼさんたちも鬼強化されるし。


 ロッテさんの魔法は声の届く範囲であれば人数関係ないので、まだ数が揃っていないこっちに来るのは少しもったいなくもあるが、四の五の言っている場合ではない。


 愛嬌を振りまきながら、ロッテさんが歌い始める。前線にも当然歌声は届いており、あからさまに戦況がこっちにひっくり返るのが見えた。


「おおお、流石はロッテさんですね~♪」

「ああ」


 魔法のための歌を止められないのか、なんかメロディ取りながらシリルが感嘆する。


「……ま、僕は仲間外れだけど」


 僕は今ユーの強化を受けており、これ以上力をもらったら体がパァンッ! って弾けかねないので、虹色の戦歌の影響の外になっている。


 ポーションとかと違い、ロッテさんの魔法はこの辺りふわっといい感じにしてくれる、らしい。

 ……いや、僕もよくわかってないが、以前ロッテさんに聞いたところこんな答えが帰ってきたのだ。テキトー過ぎんでしょうと言ったらゲンコくらった。


 と、ふとロッテさんが城のベランダで槍投げたり歌ったりしてる僕たちに気付く。

 ひらひら、とシリルに向けて軽く手を振り……僕に向けて――いや、動きは見えなかったが向けたんだろう――拳を軽く……軽く? 突き出す。


 いつもの悪戯だ。拳によって巻き起こった風が、僕の全身を軽く打つ。


 見ると、ロッテさんは僕に向けてチャーミングにウインクしていた。……頑張んなよ、とか、まあそんなメッセージだろう。

 返礼として、如意天槍を掲げ、略式の礼を送る。


 ロッテさんは笑って、前線に向けて駆け出し……速い速い速い!? あれ、なんでこの距離で見失ったんだ!? あ、もう魔物殴り始めてる!


 ……ええー。


 あまりの早業に感心するというか呆れるというか。そんな風に思っていると、上空で魔導の矢を撃ちまくっていたリオルさんがこっちに取って返してくる。


 休憩か、と思っていると、なぜか僕たちのいるベランダにまでリオルさんはやって来た。


「ヘンリー。シリルさんと一緒に下に来い。魔将対策の作戦会議だ」
















 リースヴィントに設置された臨時の指揮所のテーブルにつく。

 他に席についているのはリオルさんにアゲハ、それとユーのやつだ。


「と、いうわけで。ロッテの参戦で余裕ができたので、対魔将の決戦戦力の皆に集まってもらった」


 リオルさんがそう口火を切る。


「……あの、エッゼさんとロッテさんも参加するんですよね?」

「ああ。しかし、あれらは流石に前線から外せない。まあ、後で情報共有だけしておけば、あの二人なら適当に合わせるだろう」


 まあ、そりゃそうか。ロッテさんは歌のバフで言わずもがなだし、エッゼさんは現在、少しだけ突出する形でリースヴィントに向かっている魔物を間引いている。バッサバッサと景気よく数十メートルは伸ばしたルミナスブレードで斬りまくっていた。


 確かに、あの二人がいなくなると前線突破されかねないし、仕方ないか。


「……で、ユーも呼ばれてるってことは」

「お前を強化してもらう。治癒の方に専念してもらいたいところだが、魔将相手だと強いのが要るからな」

「ですよね」


 一定の強さのハードルを超えないと、基本瞬殺されるのが魔将である。中途半端な強さのやつを百人ぶつけるより、突出したやつを十人ぶつけるほうがいい、というわけだ。

 で、ユーの強化を受けた僕は『突出』している方に分類される。


 魔将とやりあえる冒険者は他にもいるが、普通の魔物の対処もあるのでこのメンバーということだろう。


「……ちなみに、冒険者だけですか? 三大国の騎士にも強い方はいらっしゃるはずですが」

「そちらは普通の魔物の対処の方に専念してもらう。……連携などを考慮すると、そっちの方がいい」


 まあ、騎士って国の面子を背負ってるので,他の国の騎士との連携訓練ってやんないもんな。

 戦い方や考え方が違いすぎる冒険者と足並みを合わせることもあまりない。……冒険者と普通に交流しているエッゼさんトコは、団長が英雄だからちょっと例外だ。


「それに、本当のトップ連中は、流石に今の状況ではこっちに来ていないしな」


 質問したユーは、『そうですか』と嘆息した。


 有名で強い騎士って立場もあるから、軽々に命がけの決戦を挑むことはできない、っつーわけだ。

 ……エッゼさん? だからあの人は例外です。


 まあ、なんやかんや。勢力としては三大国の一国一国よりは小さなグランディス教会が、一番魔将の討伐数が多いのは、こういう理由である。


「さて、それでは。詳しい状況を説明してもらおう」

「? 説明、って誰に」

「無論、今まさに足止めを仕掛けていて、生の情報を持っているやつだ」


 と、リオルさんが通信の魔導具を取り出す。

 リーガレオとのやり取りでも使っていたやつだ。ラナちゃん印の、瘴気によって阻害されない特別製。……一抱え程度の大きさなのも、普通の通信魔導具に比べると破格の小ささだ。


 リオルさんは、魔導具についているつまみを調整する。僕も詳しいことは知らないが、互いになんか魔力の波長? みたいなものを合わせることで通信が可能になるらしい。


 ジジ、としばらく雑音が続き、ふとクリアな音が聞こえるようになる。


「あー、あー。セシル、聞こえるか? 今話せるか」

『……聞こえてる! ちょっと魔将とやりあってるから、待ってくれ!』


 まるで嵐のような剣戟の音と、魔導かなにかが炸裂する音が向こうから聞こえてくる。


 って、あれ。なんか音の間隔がおかしい。武器を三本くらい同時に振って、魔導も二、三発合わせてぶっ放してでもいないと、ありえないってレベルなんだけど。

 ……流石に気のせいだよね?


『……よしっ、振り切った! で、リオル、なんの用だい?』

「今、対魔将の人材を集めた。そっちの魔将の情報をくれ」

「わかった!」


 ……と、返事をしながらも、セシルさんは戦い続けているのか、背後から魔物の断末魔が途切れることなく聞こえている。

 き、気にしないでおこう。


『とりあえず、ざっと状況だけ。魔国の首都ザインに向かってた俺は、途中で今戦ってる魔将三人に出迎えられて。魔王のところに一緒に来てくれって言われて、一旦は従って。転移門の魔力のせいで、なんか企んでるってバレたんで、そっちに向かおうとしてる魔将を足止め中だ!』


 ……よく戦いながら一息に言えるな。


『いやしかし、通信用の魔導具もよくここまで小さくできたよ。おかげでこんな状況でも情報共有ができる』


 ……なお、セシルさんの方の魔導具は兜に仕込んでいるらしく。ちょっと雑談で聞いたが、それ一つで屋敷が建つお値段らしい。


「今はそれはどうでもいい。小型化に成功した職人に後で礼でも言ってやれ。それより、魔将の情報だ」

『ああ』


 通信の向こう側で頷くような気配がして、セシルさんの説明が始まった。


『一人目は、魔将ハインケル。二メートルくらいの巨漢。こいつはシンプルに厄介なやつで、身体能力、技、ついでに炎の魔法って感じで隙がない。生み出す魔物も多い。俺が今まで相手してきた魔将じゃ最強で、できればエッゼ君とタッグでやりたい相手だ』


 一度は出迎えられたからか、名前まで添えられた。地味に、戦場で意思疎通するのに助かる。

 ……でも、セシルさんの言う通りなら、この魔将に二人が持ってかれる。残り二人、どう戦力を分けるか。


『二人目、エストリア。女の魔将で、瘴気の翼を広げて空を飛ぶ。あと魔物強化する特殊能力持ってて、上級上位が最上級近く強くなる。一度の強化は多分二十匹前後。流石に最上級の強化は無理っぽいけど、隠し玉にしてる可能性はある。本人は普通の魔将クラス!』


 ……戦力をどう分けるか、と考えているところに、普通の魔物の強化をするやつときたか。

 あと、『普通の魔将クラス』って全然救いにならない。


『最後、お馴染みのランパルドだ』


 お馴染みになりたくはなかったが、しかしあいつは単体だとだいぶ弱い部類だ。少しは目が、


『一番注意が必要だな。魔将の気配を消せるから、今のリースヴィントだとうっかり侵入を許しかねない』


 …………あ゛。


 セシルさんの補足に、僕は内心頭を抱えた。

 わかっちゃいたが、誰一人として余裕のある相手なんていねえ。


『っと、以上! エストリアが空飛んで先行しようとしてるから、足止めに行ってくる!』


 そして、ブツ、と通信が切れる。


 しーん、と、その場が静まり返っ……


「うーし、どいつもこいつも首の刈り甲斐がありそうな相手だな。特に、勇者セシルが最強っつった相手は是非アタシにやらせてくれ」


 ……少しは静まり返れよ、お前は。


「……まあ、それを含めて、先程の情報をもとに作戦会議といこう」


 こほん、とリオルさんが咳払いをして、場を仕切り直す。

 と、そこでシリルがそろ~と手を上げた。


「え、ええーと? こう、ワッと説明されて、私どうも頭がおっついていないんですが。ハインケルに、エル、エストリア?」

「大丈夫、私がメモを取っている。先程のセシルの話を振り返りながら進めよう」


 そうして。


 最後の話し合いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 専用強化かけたエッゼさんってどうなんだろ、歩くだけで最上級が瀕死になってそうだけど。 [一言] >セシルさんの方の魔導具は兜に仕込んでいるらしく。ちょっと雑談で聞いたが、それ一つで屋敷が建…
[良い点] おおお、ほとんどの英雄揃い踏み!! まあ、この状態でリーガレオに攻め込むことはないでしょうしね。 [気になる点] ロッテさん。パワーアップしてません? 前回ランパルドにやられたのが悔しかっ…
[良い点] ロッテさん参戦!! 英雄そろい踏み にはもうちょいかw レイドのおねえいさんは来ないかな? [気になる点] 3魔将 こちらのトップが2人がかりで一体か・・・ 総力戦でもおかしくないか …
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